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ウイバナ考 番外編4 青春永遠論

この「ウイバナ考」をかき始めるきっかけとはワンマンライブ「至誠」を見てからだった。そしてそれから1年3か月が経ち、満を持して再びワンマンライブ「青春永遠論」がUNIT DAIKANYAMAで開かれた。

ライブについてはへいち(HEICHI)氏の秀逸な論評が出ており、これに勝るものはないと思う。

例によってここではド素人の私の個人的感想、ツイート(ポストとは言わない頑固者)した内容を補填していきたいと思う。

まず、今回のワンマンライブは生のバンド演奏(一部か全部か)が入ることが予告されていたが、これには少し懸念があった。何度か行われた“ウイバナバンド”のライブを見たが、「うまくいっている」とはちょっと言えない、課題が少なくないと感じていたからだ。
一つはバンド編成のため、ホーン、ストリングスがなくなり、カラオケよりどうしてもシンプルになる。ウイバナのアンセムのひとつ、「初花」のようなアレンジがドラマティックなものはどうしてもカラオケより“薄く”なる。
また、バンド編成のために「The Gift」はキーを低く移調していた。すると、Aメロの低音が出ずにつまる、という、ウイバナらしからぬ光景も目にした。
そしてなにより、スピード感が出ない。ドラムが強いから重く感じるのか?バンドアレンジだとギター主体でsustainがどうしてもかかるからか?
それこそ、ただのワチャワチャしたカワイイだけの楽曲を歌っている、パフォーマンスをさほど重視していないアイドルが、ちょっと売れると話題作りのためだけに、生バンドライブをすることがある。それを見る限りにおいてはみんな「カラオケよりはかっこよかったね」という感じですんなりやっている。なのになぜウイバナはしっくりこないのか?なんだか「バンドサウンド背負っている」という気負いのようなものを感じていた。

そんな懸念をよそに、ライブはバンドセクションから幕を開けた。バンドメンバーが配置につく、今までと違い、キーボードが入っている。SEの「にんげんっていいな」、リズムセクションの迫力は言うまでもないが、ギターがいつもより軽快に聞こえた。もしかしたらレスポールに変えた?以前はストラトキャスターだったような気がするけれど、気のせいだろうか。エフェクターでいくらでも音色は変えられるのだろうけれど。
そしてメンバーが入場して、問題の「The Gift」で口火を切った。キーは変えたままだが、前回のように詰まることなく歌唱が響き、なんと、今までバンドのときは封印していたダンスがつき、一気に会場を熱狂モードに引き上げた。メンバーとすれば当たり前なのだろうが、修正力はさすがだった。そして「煙」。この曲はタイトルがアイドルソングとは思えない漢字一文字。描いている風景が「白銀の煙」とモノトーンでそれこそ「日本昔話」のような情景なのにメッセージは熱唱系。ダンスも独自の手振りとスクワットが入る力強いもので、とても異色なものだが、この熱さを2曲目でもってくるとは……と圧倒。それから、みんな大好き「Re:Re:resistance」でさらにボルテージを上げた。この曲こそまさに「スピード感命」の最速ロックナンバー。もっとも生バンドで期待された曲であるのにもかかわらず、なかなか疾走感が再現できていなかったが、この場で面目躍如、アクセルべた踏みのスリルを見せてくれた。
最後のブロックもバンドセクションとなったが、そのはじめで演奏された「初花」もバンドでその壮大さを失うことなく表現されていた。まさにウイバナバンドが「完成」した瞬間だった。この課題が払拭されたらもう彼女たちは無敵。大きなライブハウスに歌声はいつにも増して響き渡る。サキマル節が心臓を揺さぶる。マクマキさんのハモりが厚みを増す。シグマさんの高音が駆け抜ける。ユラァさんの爽やかな声がそよぐ。至高の音楽を堪能する空間となった。

今回のライブで印象的だったのは、ツイートでも触れたが、パフォーマンスもさることながら、前回のワンマンライブ「至誠」から、今日までの活動の構成力の巧みさである。凄みすら感じられ、脱帽、舌を巻くしかない、そんな思いだった。
2022年、「初花」というアンセムで駆け抜けて、その年にもう「青春のすべて」という曲を出したのだから度肝を抜かれた。「『すべて』ってことはもう青春は終わりにするの?」と。2023年の単独のテーマともなった「どうせ生きていくんだけどさ」と、青春”後”を唄ったり、さらに「鐘の音」という新たな曲調も取り入れ、成功体験に安住していないのには感心させられた。
そして新たなテーマ「ウイバナでピース」。当初、エイプリルフールのおふざけでやった「エントロピース」で出てきた呼びかけかと思っていたら、なんと、シンボルマークになり、果てには「ピースサイン」というベートーベンの交響曲第9のような壮大な楽曲を送り込んできた。戦争が毎日報道される昨今、世界に向けて伝えたいメッセージだ。
アンセム「初花」がセクションの最初や、対バンの最初の曲、introductionになると「至誠」のころに誰が予想しただろうか?前のワンマンからそれだけ進化を遂げていたのだ。

バンド編成、アコースティックライブなどは他のアイドルグループでも散見するが、「ただやっただけ」にしてしまうところがほとんどである。しかし、今回のワンマンはそれを見事に編成に取り込み、一つのストーリーにまとめ上げている。ピアノセクションは”電子”ピアノだったから“アコースティック”とは言わなかったのだろうけれど(※注)、単楽器伴奏でボーカルをfeatureしたという点ではアコースティックライブを結実させたものに間違いない。これをワンマンライブに組み込むことにより、まるでマーラーの交響曲第5の第四楽章Adajettoのような静謐な、そして感動的なパートを全体の中の必然として組み込んだ。
新曲の展開、この5四半期の活動の、ややもすると日常の延長のような、少しずつの営みをこの場にintegrateさせ、まるで生まれ変わったかのような「創造」をする力、戦略はものすごいとしか言いようがない。

このような、今あるものを無理なく成長させ、それらを統合することによって地に足のついた「革新」をなしとげるのは、とても成熟した姿だ。これらは研究や芸術ではよく見られる。一見、革新的な創造は突拍子もない運と卓越した才能で転がってくるもののように思われている節があるが、それは違う。答のないもの、答が定かでないものにどのようにアプローチするか。今までわかっていること、それらを構造化し、どんな展開ができるかを現実的に対処する。そうやって世に出るのだ。これは普通のビジネスの世界でも、農業でも、なんでも必要とされる普遍的な素養だと思う。
できる人ははじめからできる。私のような不明な人間は研究所に行ってやっとわかった。この態度が身につけば、日々の営みに無駄なことはない。今までやったことが、すべて積み上がって糧となる。まぐれの成功よりずっと価値がある。アイドルで武道館に行けたとしても、ずっとアイドルでいるにはどうするのか。アイドルでなくなったらどうするのか。でも、この統合力をもっていればやってきたことすべてがその後の道をつくる。過去を振り返る必要などない、過去がいつまでも今につながる。生きていくことが「終わらない青春」になる。
昨年の活動が「やや停滞した」向きの発言がちらほらあったが、私はまったく理解できなかった。確かにTIFはなかったし、いまだに実力にふさわしい評価を受けていない。だが、着実にこれだけの前進をしたし、その過程に誤りが微塵もなかったからだ。そして今回のワンマン後も翌日にトークイベント、そして「青春永遠論 - 後日譚編」と休むどころか畳みかけるように歩みを強めている。
「考え方が間違っていない」、これは評価されるより大事なことだ。周囲からの評価で得られるものはいずれ失われる。でも、正しく得たものでないと正しく失うことはできない。正しく歩むことはできている。

話は変わるが、私はずっと「ウイバナの青春とはなにか?」という問いを持っていた。撮影会でのインタビューではこの問いまでたどりつかなかったが、ライブのMCでその答を聞くことができた。
「純粋でいられること」
きっと様々な思いがあり、それを言葉にするのは難しいだろうと思っていたが、納得の一言である。この言葉の含意を確かめに、これからもウイバナのステージに足を運ぶのだろう。

ジツカワショウ氏に「なぜウイバナはアイドルとしてはじまったのか?」と問うたところ、「ジャパニーズカルチャーを背景とするワールドコンテンツを目指しているから」という答が返ってきた。
至極納得。
すべてが説明ついた。海外遠征が定例なのも、日本のアイドル界の清楚系、カワイイ系に傾倒しているトレンドなど眼中にないのも。

年初、アイドルの聖地でもある日本武道館でライブをするアイドルというのはどのようなものなのか見に行った。音楽ホールでもないのに、ことのほか音響がよい。さして歌唱力がなくてもよく響いてそれなりにうまく聞こえる。だが、そんな補助輪はウイバナには要らない。
思ったことは、「武道館はウイバナには狭すぎる」「ウイバナの唄声を轟かせるのには狭すぎる」「ウイバナの唄は世界に響かせないと」今回の代官山UNITも狭い。次回はLIQUID ROOMとなるそうだが、Zeppだろうと武道館だろうと、ウイバナの唄声には狭い。
今回の目玉のひとつだったピアノセクション。サキマルさんのソロ、
M10 Craftsmanの唄声が刺さる。

届け、世界の星となれ


※注:空オケを”OKE"と表記する用例がググっても出てこず悩んでいる。空orchestraならOrch. 英語となった”KARAOKE"の略か?


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