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空き缶と吸い殻

10月5日午前2時半。

少しどころではないほど肌寒くなった秋夜。
ベランダの人工芝を踏みつけながらセブンスターに火をつける。

「はあ、今日も退屈な1日だったな」

音楽を聴きながら感傷に浸っているとLINEの通知音が鳴った。
僕は好きな人からじゃないかと、胸を高鳴らせ携帯を見るが、現実は甘くない。友達からのくだらない内容に失笑しながら「早く寝ろ、ボケ」と返した。
するとふと、好きな人が何をしているのか気になった。既読のつかないトーク画面と睨めっこしながら、「お前が早く寝ろよ、ボケ」と自分に言い聞かせた。

煙草の火が消える瞬間は無慈悲で、途端に寂しくなる。好きな人のことなんか考えちゃったから余計だ。

居た堪れない気持ちになりながら、再び煙草に火をつける。なぜこんなに寂しいのだろうか。
シャッフル再生はきっと僕の心とリンクしている。大好きな曲が流れ始め、いよいよ僕の精神はズタボロになる。

「ほんとに何やってるんだろ」

と画面の向こうの初音ミクは歌う。
ミットシュルディガーは恋人
これが僕の1番好きな曲だ。寂しくて儚くて心地よくて死を連想させる曲。
僕のライフゲージは0になろうとしている。
好きな人はもうとっくに夢の中だろうか。
こんな夜はせめて、彼女の夢に登場したいと願う。
そう、彼女が先日言った
「寝てる時夢に出てきたらリアコだね」
なんて言葉を鵜呑みにしたからである。

タバコを空き缶に押し込み「ジュッ」と火が消える音を確認し、渋々床につこうかと迷っているとまたLINEの通知音が鳴った。
僕はもう何も期待などしないぞと携帯を開くと今度こそ好きな人からの連絡だった。

「はあ、今日も生きていてよかった。」

10月5日午前3時。

僕は心地よい眠りにつく。

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