スローモーション
時が止まって見えた。
いや、正しく言えば、白いソレだけがゆっくりと降り注ぎ、周りの人も、自分も、その空間の中に取り残されたような、そんな気がした。
電光掲示板は赤い文字で運転見合わせを知らせ、イライラするサラリーマンを横目に、私はただソレに目を奪われて気付けばひとりぼっちの世界に入っていた。
街は白一色。
普段は目につかない木々たちも、化粧をしたように映えていてどこを歩いていても知らない場所のようだった。
思わず触れたソレは手のひらでゆっくりと溶け、そしてただ、冷たさだけが残った。
冷えた指先を温めようとポッケに押し込み、地面一面に降り積もったソレに足跡を残しながら、訳もなく遠回りをして家路に着いた。
カーテンを空け、愛猫を抱き抱え、外の様子を見せてみた。猫も私と同じく、興味津々のようだった。
「みぞれ、これが雪だよ。」
それから猫はしばらく窓の前に座り込み、今年最初の雪を、時間の経過も気にせずただ一緒に見ていた。
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