2024年1~3月に読んで面白かった本

四半期ごとの読んで面白かった本シリーズ。

・アイスピックを握る外科医

標本採取の傍らの奴隷貿易、墓暴き、人体実験、ロボトミー手術…と科学に熱中し過ぎて倫理を忘れた人達の話。
一章が短いので読みやすい。

科学者に倫理は必要な一方で、当時の倫理観を無視するような人が一人くらいはいないと人類はここまで発展できなかった可能性はある。
例えば、人体解剖をしたジョン・ハンターが生きていた18世紀当時のイングランドの価値観では死体を解剖するなんてとんでもない話であった。キリスト教の考え方では肉体は死後、最後の審判を受けてから復活するのに必須であったからだ。

倫理は後の時代から見たら馬鹿げた縛りでしかないなのはよくある。
でもそれは結果論。


・戦争請負会社

傭兵稼業は人類最古の職業とされている。国家が兵士を動員する際に傭兵に頼るのはよくある話。近代国家以前の国家では常備軍を維持できるだけの給料を払えなかった。戦争があったらその都度、傭兵を雇った方が安い。

東西冷戦が終わると米ソは軍隊を縮小し始めた。この時の余剰人員が民間軍事会社に流れて、民間軍事会社の売上は増加していく。

常に人を雇うと高くつくからその都度雇うのは企業でもよくある話。

・大冒険時代

100年前のナショナルジオグラフィックの記事を集めた本。世界に秘境があったのは第二次世界大戦前が最後で、それ以降は地球上の大半はあらかた探検しつくされた。

ジェット機の旅客輸送が普及したことで世界は一つになった。

アフリカ探検、アラブ遠征の記事が特に面白い。冒険はいつだって人をワクワクさせる。

・コンゴ河

エンリケ航海王子のアフリカ大陸遠征からコンゴの独立までを書いた本。
歴史の本でアフリカをテーマに扱った本は少なくて貴重。
書面の大半はリヴィングストンとスタンレーの冒険記に割かれている。

サブサハラ以南のアフリカ探検が遅れたのはマラリア、ジャングルや沼地、現地の部族と障壁が多く、象牙以外のたいした資源も無かったから。金をかけてまでやるものではないという認識であった。

帝国主義全盛期になって、野蛮を啓蒙するといったキリスト教の活動が盛んになってようやく探検が進んだ。アフリカ探検の大手スポンサーは教会であった。


・逆転の大戦争史

パリ不戦条約以降、戦争は違法となった。それまでは国家が戦争を行うのは合法であった。というよりは、国家を裁ける裁判所が存在しなかったという方が正しい。

グロティウスの自然権、国際法、宣戦布告のルール、経済制裁と戦争に関わる法律について詳しく書いてあって面白かった。

個人は不当な掠奪や権利の不履行に対して、暴力で訴える権利を生まれながらにして持っているが、法治国家内では暴力や制裁を行う権利を国家に譲渡している。このため、法治国家内での正当防衛以外の暴力は認められない。
「なにかあったら法的な手続きをしてね」という意味だ。

法と契約は何なのかについてもわかる本。


・ダーク・スター・サファリ

カイロから南アフリカ共和国のケープタウンまで陸路で横断した人の旅行記。
著者が国際支援の現場にいたからなのか、国際支援をボロクソに叩いているのが面白かった。貧しい国に援助をしても、独裁者がピンハネしてしまう。それでは永遠に貧しいままだ。

腐敗した独裁者は国の発展なんて考えていない。永久に貧しい国でないと国際支援が受けられなくなる。

アフリカの辺境には宣教師がどこにでもいるのに驚いた。アフリカの貧しい人を信者にして教団を強くするのだ。


・エネルギーの人類史 上下

経済活動は手元のエネルギーを投資して、どれだけより多くのエネルギーを得られるかにまとめられる。

人類が使えた動力源は長年、人力か馬かのどちらかであった。都市近郊に馬の牧草地がどれだけ確保できるかが、経済活動の上限を決めていた。

蒸気機関の発明、更にそこから石油を動力源とした社会への移行によって人類は豊かになった。庶民がそこそこ豊かに暮らせるようになったのは19世紀以降の話で、18世紀までは庶民の生活水準は中世の基準とたいして変わらなかった。

化石燃料が優秀過ぎて再生可能エネルギーへの移行が進まない話は面白かった。太陽光や風力だけでは石油の代替エネルギー源にはなりそうにない。

スエズ:レセップスの運河

スエズ運河の歴史について今まで読んだ中で一番詳しい本。
英国は最初、運河の建設には反対の立場であった。

当時はアレクサンドリアからスエズまでは鉄道で輸送して、スエズでまた船に乗せるといった手法を取っていた。このため、運河があると鉄道利権が脅かされると考えたからである。

スエズ運河が完成して、運河がドル箱になるとわかると英国はロスチャイルドから金を借りた。借りた金でスエズ運河株式会社の株式を買収したのである。

フランスとエジプトが作ったのに美味しい運河利権は英国に取られた。
フランスは普仏戦争で金が無かったし、エジプトの総督も外債の発行し過ぎて債務超過を起こしていた。

英国の立ち回りの上手さがわかる。

まとめ

2000年代以前の本を読むことが増えた。2000年代以前だと取り扱いがほとんど無いためプレミア価格がついた古本が多い。つまり、図書館で借りるとお得。

歴史の本は昔の本でも内容が色あせない。マイナーなジャンルの本だと昔の本しかないというのはザラ。


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