某徒手格闘について思ったこと。

“構えと突き”


「俺たち日本人は体格的に力で白人には勝てないの!だから“型”を磨いて、撃力を発揮できるようにしないと勝てないの!!」

 これはかつて某組織に居た時の先輩の御言葉である。未だに空間動作の演練をする度に頭の中で反芻している。
 殆どの軍事的な組織での徒手格闘の位置付けは素手にせよ武器にせよ、ありとあらゆる手段を以て相手を殺傷もしくは捕縛する為の白兵戦における実質的な最終手段である。多分
 筆者は格闘が好きだ。というより、戦いを模した分野全般が好きかもしれない。だが、恥ずかしながら練度は熱意に及んでいない。どうしようもない事に、下手の横好きのイデアが筆者である。「語れる練度じゃねぇじゃん」という声が知人達から聞こえてきそうだが、全く以て仰る通りである。
 とはいえ、所見を述べるぐらいは容赦願いたい。


★ーこの構えキツくないー?★
 
 徒手格闘(以後、徒格)、ここでは自衛隊のものを挙げたい。尚、筆者が言う「徒格」とは陸上自衛隊で言うところの2007年以前の「旧格闘」である。
 徒格とは、昭和30年代に日本拳法(日拳)、空手、柔道等の要素を取り入れた格闘技術であるーという蘊蓄はここでは省かせて頂きたい。
 徒格においては基本構え(正中線を正面に向ける)と左構えがある。ここでは左構えのみ語らせて頂きたい。

 徒格における左構えとは、脚を肩幅に開き、前脚を相手に、後脚を斜め45度外に向ける。両脚とも踵に紙一枚入る程度に浮かせ、膝は軽く曲げる。棒立ちはNGだ。一回ジャンプして膝が軽く曲がる程度に重心を落とした位置がベストだろう。兎にも角にも脱力し、足捌きをスムーズに行えるようにする。体重は前脚、後脚の比率を6対4か7対3にしておく。ここまではその他の格闘技の構えとさほど差がないと思う。少なくとも筆者が学んでいるクラヴマガでの下半身の作りは同じだ。
 ところが、上半身(手)の作りがボクシング、クラヴマガとは大きく違う。先ず拳の作りだが、小指側から順に指を握り込む。親指は人差し指と中指の第一関節よりも爪側に畳む。前拳は伸ばし過ぎないように伸ばし、脇と体側の間に卵一つ分の隙間を空け、相手の顎に指向する。後拳は鳩尾(翠月)のを護るように構え、拳は相手に指向。正面から見たら左右の拳がハの字になるように、親指側を内に傾ける。丹田(臍の下)に力を込めれば構えは美しくなる。
 やってみれば分かるだろうが、この構え、「キツい」。とにかく「キツい」。慣れてないとコレで「脱力せよ」は無理がある。 
「お前が下手なだけだろ」と言われるかもしれないが、残念ながら今まで教えを請いてきた部隊指導官達は皆一様に「キツいに決まってんだろ」と即答した。凄腕達がそういうのだ。人一倍運動オンチな筆者がキツくないわけがない。また、初めて触れた格闘技がボクシングだったのもあり、全く違う構えにだいぶ苦労したが、今となっては最もしっくり来る構えになってしまった。慣れとは恐ろしいものである。
 筆者は(先ず徒格を磨けば良いものを)クラヴマガ(イスラエル国防軍発祥の格闘技術)やエスクリマ(フィリピン発祥の格闘技術)、ムエタイ等にも手を出してきたが、どこの道場に行っても染み着いた徒格の構えのせいで職業がバレた(自分から名乗ったことはないが、どこの道場に行っても同業者は必ず居るので、同業の被教育者及びそれらを指導してきた教育者からすれば簡単にバレるのだ)。また、徒格の特徴がもう一つある。それは「縦拳」という、突き方である。


★縦拳★

 徒格(というより日拳)、ジークンドー、少林寺等のアジアの格闘技は縦拳で突くものが多い。一方で、ボクシング、クラヴマガ等の西洋格闘技は横拳が多い。
 父親からボクシングを仕込まれてきた筆者であるが、父親は少林寺拳法及び日拳の歴が長く、筆者はボクシングにも関わらず縦拳を仕込まれてきた。そのせいでクラヴマガを学ぶに当たり、横拳(正拳突き)の習得に苦労した。
 縦拳だが、徒格等の構えの状態で握った拳をストレートに前に出すだけの動きであり、速力を発揮しやすい。そのため、横拳に親しんだ者でもなければ、最初に習得しやすい。突く速力が速ければ、引く速力も速くなる。即ち、次の突きを突く速力も速くなる。でんでん太鼓の動きを思い浮かべて頂きたい。腰から肩の回転による交換作用が連撃の肝である。
 一方の横拳であるが、手首を内旋させる事により、肩関節のロックが掛かり、拳1個分リーチの差が生じる。押し込むような突きが出来るため、ジャブなら縦、ストレートなら横という使い分けを筆者は行う。右胴突きなら横拳一択である(筆者なら)。
 バディ組んでミットでトレーニングしてみたら、撃力や速力の違いが非常にわかりやすいと思う。実際、横拳の方が比較的押し込むような重い突きを繰り出しやすい。また、ナイフを使った格闘になると、縦拳の構えしか出来ない場合、肋骨に阻まれて刃が心臓まで届かない。武器術を習得するなら横拳は技術としてマストだと思う。

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