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『味はひとつ【改】 』
とある冬の、下町の商店街。
「へぃらっしゃい!」
食事時を過ぎたラーメン屋に、男がふたり。
学生風の若者と、眼鏡をかけた小太り中年の組み合わせ。
ふたりはカウンターに腰掛ける。
「ラーメンふたつ」
注文を受け、麺を茹で始める店の大将。
その様子を一心に見つめるふたり、他の客とは明らかに違う。
(何だこの気迫!?ラーメンマニアか!?)
そうならば、大将も負けじと気合いを込める。
店主と客ふたりだけの熱い空間。皆、無言だ。
「お待ちどう!」
熱々のラーメンを食べ始める客たち。
「間違いないな」
低い声を出す中年の客。
「はい……!」若者は震える声でスープをすする。
中年は立ち上がると大将へ向いた。
「私、探偵の闇音小路と申します。この子は貴方の息子さんです。私は依頼を受け、幼い頃に食べていた父親のラーメンの味の記憶を頼りに、ここへ辿り着きました」
大将の眼が見開く「そんな。まさか、お前……」
「父さん」
ホールに出てきた大将が子へ詫びる。「すまなかった……!」
「いいんだ、訳は母さんから聞いた。でもどうすれば探し出せるか……時間がかかってしまって」
両手を握り締め合う父子。
「積もる話もあるでしょうから、私はここで」探偵はふたりへ挨拶をする。
「ほんとうに、なんて御礼を言ったらよいか……」若者は頭を下げる。
「いえいえ。こういう事は得意ですので」はにかむ中年。
「とても美味い。コシのある麺に、絹のように滑らかで、それでいてコクのあるスープ。大将のお人柄と仕事ぶりを如実に語るもので……また食べに来ます」。
店の外は木枯らしが吹いているが、ラーメン探偵は笑顔だ。
「味は、ひとつ」
あたたまった体をゆすりながら、歩き出した。
(了)
(2013年作『味はひとつ』を改稿)
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