見出し画像

#53 金糸梅と花片喰

 筆者の住まう相模大野には周辺住民から「でかマン(でかいマンション)」と通称される高層マンションがあり、どこからでも見えるランドマークともなっている。その敷地周辺の植栽は四季を感じさせてくれる花も多い。今はちょうど金糸梅(キンシバイ)の黄色が見ごろである。
 金糸梅は、オトギリソウ科オトギリソウ属ビヨウヤナギ節の半常緑小低木で、樹高は1m程度である。中国中部から南部が原産地であり、中国名の「金糸梅」をそのまま和名としている。梅に似た5枚の花弁と金の糸のような長い雄蕊から命名された。花期は梅雨時の初夏(5月~7月)である。我が国には江戸時代の宝暦10年(1760)に園芸種として招来されたという。日本列島にも自生する同属のオトギリソウ(弟切草)は、外傷治癒に効く薬草として著名であるが、金糸梅は観賞用として輸入された。現在でも庭木や公園樹としてよく用いられており、珍しいものではないが、温暖湿潤な気候を好むことから東北・北海道では見ることが少ない。
 今の季節の花としては花片喰(ハナカタバミ)の異称でも知られる紫片喰も咲いている。ピンクの花弁が特徴的で、以前書いた黄色の片喰と同じく、足元に咲く雑草のような小さな花だが、片喰に比べると花茎が長く、葉も大きい。やや密集して咲くことも多いため、片喰よりは目立つ存在である。南アメリカ原産であり、幕末頃に観賞用として招来されたという。花期は主に春から初夏にかけてであり、片喰と同じく種子ではなく鱗茎を分化して増殖する。旺盛な繁殖で知られ、駆除の困難な強雑草とされることもある。
 なお、厳密なことを言うと、花片喰とは同じく幕末頃に輸入された西洋片喰の異称であり、花弁は3㎝ほどと少し大きい。原産地は同じとされるが、あまりよく分かっていないらしい。紫片喰は桔梗片喰とも呼ばれる。同種で花色の濃い芋片喰はより花茎が長く密集して咲く。これら3種は混同されることが多いが、紫片喰は花弁中央がやや白くなり、花弁全体も細めであるため区別しやすい。
 それにしても、以前木香薔薇(モッコウバラ)について書いた際も思ったが、江戸時代の園芸文化は異常なほど盛んであり、鎖国下でありながら中国原産の植物を多く輸入している。はじめは支那趣味の一環として捉えようともしていたが、園芸趣味のためなら国境などいくらでも越えられるというわけだ。

紫片喰

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?