見出し画像

#54 梔子と山茶碗

 初夏の花としては梔子(クチナシ)も咲き始めている。楽曲の歌詞に使われることも多いため、日本人には馴染み深い花であるが、実際の姿を分かっている人は少ないであろう。アカネ科クチナシ属の常緑低木であり、庭木や園芸種として人気がある花木である。樹高1~3mほどに成長し、花期は6月~7月で、一重咲きの白い花弁は6~7枚が多い。品種改良された園芸種には八重咲きのものもあるらしく、学名をとってガーデニアと呼ばれる。強い芳香があり、沈丁花(ジンチョウゲ)、金木犀(キンモクセイ)とともに三大芳香花と呼ばれることもある。クチナシの語源には諸説あるが、秋に赤い果実が結実する際、上部に咢が残るため、口(クチ)のあるナシ(梨)からクチナシと呼ばれたらしい。中国名は山梔であり、梔子の表記もこれに倣っている。ちなみに、近隣種はコーヒー豆の採れるコーヒーノキであり、同じような芳香のある白い花が咲き、秋には赤い実(コーヒーの実)が結実する。
 原産地は中国、朝鮮半島、台湾、インドシナ半島、日本列島など東アジアにあり、広く自生している。我が国でも古来より親しまれた植物であり、果実は消炎、利尿、止血、鎮静作用のある生薬・漢方薬の原料となるほか、染料・着色料としても著名である。
 特に、染料としては古墳時代から使用されていたと推定されており、平安時代の十二単に用いられる支子色(くちなしいろ)は、少し赤みがかった黄色として知られる。梔子の天然色素クロシンは、サフランと同種の色素であり、無害のため食用にも多く利用されている。有名なところでは栗金団やたくあん、郷土料理の黄飯(きいはん・おうはん・きめし)などが知られる。様々な食品の原材料表記をよく見れば、「クチナシ色素」と明記していることは珍しくないという。また、花弁そのものを食用とする地域もある。
 なお、筆者が梔子をじっくり見たのは、数年前、静岡県島田市(旧榛原郡金谷町)に近世の志戸呂焼の窯跡出土資料を見学に行った際、地元の方に山茶碗が拾えるという場所へ連れて行ってもらい、その散布状況を見ていたときであった。茶畑の脇に大きな梔子の木があり、ちょうど白い花が咲いていた。根元には山茶碗の破片が多く落ちており、感動した思い出がある。
 山茶碗とは、東海地方で平安時代末~室町時代(12~15世紀)頃にかけて生産された無釉陶器であり、庶民用の雑器とされる。もともとは灰釉陶器など施釉陶器の系譜を引くが、施釉を放棄し、無釉の大量生産品を焼くようになったという。碗と小皿が主な器種である。須恵器のような無釉だが、窯内で灰がかかり、緑色の自然釉を発色することも珍しくない。消費圏は生産圏とほぼ重なり、地元で使われる生活雑器であったと考えられている。

山茶碗

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?