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#12 雲谷考

 青森市民にとって雲谷(もや)といえば、スキー場のことである。かつては雲谷スキー場と呼ばれていたが、平成10年(1998)にモヤヒルズと改称されてリニューアルオープンしている。青森市営のスキー場である点は変わっていない。筆者も家族と1度、小学校の授業でも1度来たことがあるが、正直言って滑るスキーは苦手で、青森出身なのにスキーできないのかと驚かれることがある。
 雲谷は、正式には雲谷峠というらしいが、陸奥湾から見上げると三角形の立派な独立峰(標高553m)であり、峠ではない。地元民からモヤノトンケと呼ばれていたものを雲谷峠と表記したという。地名由来としては、坂上田村麻呂による蝦夷征伐の際に雲谷周辺の女酋長オヤスと弟トンケイが頑強に抵抗したとの伝承があり、ねぶた起源譚の一つにもなっている。雲谷(もや)はアイヌ語起源の地名と考えられており、「聖なる山」を意味するモイワが訛ってモヤになったとされる。北海道におけるモイワ地名は、すべて独立丘・独立峰に由来しており、最近読んでいる筒井功著『近代・東北アイヌの残影を追って』(河出書房新社、2023年刊)によると、北東北にのみ残る12箇所のモヤ地名もすべて独立丘・独立峰に由来している。青森県青森市雲谷峠、五所川原市靄山、十和田市大母屋・小母屋、岩手県軽米町靄岳、一戸町茂谷、秋田県八峰町母谷山、藤里町茂谷山、大館市茂屋方山、大館市靄森、鹿角市茂谷山、能代市茂谷山、仙北市靄森山がそれである。みな三角形かお椀形の立派な山であり、しかも低山である点が共通しているという。
 雲谷がアイヌ語地名であることはほぼ間違いないと考えられるが、トンケは判然としない。沼や川に由来するともいうが、よく分からない。また、山麓に神社があることが多いらしく、聖なる山の伝統が息づいているのかもしれない。周辺に鎮座する雲谷稲荷神社は、かつて山頂にあったといい、前述の蝦夷トンケイが建立したとの伝承がある。

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