人生のハイライト:げろ

小学生。毎週月曜日、全校朝礼。
わたしの一番嫌いな時間。
月曜の朝は、必ずお腹が痛くなった。
朝礼が始まり、校長の話を聞く。
背の順で並んでいる時の、前の子の瞬足スニーカー、忘れられない。
校舎の壁にある換気扇が、太陽でぴかぴか光って眩しい。
履いているハイソックスを上に上げる動作で、なんとか体調を保とうと努力する。
が、大抵目の前が見えなくなる。
気持ちが悪くなって、目を開いていられなくなる。勝手に高速の瞬きが始まったら限界。
そこでしゃがめば逃れられる。だが、全校生徒全員が立っている状況でしゃがむのは、幼い私にとってすごく勇気のいることだった。
だいたい吐く。嘔吐して、どうするべきかわからず、吐瀉物をその場に残して自ら先生を呼びに行く。惨め。
保健室はほとんどいつも1人。朝礼が終わって戻るか、2時間目から戻るか。
一度だけ、給食の時間までよくならなくて、クラスメイトが給食を持ってきた。1人で食べたあの時の献立、ケチャップのかかったソーセージ、フォークに刺すのに苦戦して、保健室の机をころころ転がっていった。
朝礼の退場で流れていた、ドラクエのテーマソング。今でもトラウマ。

朝の漢字ドリルの時間にも吐いた。立っていたら具合が悪くなるのだと思いきや、座ってる授業もだめだった。また保健室。
回復して戻ると、私の机は消毒されて、教室の後ろに下げられている。

また別の時間に吐いた時は、私の四角い筆箱が汚れた。廊下で、先生と2人で筆箱を洗った。中身の鉛筆とか消しゴムとかも。
授業中ではなかったから、みんながわいわい騒いでる廊下で、ゲロまみれの筆箱を洗うのは、すごく居心地が悪かった。

算数の教科書もだめになった。国語の教科書に吐いたこともあるけど、それは洗ってぐにゃぐにゃのまま使用した。
小学校の教科書は一般的な書店には売っていないから、入手に時間がかかる。
算数の時間。少人数授業で、隣の席の知らない男子に、忘れたから教科書みせてといった。
本当は忘れたんじゃなく、ゲロで使えなくなったのに。

友達に、吐いた時どんな気持ちなの?と聞かれた。
知らない保護者に、大丈夫?とわざわざ心配された。具合悪くない日だったから、私はそんな有名なのかとショックだった。
初めて話す他のクラスの友達にも、体調辛いよねと心配された。

学校だけでなくて、電車でも吐いた。
祖父といった山でも吐いた。
温泉でも吐いた。

中学生にあがっても、高校生でも大学生でも、
何も変わっていない。
流石に我慢して吐いてしまうことはないけれど、気づいたら高速瞬きが始まって、終わり。

部活の練習に向かう電車、最寄りからたった一駅でだめだった。そんなに仲良くない子とのディズニーでも具合悪くなって、めちゃくちゃ気まずい思いをした。申し訳なくて、帰りたかった。
スキー教室の開会式でも、突然目の前が何も見えなくなって、クラスメイトに先生のところまで連れて行ってもらった。
具合悪くなっちゃって、先生どこにいる?何も見えないっていうの、すごく惨めだった。
新しく始めたアルバイトでは、3回連続でなって、毎回早退して、そのまま辞めた。さすがに続けられなかった。
それ以外のバイトでも、何回かなって、早退した。
成人祝いの時計を探しに行った時もなった。突然店を飛び出して、外でしゃがみ込んだ。
卒業袴の前撮りでもなった。とんでもなく迷惑をかけた。

小学生の時に病院に行ったけど、何も異常はないと言われた。大学生で行っても何も異常はなかった。ただ、その時の貧血検査でも同じく瞬きがして立っていられなくなった。貧血ではなかった。

今になって、恐らく迷走神経反射だろうもいうことがわかったけれども、私はこれに左右されすぎている。
治療法、調べたけれどないみたい。
小学生から大学生まで、常に自分の体調に怯え、気をつけても具合は悪くなり、自分への呆れでいっぱいになる。
生きにくい。
小学生の時、またかと言われた。
そんなの自分が一番思ってる。またか、またか、またか、またかと。もう勘弁して。
いつまで振り回されるのか。
具合が悪くなると、これまで対等だった関係から、その瞬間、気を遣わなければならない対象となってしまう。心配そうな顔や、声掛けが、すごく辛い。これまでの楽しい雰囲気が、一気に崩れる。回復しても、大丈夫?と心配される。
もう懲り懲り。
早く寝ても、栄養ドリンクを飲んでも、何をしても防ぐことはできない。
なんの前兆もなく、突然、目の前が見えなくなる。気持ちが悪くなる。
小学生から、ずっと苦しめられてきた。私は具合悪くなんかなりたくない。
もういやだ。私ばっかいやだ。
将来良くなる保証もない。
別に常に具合悪いわけでもない。自分でもわからないタイミングでダメになる。すごくいやだ。
理不尽。神様理不尽すぎ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?