生誕250周年「1か月でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタと16曲の弦楽四重奏曲と9曲の交響曲をぜんぶ聴く!」②

2日目「初期の傑作『ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調作品7』を聴く!」

1か月で57曲を聴きとおす試みですが、2日目はピアノ・ソナタ第4番変ホ長調ただ1曲だけを聴きます。というのも1日目に聞いた作品2のピアノ・ソナタ3曲(第1番ヘ短調、第2番イ長調、第3番ハ長調)にくらべてその内容も規模も大きく飛躍している1曲だからです。ベートーヴェンの作曲人生は、作品のスタイルや内容から前期・中期・後期に分類されますが、ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調はあきらかに初期の傑作といえます。

第1楽章は、強い拍と弱い拍のパターンを変えるシンコペーションが印象的でめまぐるしくパッセージがくり出されます。ピアノ音楽に優雅さや優美さを求める人には不評でしょう(笑)。10代のころからすぐれたピアニストとして知られていたベートーヴェンはこのころ(1796~1797年)、伯爵の令嬢にピアノを教えるなどピアノ教師として貴族と関係を築きます。ピアニストとして、ピアノの可能性を追究して広げていこうという決意表明ともいえる1曲です。

全曲をとおして第2楽章がもっとも長いのも大きな特徴です。美しいメロディーを提示して、それを展開するだけにとどまらず劇的な表現へと変化させながら連綿と音楽をつむいでいく構成力の高さが印象的です。第3楽章は3拍子の軽快なフレーズが奏でられて、ここまで息づまるような展開ばかりだった曲のなかでほんのひとときホッとできます(笑)。それでも中間部分はいかにも弾くのがむずかしそうな不穏な雰囲気の激しい音がゆきかいます。

この曲が初期の傑作とされるのが第4楽章のゆたかな構造とその規模です。冒頭こそ楽しげな「ロンド主題」で始まりますが、それがさまざまに表情を変えて展開されていきます。ここにはめまぐるしさ、激しさがあり、たたみかけるようなパッセージの応酬があります。そしてときおりおだやかなメロディーが奏でられるなど、まさに千変万化の表情を見せます。

ベートーヴェンは全部で32曲のピアノ・ソナタを出版しましたが、この第4番変ホ長調はのちに書かれる第29番変ホ長調『ハンマークラヴィーア』(40~45分かかる大曲)に次いで演奏時間の長い曲になりました。

つづく作品10のピアノ・ソナタ3曲(第5番ハ短調、第6番ヘ長調、第7番ニ長調)とくらべても明らかに内容・規模が大きい1曲です。この特別な1曲をしっかり味わうためにも、2日目はこの1曲だけを聴いておきたいと思います。








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