生誕250周年「1か月でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタと16曲の弦楽四重奏曲と9曲の交響曲をぜんぶ聴く!」④

4日目「名曲『ピアノ・ソナタ第8番ハ短調“悲愴”』と作品14のピアノ・ソナタ2曲(第9番ホ長調、第10番ト長調)を聴く!」

1.ピアノ・ソナタ第8番ハ短調『悲愴』作品13

4日目になってようやく、だれもが知っている(であろう)名曲が聴けます(笑)。この曲に関しては、第1楽章の冒頭からとにかくドラマティックなフレーズと展開が印象的で気づいたら全曲が終わっていたというのが正直な感想ではないでしょうか。さすがに名曲と言われるだけのことはありますね。いきなり打ちつけられる和音につづく静かな展開と激しくドラマティックな盛り上がりは何度聴いてもベートーヴェンのすごさを実感せざるをえません。とにかくメロディーが印象的で、1度聴いただけで耳に残ってしまいます。そして一気呵成にたたみかけていく構成、どこをとっても名曲と言わざるをえません。

一転して第2楽章は美しいフレーズが連綿と歌われていく構造。このコントラストも実に見事というしかありません。この曲が出版されたのは1799年で、ベートーヴェンは29歳。作曲家として最初のピークを迎えていたことはまちがいないでしょう。

第3楽章も印象的です。悲しくて激しいパッセージとその展開には、どこにも余計な部分やムダなところがありません。曲としての完成度が抜群です。ベートーヴェンの作品のなかでも、とくに有名で印象的な曲なのでよく聴くという人や好きだという人も多いと思います。まだ聴いたことがないという人のために、YouTubeで演奏を公開しているピアニストのリンクを貼っておきます。

ヴァレンティーナ・リシッツァ(Valentina Lisitsa)というピアニストの演奏です。


2.ピアノ・ソナタ第9番ホ長調作品14-1

初期の傑作、作品13のピアノ・ソナタ第8番ハ短調『悲愴』につづいて作品14として出版された2曲は一転しておだやかで美しい曲です。最初の1音から聴き手を引きつけるような激しさは消えて、軽やかなメロディーで始まってそれが展開されていきます。2曲とも3楽章形式ですが、この第9番ホ長調の第2楽章がアレグレット(Allegretto)となっているのが特徴的です。というのも、こうした3楽章形式の場合、第2楽章はアンダンテ(Andante)などのゆっくりとした速度記号が多いからです。ピアノ・ソナタ第6番ヘ長調作品10-2も第2楽章がアレグレットでした。軽快なメロディーがそれほど深刻さを見せずに展開されていく第1楽章、少し憂いを帯びた第2楽章、コロコロと前へ進んでいく第3楽章とコンパクトにまとまっている曲です。ベートーヴェンはのちにこの曲を「弦楽四重奏曲ヘ長調」に編曲しています。

3.ピアノ・ソナタ第10番ト長調作品14-1

同じ作品番号のピアノ・ソナタ第10番ト長調も軽やかで愛らしいという印象の1曲です。第2楽章はアンダンテの指定がありますが、行進曲のようなメロディーが姿を変えて3つに変奏されていくのが印象的です。「変奏曲」というと、グレン・グールド(Glenn Gould)の演奏で有名なヨハン・セバスティアン・バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を創造する人も多いと思います。1つの主題を提示して、それをさまざまな表情をもつフレーズやパッセージへと変化させていく変奏曲は作曲家のウデのみせどころかもしれません。「きらきら星」の愛称でだれもが知っているモーツァルトのピアノ曲は主題と12の変奏で構成されています。「トルコ行進曲つき」と呼ばれるピアノ・ソナタ第11番イ長調K.331の第1楽章も主題と6つの変奏です。第3楽章はコミカルでリズミカルなメロディーが印象的です。

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