生誕250周年「1か月でベートーヴェンの32曲のピアノ・ソナタと16曲の弦楽四重奏曲と9曲の交響曲をぜんぶ聴く!」③

3日目「作品10のピアノ・ソナタ3曲(第5番ハ短調、第6番ヘ長調、第7番ニ長調)を聴く!」

3日目は「作品10」として出版された3曲を聴きます。

1.ピアノ・ソナタ第5番ハ短調作品10-1

作品2の3曲と同じく、この3曲もそれぞれスタイルや個性が異なるのもベートーヴェンの強い意欲が感じられます。もう1つ大きな特徴が、この第5番ハ短調と第6番ヘ長調はともに3楽章で書かれていることです。印象的なフレーズを提示してそれを展開させていく第1楽章、おだやかで美しいメロディーの第2楽章、複雑な構造でめまぐるしい第3楽章というスタイルが凝縮されています。

第1楽章は叩きつけるようなパッセージで開始されて、躍動感のある展開を見せます。左手のめまぐるしい動きに支えられた第2主題と印象的な第1主題とが交錯していく構成がみごとです。第2楽章はおだやかで優美なメロディーが提示されながら、激しい展開も。第3楽章は不穏かつリズミカルなパッセージされて、それが多彩な表情へと変化していきます。

2.ピアノ・ソナタ第6番ヘ長調作品10-2

第5番ハ短調の出だしとちがって、第1楽章はおだやかなメロディーで開始。どこかユーモラスな展開がユニークな印象を与えます。そのかわり第2楽章がこれまでのようなおだやかでおちついた感じではなく、リズミカルな主題で始まります。なんとなく不気味さが感じられるフレーズとその展開が印象的です。その第2楽章を受けて、早いパッセージがめまぐるしく発展していくのが第3楽章です。ここは音楽を味わうというより、ピアニストの“腕”が堪能できるような構造です。

3.ピアノ・ソナタ第7番ニ長調作品10-3

同じ作品10の第5番ハ短調と第6番ヘ長調がともに3楽章だったのに対して、第7番ニ長調はふたたび4楽章になっています。どこかコミカルなフレーズで始まりますが、これがもはや“お家芸”ともいえる展開を見せます。流れるようなフレーズとパッセージが混然となって進んでいくさまは、ピアノ音楽を聴く醍醐味を感じさせてくれます。

第2楽章は、第4番変ホ長調と同じく長く複雑な構造が印象的です。ベートーヴェン自身が「悲しげに(mesto)」と書きこんだと言われるフレーズが悲劇的に、連綿と発展していきます。この第2楽章の構造と強い印象は、これまで聴いてきた6曲のピアノ・ソナタにはなかった魅力の1つです。

悲しく深刻ささえ感じさせた第2楽章を払拭するように美しく軽快なメロディーが癒しのような感覚を与える第3楽章につづいて第4楽章はフッと力の抜けたフレーズで始まって怒涛のように展開していきます。前半2楽章が複雑で重々しかったのにくらべて、後半2楽章は軽快さと快活さを感じさせる構造になっています。



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