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昭和9年刊行のあの名作をBL目線であらすじすべて紹介してみました1

※こちらは今をさること18年まえに、わたしが三上於菟吉『雪之丞変化』を読み、その壮大なラブロマンスぶりにびっくりして友人知人にふれまわり、しかしながら当時のきなみ品切れだったものでふたり三人くらいにしか理解を得られなかったのでもう自分がなににハマってるのか相手とのコミュニケーションを成立させるためにぜんぶ説明しようと本にしたものです。
したがって全編をネタバレしています。
ネタバレも辞さないわというかた、もう本編読んでるからというかたのみどうぞおすすみください。
あと18年まえなのでいまとちょっと自分のモラルもちがう気はしますがそれはそれでいいかと当時のパッションを大事にお送りします。
では。


●まえがき

 はじめまして、こんにちは。 羽太と申します。
 このたびは、このような本をお手にとっていただき、ほんとうにありがとうございます。
 無料配布でしかも妙にあつい謎の本ですがこれはいったい何なのかというと、わたくし羽太が先日、 三上於兔吉先生の『雪之丞変化』 を読んだところ、 そこに出てくる主人公と相棒がどうしょうもなくアレで「文学史とか載ってる本なのに名作なのにどうなのこれ!」とおもい、 たぎるもえを四方八方にぶつけてみたのですが作品自体が古すぎてだれも知らないし読んでもくれなかったので脳内自家生産で地道に布教していこうと画策したものです。
(長い)
 おひまつぶしにでも、読んでいただければさいわいです。 そしてちょっとでもこの「大衆文学史に残る傑作」というベールに包まれたトンデモ世界に興味を持っていただければ、これにまさるよろこびはありません。
 ・・・読んでくれたらもっとうれしいです(ぼそ)
 ただより高いものはない、 の精神で、暑苦しく愛をもさもさ語っていこうという魂胆ですが、よろしければどうぞ、おつきあいくださいませ!
2006.8.19 羽太拝

● 『雪之丞変化』
『雪之丞変化』は東京朝日新聞で1934(昭和九)年11月7日から1934(昭和一〇)年8月22日まで連載されました。
当時はすごい人気で映画とか人形劇とか舞台とかばりばりなった名作です。 NOKでも人形劇になったり。
映画なんて主演が美空ひばりとか長谷川一夫とかです。
おじいちゃんおばあちゃんに聞いたらきっと知ってます。
そいで現在のきなみ絶版です。 (...)

⚫︎よくわかる人物紹介
★雪之丞(17) 主人公 役者/本名:松浦雪太郎
元は長崎で代々聞こえた物産問屋・松浦屋の一粒種。
七歳のころ、時の長崎奉行や商売敵の奸計にかけられ生家が没落。
父母を亡くしたのち、 貧乏役者・中村菊之丞に拾われ旅の一座に入る。生来の美貌と機転で一座を支え、 大坂一の女形と謳われるまでに成長。 巡業先の江戸でも大評判をとる。
役者稼業は世を忍ぶ仮の姿、実はちいさいころから復讐のため身を鍛錬し生きてきたのでものすごく強いうえに賢いのだけども復讐のことしか頭にないせいか、それとも師匠たちがかわいがるあまりガードしまくったせいかちょっと情操に問題があるというかたぶんこのひとこどものつくりかたとか知らないんじゃないだろうかとおもわれる節が頻々。 役者なのに。 色気を武器に仇の娘をたぶらかしているはずなのに。
登場人物の9割は老若男女の別なくこのひとに惚れる。
清楚できまじめでわりと天然。
長崎小町と呼ばれた母と瓜二つの容姿。

やみたろう
★闇太郎(20代前半)… 義賊
江戸一番の大盗賊。 元は武士の家の出で、父親が上役に嫌われ切腹させられたことから世を憎み無頼の徒に。 飄々と悪をくじき弱きを助ける、粋でいなせな色男。 強い。かっこいい。それはもう滅法かっこいい。困窮のどん底で友を助けられず見殺しにしてしまったという暗い過去を胸に秘めている。女ぎらいが珠に疵。
江戸に来てまだ右も左もわからない雪之丞がごろつきにからまれたところを助けたことが縁のはじまり。ひと目出会ったその日から雪之丞にめろめろ(死語)で、 運命だの宿世だのと云いながら復讐を手助けし、陰ひなたになり世話を焼く。
雪之丞への愛は物語の進行とともにどんどんすごいことになる。たぶん奥歯に加速装置とかついてる。
昼間は腕のいい牙彫職人。

★土部浪路 ( 18?) 将軍寵妾
雪之丞が仇と狙う男 土部三斎の娘。
大奥一の美女。 将軍寵姫としてこの世の栄華を尽くす。 しかし「わたし、このままえろじじい将軍のために青春費やしてていいの?」と絶賛自分見つめなおしキャンペーン中、 芝居見物に出かけたところで雪之丞にひと目惚れ。 雪之丞が自分を利用し復讐を遂げようとしているとも知らず、 一途な愛を貫く。 でも権力にものを云わして雪之丞を座敷に呼びだしたり、 金を使って一軒家を買いとり勝手に愛の巣を築いてえんえん来ぬひとを待ち続けてたりとやることはちょっと怖い。
いやそれも純愛。 せっかく美女で清純でいじらしいのにそれを拭いきれないどうしようもない設定のヒロイン。

★軽業のお初(たぶん20代前半) 女掏摸
「江戸の悪党・男は闇に女は初」と謳われる美女。
元は軽業の太夫だったが、 やくざ者長二郎と恋に落ち悪の道に染まる。 長二郎が捕まって島流しにあったあとも女親分として名を馳せる。
土部家に盗みに入り、 捕まりかけたところを雪之丞に救われ、恋に落ちる。
ひょんなことから復讐計画を知り、 すきなひとのためならばとあの手この手で参加しようとするが拒否され、逆恨みで雪之丞を銃で撃ったり穴に落としたりする。
これと見込んだ男を瞬殺するスキルはSSクラス。 雪闇には利かぬがほかの男はころころ落ちる。
常に自分に正直で鉄火な姐御。 乙女な部分もあるかわいいひと。
ところでお初ちゃんの回想のなかの長二郎はおそろしく闇太郎に似ているのでわたし最初ぜったい初は闇に行くんだろうとおもってたんですが違ったですね。 (どうでも···)

〔味方ご一行さま〕
★孤軒先生
雪之丞の学問の師匠。 奇人。なんか占い師のふりとかして神社の境内によくいる。 自宅にかわいいちびっこ少年を住みこませている。
独身。

★ 脇田一松斎
雪之丞の武道の師匠。 いいひとだがちょっと雪之丞を贔屓しすぎ。
嫉妬したほかの門弟から 「先生ぼくを見て!」 と刺されそうになったことがある。 なんだこの道場。
ここんちにもかわいいちびっこ少年の内弟子がいる。 独身。

★中村菊之丞
雪之丞の芸の師匠。 貧乏長屋で、 零落した松浦親子の隣に住んでいた。
雪之丞父が仇を憎んで狂乱のあげくに死んだとき、いきなり飛びこんできて「坊ちゃんは私が必ずお育て申しあげます!」 と男泣きに誓うのだが、いやおまえなんで・・・単なる隣のひとってだけなのに…
もしかしたらこのひと雪之丞父がすきだったのかもしれないと私は密かに睨んでいる。
細面のいい男。 独身。

★島抜けの法印
はじめはお初の色香にたぶらかされ敵にまわるが、 闇太郎の一喝で役立つ仲間に。頭はいまいちだが気のいいおっちゃん。 エセ坊主。
お初ちゃんはこのひとの名前を最初に聞いたとき 「島抜け?もしかして!」 みたいになるのでまだ長二郎に未練たらたらなのがまるわかりなのにだからどうして雪さんに・・・(もういい)

〔敵方ご一行さま〕
★ 門倉平馬
脇田門下で雪之丞と一二を争っていたが、 雪之丞が先に免許皆伝されることになりキレて出奔。 土部家の用心棒になる。
よくいる小物敵タイプだが実は雪之丞より強かったりするのでいやもう脇田先生はほんとうにどういう目的でもって道場を運営しているのかと心配になる。 お初ちゃんがすき。

★土部三斎
元長崎奉行。 いまは江戸を裏で牛耳る隠居。 悪者。ラスボス。
雪之丞の母の美貌に惚れこみ、力ずくでものにしようとして失敗。
逆恨みに松浦屋を奸計にかける。

★広海屋
松浦屋の商売敵。

★浜川平之進
元長崎奉行代官。 お金だいすき。 わりと影が薄い。

★横山五助
役人。 お金だいすき。 浪路さまに懸想する。

★三郎兵衛大
元松浦屋の番頭。 いまでは江戸で有名な物産問屋長崎屋の主。

〔その他〕
★ 松浦清左衛門
雪之丞の父。元老舗物産問屋 松浦屋の当主。
土部たちの甘言にたぶらかされて密貿易に手を染め、 その罪が露見するとすべてを背負わされた挙げ句に店を追われ、妻を亡くし、裏長屋で狂死するというあんまりな運命を辿るひと。
しかしいくらつらいからと云っていまわのきわに七歳のこどもに向かって「俺は死ぬぞ、雪太郎。死んでお前の胸の中に魂を乗り移らせ、お前の手で屹度あやつ等を亡ぼさずには置かぬのだ」 と云い残す父親ってどうなんだろうか。

★雪之丞の母
長崎一の美女・港内の貞女と呼ばれたひと。 土部に強引にものにされそうになり、 夫に操を立てるため自害。
このひとの鼻があともうちょっと低ければ、 土部に横恋慕されることもなく、 松浦屋が狙われることもなく、 松浦家はしあわせだったとおもわれる。 たぶん雪之丞はなかみも外見もおかあさま似。

・・・では、両親を悪者に殺された少年・雪之丞が、 十何年の歳月を越え復讐の大望を遂げる、という題目の下にくりひろげられるワールドをぜひご覧ください。

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