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文アル神戸須磨スタンプラリーに参加しましたという話2


 さて、文アル神戸須磨スタンプラリー、須磨浦公園のチェックポイント2個をクリアした前回。
 今回はその続きからお送りします。

 須磨駅周辺にあるチェックポイントは須磨浦公園のふたつと、あとは須磨寺の正岡子規と吉川英治ゆかりの地のふたつ。

 須磨浦公園のチェックポイントが子規じゃなくて虚子なの、こっちに子規がいるからかなあなどと思いつつはばたきロード(前回参照)を須磨駅方面へと戻ることしばし。

 と。
 それまでそこそこ晴れていた空が急に鉛色になりあっという間にぽつぽつと。
 お天気予報では降水確率60パーセントとなっていたのでまあそんなもんかと傘をさします。
 それにしても一瞬でお空が真っ暗になるの、いくら平家物語ゆかりの地だからって「一天にわかにかき曇り」じゃあなくたっていいでしょうよなどとツイートしつつ須磨駅の前を通り過ぎてさらにまっすぐ行くことしばし。

 道沿いにオシャレで賑わっているご様子の居酒屋さんがあったので、そろそろお昼をいただこうかしらと入ってみることにしました。
 お刺身定食と日替わり定食と釜飯定食と、いろいろあって迷った末に日替わり定食を注文。
 居酒屋さんなのでお酒のメニューもあり、全国から集めた銘酒十種(どちらもグラスで600円くらい)というのを眺めていたところその十種のうちわけが「ちえびじん」「鳳凰美田」「風の森」「而今」だったのでここ絶対好きなとこやな…て思いました。風の森とちえびじんを出してくるお店に悪いところはない。偏見。そうだな偏見だな。でもそうじゃない? そうでしょ? と偏見のゴリ押しをする、べつにお酒に詳しいわけではなく強いわけでもないが好みに偏りがある者の戯言。どうぞお聞き流しください。
 とにかくこのお店のお酒のラインナップ十種のうち六種くらい好きなやつだ…!!ってなったのであとの四種覚えようとしたんですが忘れてしまった。「大信州」が入ってた気がするのでまた飲んでみたい。
 とはいうものの、わたしがこれから参るはお寺さん。
 精進潔斎して行かねばということでお酒はやめておきます。お刺身とお肉は食べた。ごめんなさい。美味しかったです。おすすめ。
 お腹いっぱいになりつつではいざ須磨寺へとふたたび旅路に着くことに。

 はばたきロードをひたすらまっすぐ、そうして交差点を左に曲がってさらにまっすぐ坂道をのぼります。
 須磨浦公園から須磨寺までLの字くらいのまっすぐ道。
 わかりやすい。
 ところで坂道を登ってゆく途中からさらにお空は暗くなり、雷がごろごろいうように。
 どうやら下校のお時間のようで、住宅街らしきあたりにはランドセルを背負ったお子さんがたがあちらこちらに。
 けっこうな荒天のわりになぜかみな傘をさしていない。そうして集団下校のうち通りすがりの親切なお子さんから「傘さしてると雷落ちるって先生が言っとったでー」とアドバイスを、いただく…。
 そうね…きみ傘さしてないね…わたし傘さしてるね…いざというときはおとなとして身を犠牲にしてきみを守るね通りすがりの親切なお子たちよ…知らん子を守るべく我が身を呈せるかどうか、究極の二択だね…
 それはさておき。
 一天にわかにかき曇り、雷がゴロゴロドッカンドッカン、それなんだっけ鹿ケ谷?
 国語の授業で覚えた「木曾義仲の最期」をぼんやりと暗誦しつつ、いやでもここで帰るのはどうよせっかく来たのにということで須磨寺参詣の道をさらに登ってゆきます。
 須磨寺のすぐそばには小学校があるようで、やはり傘をささない子どもたちが(いやなかにはさしてる子ももちろんいましたが)きゃーきゃー叫びながら帰ってゆく。元気だな。先生の指導なのか単に傘を忘れただけなのかはもちろん知りません。

 さて須磨浦公園から途中食事休憩を挟みつつ1時間ちょい、ようやく須磨寺の山門が見えてきた、ところがその折も折、いっそう豪雨すさまじく雷鳴とどろき稲光がピカピカと。
 こりゃさすがにやばいと手近にあったお堂のようなところに這々の体で逃げ込むことに。
 お堂。
 そう、なんでだか、ちょうどいいところに雨露をしのげるお堂があったのでした。
 須磨寺前だしな、そういうものもあるだろうと寺社仏閣慣れしている近畿の民はべつに不思議もなく一目散に飛び込んだのですがもしかしたら世間的にはなんでこんなちょうどいいタイミングで雨露をしのげるお堂が現れるんだ、日本昔話かと思われる向きもあるかもしれないな…といまここまで書きながら思った。
 うん、なんか、あったんですよねお堂…なんでか…。
 柱廊…回廊…ていうの? が、ぐるりと長方形にめぐっている、お堂…? 
 白壁塗りに柱は赤、須磨寺山門と目と鼻の先にあるのだから須磨寺の塔頭みたいなものかとあたりを見回したところ、回廊に沿ってずらりと並ぶ石像…仏像…仏足石…のような…仏像…足を上げている仏像…?
 そうして奥まった場所にある祭祀場のような、御神体にあたるところに見たことのある目の絵。わたし見たことある。近所のネパール料理屋さんの看板に掲げられている、目の絵…
 回廊に沿ってずらりと並ぶ異国情緒あふれる仏像(たぶん三十体くらい)、祭祀所に据えられた目の御神体(ていうのでしょうか)…わたし知ってる、この感じれたぶん日本と違う、たぶん…こちらは…ネパール…

 ネパールだ…!!!

 しかしまあそこはそれ、寺社仏閣慣れしている近畿の民なのでまあそんなこともあるだろうと割とすぐに納得しました。
 具体的にいうとインドの仏像がたくさんある壺阪寺のことを思いだしていた。壺阪寺の売店、可愛いインドの服や鞄がいっぱいあっておすすめです。わたしもたまに壷坂寺の売店で服買う。エスニック調でゴージャスで派手で可愛い。
 それもさておき。
 さて、三十体ほどの仏像の並びまします回廊の対岸、わたしが入ってきた門の側にはベンチがあり、三人ほどの先客が。
 みなさん雨宿りをされているご様子なので、空いているスペースに座らせていただきました。
 雨風を凌げる場所に辿り着けたことにほっとひと息つきつつも、しかしながら見知らぬ土地で見知らぬひとびととともにどっかんどっかん辺りを揺るがす雷雨のなかにいるというのはなかなかの…なかなかの…平家物語ゆかりの須磨寺のまえにあるネパールの祈念場(て看板に書いてあった)で異国情緒あふれる仏像に見守られながら…わたしは…何を…?

 と茫然としていても仕方がないというかやることもなくてひまなので、とりあえずこんなに須磨寺近いんだからもうGPS起動させたらチェックポイントクリアできちゃうんじゃない? とひらめき挑戦してみることに。



 結果はこのとおりです。

 子規のチェックポイントにはぎりぎり100メートル圏内だったらしく辿り着けたものの英治まではあとわずか。
 あとわずか…わずかの差で届かないこの思い…!
 もう両方チェックできたらこのまま須磨寺行かずに帰るのに…!! というしょうじきな気持ちをこっそり吐露しつつ。
 わたしの心を映したかのように吹きすさぶ雨風。かなしきこの胸のうち。実に平家物語っぽい。
 とがっかりしていたところ、お隣にいらした男性が本を読みはじめました。
 確かにスマホをのぞいていても充電が減るばっかりだし、ここで費やして最後のチェックポイントまで辿り着けなかったりしたら本末転倒だよなという気づきのもとわたしも本を読むことに。
 雨宿りのひととき、見知らぬひとと隣り合わせで本を読む。
 なかなか情趣深いものですね。

 ところで今回わたしが旅のお供にしていたのはこちらの一冊です。

マッカラーズ短編集

 雷鳴轟き風雨すさぶなか、平家ゆかりの須磨寺のまえにあるネパールの祈念場で異国情緒あふれる仏像に見守られながら1917年ジョージア州に生まれた女性作家の小説を読む。
 なかなか得難い経験ですね。そうですね。しょうじきもう得たくないけどね…得たくない…得たくなかった…雷はひとを疲弊させる…。

 ということで雷鳴におびえ豪雨に萎れ、ネパールの仏像に見守られながら、アメリカの寂れた田舎町で繰り広げられる奇妙な三角関係の物語を読んでいました。
 百八十センチ超の美人で財テクの才があり町一番の金持ちで働き者で訴訟好きでクセのある女性が刑務所帰りの美男のこれまた百八十センチ超の元夫(結婚してたのは十日くらい)と町民らの立ち会いのもと殴り合いの決闘などする話。おもしろかった。

 ところでマッカラーズの小説、福永武彦が『草の花』やら『愛の試み』とかでずーっっと書き続けてた「愛とはなにか」てことを1ページくらいでバッサリ過不足なく説明してて笑ってしまった。
 『草の花』は1954年刊、マッカラーズ「悲しき酒場の唄」は1941年。
 ハイ、マッカラーズ早かった。
 いや福永さんのことなのでマッカラーズもきっちり読んでそうだけどそれはそれとして。福永さんの読書日記、『枕頭の書』とか『深夜の愉しみ』とか、いっぱいあるあれこれにマッカラーズについて触れてるところがあるかも知れないけど確認するのめんどくさいっていうのは秘密で。

 ちなみにわたしは近所の古本屋さんのマダムがおっしゃった「福永武彦はだめだけどきらいになれない元カレのようなもの」という言を「まさにしかり」と思ってますので福永さんのことわりとアレな表現でもって語りますけど著作物の3割くらいを有してるくらいには好きですよということも付記しておきます。

 なお福永武彦は病弱でしょっちゅう入院したり療養したりで暇だったのかそれとももともと凝り性だったのかよく知りませんが私家版限定5部とか100部のみ特装版とか刷ごとに装丁変更とかあと公表してない手製本とか後世の書誌学者に地獄を見せるタイプのひとです。でもファン(例・大林伸彦)もファンで『草の花』がすきすぎて単行本(文庫だったかもしれない)が刷を重ねるたびに購入するので本棚一本ぜんぶ『草の花』になるとかキメたことするのでどっちもどっちではある。大林監督の人生最後の映画は『草の花』というお話、監督没後のいまにいたるまで待ち望んでいるわたしです。

 などとぼんやり脱線することしばし。 
 具体的にいうと三十分。
 ようやく雷が遠ざかっていくようで、まずはご夫婦連れらしいおふたりが外に出ていかれました。
 お隣の男性はまだ本を読んでいるご様子。
 わたしももうちょっとマッカラーズを読んでいたかったのですけれども、あまり釘付けになっているとぜんぶのチェックポイントがまわれないかもしれないな、次は元町あたりと三宮だし、須磨からは電車で十分くらいかかるし、ということでおいとますることに。
 雨宿りさせて下さってありがとうございましたということで祈念場に御礼をしつつ。

 ところでわたし、こどもの頃からン十年と好きなバンドがインディーズレーベルを立ち上げなぜかネパールでレコーディングやツアーを繰り返しいつの間にか日本でよりネパールで有名になっていたという事実によりネパールにはちょっとした親しみを持っております。
 なので祈念場にいるあいだ、ああここはあのボーカルのひとが愛したネパールにつながる場所…と、こっそり違う聖地巡礼(もちろん二重の意味で)を果たしていたことを付記しつつそれでは今回はこれにてお開き。 

 どうかこれから文アルスタンプラリー西周りコースご参加の方におかれましては、必ずや須磨寺門前のネパール祈念場を通られるかと思いますので、よろしければ「その節ははねさんを助けて下さってありがとうございました」とお祈りをしてきてください、って雷雨ショック明けでいちばんテンションおかしくなってたときにTwitterで衝動的にツイートした文言ここにもかかげておきます。 

 ぜんぜん知らない場所で、ぜんぜん知らないけど平家ゆかりの場所で、平家物語によくある「一天にわかにかき曇り雷鳴轟くや」を体感するのほんと…怖かった…怖かったので…僧玄肪のこととか思い出しちゃったので…怖かったね…

 どさくさにまぎれつつ行ってないのにクリアしてしまったチェックポイント、今回はひとつということで。
 次回はあとみっつの報告をぜんぶあげられるといいな。
 みなさまもどうぞ、悪天候にはお気をつけて。


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