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◇ゆかいな明晰夢を見た。

明晰夢みれた

起きたら部屋が完全な真っ暗闇だった
「レトさんの実況観ながら寝たから
部屋が真っ暗なわけないんだけど…」
と思いながら手探りで扉を探したら
自室に存在しないはずの引き戸に「?」となった

隣の部屋に行ってみると薄暗い実家のリビング
ダイニングテーブルの配置が反転している
なかなか散らかっている様子だったが
実家ならギリあり得る汚さだ

「あれ?実家じゃん…。いやちがうちがう
私はレトさんの実況流しながら寝てたはず…
ああ〜夢だ夢。明晰夢!はじめてかも
めんどいなー起きるつもりだったのになー
てかどうやって起きるんだこれ
とりあえず記憶の外に出れば
脳の処理がオーバーフローして
目覚めやすくなるはず…(?)
よし、外に出てみよう」

家の中は玄関まで暗闇だったが
かろうじて玄関扉の日差し窓から
早朝の青暗い空の色が差し込んでいた

外に出ると決めた私は
靴はどうしようと一瞬頭に過ぎりながらも
夢だからべつに大丈夫だろうと
そのまま足を止めずに外に飛び出した

実家の玄関から出た目の前の道には
今にも崩れ落ちそうな歪でボロボロの軽トラ
ボロボロ過ぎてセルフでオープンカーになっている
天井に風穴の空いた運転席から父が顔をのぞかせる
車の後ろで母が荷台っぽい部分に乗り込もうとしている

私は母の方に駆け寄り
「夢から覚めたいんやけど、行くとこもないんよ」
と相談してみたら「乗ってったらええやん」と提案され
それもいいかと私も車の荷台に乗り込んだ

早速父が車を発進させる
どこに向かうかわからなかったが
実家から車で車道に出るとき必ず通る
見慣れた短い坂を登って見慣れた川沿いに出た

そのあたりからだんだんと不思議な景色になる
地面は記憶にあるまま、建物もおおよそ知っている
地元で記憶に刻んだ馴染みのある建物が多かったが
なんだか上空にいろんなものが立ち聳えている

近未来風の建設ラッシュの只中を通っているよう
一部、実家や地元だけが取り残されたような景色

私の見慣れた道だけがまるで
崖下にあるスラム街のように落ち窪んでいる
周りだけが高くなっていてこちらの道や土地が
相対的に窪んで見える景色になっていた

新しいもの好きな私は
未来都市のように発展していく景色に胸を踊らせ
上機嫌で父と子どものような会話を交わした
父とこんな風に盛り上がるのは10年以上振りだ

とはいえこれは夢の世界だとどこかで冷静だった
実家や両親は老朽化した道路や錆びた車と共に
時代の流れに取り残されて朽ちていくのだと感じた

懐かしくも新しくそれでいて壮大な景色を堪能し
やがてボロ車はピザ店に到着した

私は元乳製品アレルギーで
実家にいた頃は家族がピザを食べていても
私だけ違うものを食べていた

一人暮らしを始めてしばらくしてから
乳製品アレルギーが治っていることに気が付き
晴れてピザが好物になったわけだ

そんな私が行き先にピザ店を選んだのは
家族とピザを食べてみたかった願望かもしれない

私はピザ店のスタイルをよく知らないので
景色に飛び出してきたのはハンバーガー店のような
ドライブスルーと店内飲食ができるピザ店だ

立体駐車場に食い込んだような立地で
なぜか地上から2階部分に店舗があった

車でそのまま2階の高さに上がるため
灰色のコンクリートで形作られ弧を描いた
急勾配で独特な形状のスロープを上る
ボロ車で登りきれるのか心配になる

やっとの思いでスロープを上がって
広いスペースに車を停める

母に「なんでこんなヘンな坂なの」と悪態をつくと
「ドライブスルーのあるお店はだいたいこんなんやで」
と、これが常識であるかのような口ぶりをされた

歩いてピザ店の軒先に近付く
今どき田舎でも見ないような巨大な壁面メニュー
身の丈以上あるので2メートルはあるかも

今は無い、某ハンバーガー店平成前期頃の
ドライブスルーメニューを思い出して欲しい

暗い夜や雨の日でもメニューが見えるように
樹脂製のパネルに写真や文字が印字された
半透明の特殊なフィルムが貼り付けられていて
パネルの裏側からライトで光っているアレだ

アレの数十倍も大きいメニュー写真が
ピザ店の外側壁面いっぱいに並んでいて
空を閉ざされた立体駐車場の薄暗闇のなか
パネルの灯りがピザの赤や黄色や緑を透過して
眩くもなく色鮮やかに光っている

特に看板メニューの蛍光パネルに至っては
子ども部屋のラグマットかと思うほど
巨大なピザの写真が写し出されている
とても美味しそうだ

入口はファミレスでよく見るガラス扉
外扉と内扉の間にちょっとしたスペースがあって
なんとなく観葉植物などが置かれているアレだ

その外扉から家族3人で店内に入ろうとしたところ
これから入る他のお客とタイミングがかぶった

「ああ、すみません」と日本人独特の謝罪をして
鉢合わせたお客の顔を見てみると藤原竜也だった
藤原竜也といえばあの藤原竜也だ
カイジだか夜神月だかのその人だ

顔こそ藤原竜也だが
その出で立ちは男子大学生のようで
半袖の黒っぽいTシャツにライトグレーのジレ
シルバーのネックレス
ダークグレーのゴワゴワしたデニム
それから、つま先の尖った黒い革靴だった

デパートにあるノーブランドアパレルのマネキンが
そっくり同じ格好をしていた気がする
しかしマネキンではなく藤原竜也が着ていれば
それなりに格好がつくのだと思った

まさかの父が藤原竜也に気やすく話しかけた
「たっつ〜ん!」などとまるで地元のツレのようだ
藤原竜也から「一緒にどうですか」と誘われたので
一緒に店内に入り一緒のテーブルについた
ここで遠慮しないのが関西人クオリティ
というか明晰夢クオリティかも

ここらで私は謎の展開にどきどきしながらも
「結局これいつ目覚めるんだ…?」と
少しだけ不安を覚えつつあった
もうすぐ目覚めるので安心して欲しい

テーブルにつくと藤原竜也が
真っ先にメニューを占領するやいなや

「アイレあるぜアイレ…ッッ!
 …ッくうゥゥ〜……ッ!!」

などと感激の声を挙げた
“キンッキンに冷えてやがる!悪魔的だ〜!”
を彷彿とさせる言い方だった

そもそもアイレってなんだ?なにかの略かなと
藤原竜也の手元のメニューをのぞき込んでみると
どうやらアイスレモンティーに感激していたようだ

私の好きな飲み物に感激している感性は
私の夢の登場人物である証拠かもしれない

そんな藤原竜也の派手なリアクションに
私が大笑いして楽しくなったところで
ようやく私は現実世界に帰ってこれた

PCスピーカーからはちゃんと
レトさんの実況動画の音声が流れていた

この日は声劇(ネットでお芝居)の約束がある日で
まさに目が覚めた時刻から1時間後から始める

その声劇台本は
妻を亡くし抜け殻になった夫とその息子と母が
故人の大切な記憶やメッセージを視聴できる
特殊な葬儀方法で妻を弔い
遺された家族や葬儀を取り仕切った会社員が
故人の想いを受け取って前に進むお話

その息子役が私

今日見た明晰夢がなにかの報せであったなら
私はその報せを無視することになるだろう

もしなにかがあれば
感情に乏しい私の代わりに
キンッキンに冷えたアイレが好きな
私の中の藤原竜也が
悲痛な叫びをあげてくれるのかも知れない


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