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ある夜の30分。

絵を描こうと思い至った。
大層なものではない。絵というよりも、落書きと言った方がしっくりくる。
別に、自分の中に抑えきれない衝動とでも言うべきものがあって、それが膨らみに膨らんで、耐え切れずに表出したわけではない。
私は本来、芸術とはそうあるべきだと思い込んでいるのだが、残念ながら、未だ自分の中にそのような創造性を見出したことはない。
昨晩はただ、眠れなかった。それだけの理由だ。

私は内向的な人間である。
20年以上生きていても、薄情で自己中心的な人間である。
他人に評価されることを優先し、自分の声を無視することは、私の美徳に反する。
気まぐれな落書きであっても、その美徳は失ってはならない。失えば、それはもはや美徳とは呼ばないのである。

さて、私は落書きを描こうとして、分からなくなってしまった。
他人が私の落書きに関与しないのであれば、他人に伝わらなくても良いのであれば、描くものは何の形を取らずとも良いのではないか?
私が分かれば良いのではないか?いや、分かれば良い私とは誰だ?過去の私か?未来の私か?
少なくとも、現在の私は、描くべきものが分かっていない。なぜなら、私の中に抑えきれない衝動など無いからだ。

私は満足して、ベッドに潜り込んだ。
良い夢を見るだろう。

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