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【SNK】血の色は?【KOF】

 唐突だが、愛憎なかばする『EX』シリーズの話。
『KOF』ファンにとっては、『2000』までは旧SNK作品だが『2001』はプレイモア作品、すなわち旧SNKはその間に倒産してプレイモアがそのIPを引き継いだ、ということはもはや周知の事実なわけだが、厳密には、旧SNKの倒産は2001年4月だったという。
 その視点で見ると、『EX』の開発は、旧SNK、新会社プレイモアの双方がいろいろあってたいへんな時期とかさなっている。ややうがった見方かもしれないが、他社コンテンツを借りたキャラゲーメーカーという印象が強かった当時のマーベラスに、旧SNKが単純な移植ではない『KOF』の外伝的作品の開発を許したのも、もしかすると、倒産間際の台所事情がさせたことだったのかもしれない。
 ともあれ、ぼくのところにマベちゃんから仕事のお話が来たのは、まだかろうじて旧SNKが死んではいなかった2001年3月のことだった。

 最初にどういう形でコンタクトがあったのか、メールなども残っていないのでもう覚えていないのだが、少なくとも、最初の打ち合わせの時点まで、このゲームについてほとんど何も聞かされていなかった。判っていたのは、ハードがGBAでディフォルメ等身ではないということくらいだったと思う。

 そして迎えた初めての打ち合わせの日。
「どんなストーリーにしよう? ラスボスがルガールっていうのは『KOF』らしさはあるけど新鮮味ないかな? じゃあルガールの弟設定持ち出す? いっそその娘でルガールの姪っ子とか提案してみるか! 金髪の美女がぴちぴちボディスーツでジェノサイッ! とかいいよね! ガハハハハ!」
 などとわくわくが止まらずにいたぼくの前に差し出されたのは、もはやラフですらないかっちり固まった新キャラのメインビジュアルだった。

もう最初からコレよ。もっとアメリカンなギャルでもよかった気もする。

 おまけに仕様書を読むと、中ボスが八神庵、ラスボスがギース・ハワードとある。
「……はて? これは何やら雲行きが……?」
 と首をかしげるぼくに、マベちゃんたちが説明する。今回の『EX』は、DC版『99』のキャラデータを『2000』のシステムに乗せるような形で作ることになっている。が、ネスツ編のキャラやストーリーには深くタッチすることはできない、とのこと。
「は? すでに『2000』まで出てるんだが? それってクーラとかヴァネッサ出せないってこと?」
 というぼくの無言の不機嫌さを読み取ったのか、「SNKからは十種神宝を使っていいといわれている。この新キャラも十種神宝のひとり」とマベちゃんは続けた。

「はぁ!? あんなワケの判らん展開によってメンツが変わるようなふわっふわしたシロモンが、氷の美少女だの人妻だのウィプ子だのの代わりになると思ってんのかアァン!?」

 ……いや、さすがにそんなことはいわなかったが。
 しかしそれにしても、庵が中ボスはともかく、『KOF』でギースがラスボスというのはやや居心地が悪い気がしなくもないし、それに神器たちとかかわりの深い十種神宝の少女が主人公なら、すでにそれに合わせたストーリーもほぼ決まっているのでは? とぼくが尋ねると、そのへんは何も決まっていないという。
 ただ、この主人公+中ボス+ラスボスの組み合わせはもうどうやっても動かせないので、これでオロチ編に広がりを持たせるようなストーリーをお願いしたい! だそうである。
 ギースがオロチの力に興味を持ったってのは『96』の頃の話だし、そもそもオロチが封印されたあとの時間軸で、しかもこのメンツでオロチ編に広がりをといわれても……と思ったが、どのみちゲーム中のテキスト量ではさほど込み入ったやり取りは描けないし、ぼくのおもな役目は紙媒体に掲載されるチームストーリーなどのテキスト執筆になるだろう。
 そう割り切って、ぼくはこの仕事を乗り切った。

 翌2002年元旦、『EX』は無事にリリースされた。が、ゲームの完成度は最悪といってもいいものだった。ぼくもスタッフのひとりだが、テキストしか担当していないので正直にいう。絶対に人にはお勧めできないし、ネタにすらできないヒドいゲームだった。
 ただ、ここでのぼくの一番の功績と誇っていいのは、たぶん、「萌は柴舟が武者修行時代にアメリカでこしらえた京の腹違いの妹」という設定に猛反対して握り潰したことだと思う。

 ということで、次回は『EX2』のお話。

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