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【SNK】南町灘【MI】

 最近ぼくはC級以下の中国系映画を観ることを日課にしているのだが、その精神的プレッシャーから逃れるため、「ツイ・ハークとかの映画もたまには観てみるか」と思い立ってラインナップを確認していた時に思い出した。
 あ、『MI』の話ね。

 以前もどこかで書いた覚えがあるのだが、初代の『MI』には、ゲーム中で語られていたこと以外の設定が何もなかった。奇妙な名前の双子主人公、暗殺された恩人フェイト、メフィストフェレスやメタトロン財団、不死身といわれるデュークの首の傷――どれも何か裏設定がありそうだな~? と思わせておいて何も用意されていなかった。あの作品中で大会としてのKOFが開催された理由すら、特に何の裏事情もない(単なる大規模なギャンブルだったのかもしれん)。

 そのため、続編の製作に当たって文芸担当になったぼくは、まず初代から『MI2』につながるストーリーをきちんと文章に起こし、世界観に肉づけする作業から始めた。
 具体的には、ドイツ出身の双子がなぜサウスタウンへやってきたのか、恩人という要素しかなかったフェイトの具体的な人物像、さらには彼らが所属しているギャング団やその構成員たち、それと対立する敵組織――そういうところから設定を増やしていった。プロモーションの一環でサイドストーリーを公開していく上でも、ノリノリの広告代理店さんがイベントのたびにブッ込んでくる生アフレコのためにも、関連するキャラクターやロケーションなどの設定は多いほうがいい。
 その延長線上で生まれたのが、お人好しのフェイトをささえる相棒のチャンスと、アンを連れてサウスタウンに流れてきたシャーリーだった。

 そして、このあたりの人間関係を設定する際にぼくの念頭にあったのが、レスリー・チャンとアンディ・ラウの『上海グランド』である。
『上海グランド』の舞台は1930年代(?)の上海で、満州での武装蜂起に失敗した過去を持つ台湾人の抗日戦線闘士レスリーと、暗黒街で成り上がることを夢見るアンディが出会い、いろいろあって友情をはぐくむのだが、同じ女性を愛してしまったことからふたりは袂を分かつことになる。

『MI』の世界では、双子がドイツからやってくる以前のサウスタウンで、それぞれに仲間を率いていたフェイトとチャンスが対立、抗争をへて信頼関係を築いていく。フェイトは人望があって腕も立つが、人を信頼しすぎて非情に徹しきれない。逆にチャンスは冷徹な策謀家で、頭はいいが敵を作りやすい。そんなふたりが手を組んで、サウスタウンの裏社会でのし上がっていくというのが、『MI』の前日譚ということになる。
 同時に、実際にはゲームに登場しないフェイトとチャンスが、思春期からともに暮らしてきたアルバとソワレの人格形成に大きな影響をあたえることになった。アルバたちはこのふたりの兄貴分の要素を双方から少しずつもらい、今のあの性格になっているのである。
 ただ、双子が大人になる前にチャンスは消えてしまった。フェイトをリーダーとし、自分が一歩引いたサブリーダー(参謀役)になることで、チームがうまくまとまり発展していくと考えたのはチャンス自身で、実際にそれは現実のものとなっていたはずなのに、なぜチャンスは消えたのか。

 たとえ話をすると、誰でも知っているケンシロウとシンの友情は、なぜ唐突に壊れたのか。ジャギが悪いというのはこの際忘れよう。『KOF』的にいうなら、祝と沖田はなぜ殴り合いの喧嘩をしたのか。このたとえもケンスウにしか通じないかもしれんが……しかし、いずれの場合も最大の要因ははっきりしている。ユリアだのナッキーだのがいたからである。
 そしてフェイトとチャンスの間にはシャーリーがいた。むしろ彼女はこのために生まれたキャラでもある。
 遊び人のイケメンでこれまで浮き名を流し続けてきたチャンスは、柄にもなくシャーリーのことを本気で愛してしまったが、同時に、フェイトとシャーリーの間に明らかに恋愛感情があることにも気づいていた。
 ここでもし自分がシャーリーをものにすれば、おそらくフェイトはそれを祝福してくれるだろうが、ふたりの友情が不変のまま続くかどうかは判らない。表面的には変わることなく、しかし内部にゆがみをかかえていつか崩壊するかもしれない。嫉妬という感情はそれほど恐ろしいものだということをチャンスは理解していた。イケメンだから。
 だが、だからといってフェイトとシャーリーがしあわせな家庭を作ったとして、自分がそれを祝福してやれる自信はチャンスにもなかった。何しろチャンスにとっても真剣な恋愛は初めての経験なのである。ラブラブなふたりを間近に見た自分が、嫉妬に狂って予想外の行動に出ないとはいいきれないとチャンスは理解していた。イケメンだから。
 結局、イケメンのチャンスが出した回答は、自分が身を退いて姿をくらますということだった。チームにとっては一時的なマイナスになるだろうが、フェイトとの友情が壊れてチームをまっぷたつにするよりはいい。それにチャンスは、近い将来、アルバが自分に代わる参謀役としてフェイトをささえてくれるようになると見越していた。だからチームを去ることができたのである。

『上海グランド』はなかなかの悲劇で幕を閉じる。ラストシーンのネタバレはしないが、一応、愛する女を手にしたアンディと過去に囚われたレスリーは、やがて敵同士として戦うことになり……という展開にはなる。
 フェイトとチャンスの場合はそうはならない。というより、袂を分かった時が今生の別れとなった。
 チームの仲間は家族、みんな身内だと考えるおおらかなフェイトは、リーダーである自分は仲間たちを公平にあつかわなければならないと考えるあまり、これまでずっと特定の恋人を作らないようにしてきた。だからシャーリーに対しても自分の思いを告げることはなかった。一方のシャーリーもわけありのシングルマザーで、自身の愛情はすべて娘のアンにそそぐべきもの、自分は女である前に母親なのだという思いが強すぎ、フェイトに完全に寄りかかることができなかった。
 チャンスが気を利かせて身を退いたにもかかわらず、ふたりは死ぬまで独身のままだった。数年後にシャーリーは病でこの世を去り、フェイトも抗争で命を落としたからである。

 ただひとりチャンスだけが今もどこかで生きていて、気ままにバイクを走らせている。フェイトとシャーリーのその後については意図的に情報を遮断しているだろうから、おそらく、親友たちの死についても知らないままだと思う。

 『MI2』の公式サイトはFlashの関係でもう見られないが、チャンスが登場するサイドストーリーはこのムックの巻末で読める。字が小さいけど。

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