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道具のこと:アブガルシア ゼノン2000S

先日新しいスピニングリールを買った。アブガルシアのゼノンだ。

2021年に創業100周年を迎えたアブガルシア、そのスピニングリールのフラグシップとして作られたのがゼノンだ。MGXシリーズの初代から数えると4代目になる。左右非対称のデザインに、一体形成のマグネシウム合金ボディ。自重は1000番は最軽量142gになり、シマノのクイックレスポンスシリーズのフラグシップの19ヴァンキッシュの牙城を崩したと騒がれた。

しかしその後、とあるYoutuberが公開した「ラインがラインローター内に入りやすくトラブルが頻発する」という動画が発売直後に拡散。起きる起きないの問答が各所で起こり、アブガルシアからサポートを受けてるアングラーたちがフォローに回る事態になった。アブガルシアは重大な欠陥を隠したまま製品を発売したとされ、SNSには「所詮アブはこの程度」「アブが高級機を出すには早かった」と批判が溢れた。
そんないわくつきのリールになってしまったのが、このゼノンだ。

そんな中で、僕はどうしてゼノンを選んだのか?
ひとつは自重が軽かったから。ヴァンキッシュと肩を並べられる(なんならちょっと上回ってる)リールはゼノン以外に存在しない。
ふたつめはデザイン。一目惚れしたくらいカッコいい。それまでのっぺりとした印象のものが多かったスピニングリールの世界において、左右非対象のボディを持つゼノンは異質だ。でもそれはギアボックスのデッドスペースを無くす、という軽量化の一環であり、必然から生まれたボディデザインだ。他社の素材による軽量化という路線とは別の方向に舵を切って、それを仕上げたデザイナー(どうやら日本のアブガルシアの方達らしい)には敬意を払わざるを得ない。
みっつめは単純にアブガルシアが好きだから。ベイトリールのREVOシリーズも一時期使ってたし、何より僕の手元には往年の名機「カーディナル33」がある。バッカンやパーツケースも、そういえばアブガルシアだったりするしね。アパレルもDAIWA PIER39より好きだ。

カーディナル33。前の持ち主曰く二回目の復刻版のプロトらしく、シリアルナンバーがない。

今回買ったのは2000S。手持ちのスピニングは、ライトゲーム用の軽量スピニングとして今年頭に購入したシマノの20ヴァンフォードC2000SHGがある。妻と一緒に釣りに出かける際はヴァンフォードをよく使ってもらってるんだけど、その時に僕もスピニングを使った釣りがしたくて、けどカーディナル33を海で使う気にはなれなかった。

1.開封直後〜メンテナンス後のインプレ

まず届いた直後にハンドルをつけて回してみると、巻きがちょっと重く感じた。またハンドルが一部で引っかかり、リトリーブするとシュルシュル音が結構な音量で鳴る。さらに止めた際、止めた部分からさらに動いて「ガタン」となる。いわゆるキックバック 。ベールは噂通り固め。戻す時もそうなのでバネが強いんだろう。
音に関してはこんなもんなのか? と思い、Youtubeでいろんな動画を見るけどそんなことはなさそうだった。そりゃそうだよね、一応高級機扱いだし。じゃあ個体差、もしくは組み立て段階のミスが考えられる。
つまり僕の買った個体はハズレ個体ということになる。

さてどうするか。そもそもの話だけど返品は考えていなかった。また同じようなのが来る気がしていた。
購入前に見ていたYoutubeの動画で知っていたのだけど、ゼノンは分解が非常に簡単なリールだ。2mm六角レンチと、10mmメガネレンチ、あとはプラスドライバーがあれば分解することができる。

リアカバーを外せば簡単にメインギアをグリスアップできる。国内メーカーではありえない。

まずはボディ後方のカバーを外すと、メインギア等にたっぷりと盛られた大量のグリスが見えた。巻きが重いのは明らかにこれが原因だろう。スプールを外し、ローターナットからワンウェイクラッチ、さらにピニオンギアやメインシャフトまで分解し、ギアは本体にネジつけされた状態でパーツクリーナーで洗浄。そこからギア部分にはIOSギアグリスを塗布し、他の摩擦がかかりそうな部分には少し緩めの五十鈴工業のリール グリスを使う。キックバック の原因と考えられるワンウェイクラッチも洗浄し、少量のIOS-01を塗布した。
さてこれでどうだろうかと組み直して巻いてみると、確かに巻きは軽くなった。だけどまだ引っかかりがある。さらにキックバック も治っていない。さて、原因はどこだろう?

まず巻きの引っかかりについて。ギア回りは洗浄したので、あとはグリスの量の問題だろうか。IOSギアグリスは多く塗りすぎると巻き重りの原因になる。過剰になってそうな部分のグリスを取り除いて調整。これで巻き自体はかなり軽くなった。
それでもまだ引っかかる。「なんでだろうな〜」と調整のためにローターをつけたり外したりしてるうちに、引っかかりがなくなった時があった。「あれ?」と思いよく観察すると、ローターを固定するローターナットの締めが弱めになっていた。こんなところが影響するのか! 幸いローターを固く締める一歩手前くらいで固定すれば大丈夫そうだったので、そこでナット固定用のネジを回しておいた。リーリングすると引っかかりはない。この問題はこれで解決した。

次にキックバック。ワンウェイクラッチ単体で動かしたところ、ガタつきはない。しかしボディに嵌めて動かすとガタが出る。これはつまりボディ側に問題がある。
ボディ側にはワンウェイクラッチを固定するための凹みがあるのだけど、そこの精度が甘く、ガタつくようになっていたのだ。国産メーカーだとこのパーツはほぼほぼ固定式になってるので動くことはないから、ゼノンもそうだと高を括ってた(一応高級機なのに、こういうところで海外らしいおおらかさを出してこないで欲しい…)。
これについては、アビ教官さんがYoutubeで紹介された方法でほとんどガタを無くすことができた。少なくとも「ガタン」とはならない。「コッ」くらいになった感じだ。一応自己責任で。僕は片方の出っ張りを削り落としてしまった。スペア買っておこうかな…

というわけで、買ってから何回分解したかわからないくらい手を入れて、ようやく満足の行く仕上がりになった。国内メーカー(シマノ、ダイワ)ならありえないだろう。ヴァンフォードだって箱から出した状態で巻きは気持ち良かったし、ガタもなかった。しかし他二社でもハズレ個体はあるにはあるし、加えて分解はゼノンほど容易ではない。シマノなんてネジすら特殊ネジを使ってるし。そういう意味ではゼノンはよくできたリールだと思う。

2.実釣編

ロクな写真がないのが申し訳ない。というのも、現時点で使ったのが夜のボートライトゲームのみで、写真なんて撮ってる暇なかったのだ。
ラインはデュエルのアーマードF+Pro0.4号にシーガーのグランドマックス1.5号。使ったジグヘッドはレンジクロスヘッドの1.5gと、尺ヘッドDの3g。

一枚だけ撮った写真は手ブレがひどい……けどゼノンだということは分かってもらえるはず。

結論から言うと、なんの問題もなかった。例のトラブルは一度も起きず、なんなら予兆すらなかった。多少明かりはあるとはいえ、暗く、揺れるプレジャーボートの上で3〜4時間釣りをして、一度も。
使ってたアーマードProはヨレが出やすいラインなのでちょっと気をつけていたというのものあるけど、ちゃんとフェザリングやらヨレを取るようにしていれば、オートリターン機能を使ったとしてもラインが下に落ちるような気配はなかった。
夜でこれなら、昼の明るい時間なら尚更トラブルなんて起きるわけがない。一体どんだけ雑に扱ってたらああいう風になるんだ…

掛けた魚はカサゴ、アジ、サバ、黒鯛(30cmくらい、いわゆるカイズ)。ドラグは思ってた以上に出だしが良くて気持ちいい。ヴァンフォードに比べると音は低いけど、使ってるとそんなに違和感はない。ただ調整がかなりシビアで、黒鯛を浮かせた後に軽く締め込んだらラインを切られてしまった。このあたりは使い込んでくうちに変わるみたいなので、しばらくは様子見かな。ライトゲーム用だから締め込んでおく必要はないし。

余談だけど、船長がゼノンを使ってみたいというので、代わりに船長のリールを使わせてもらった。ダイワのイグジストとルビアスエアリティ。
キャストして巻き出して驚いた。なんという巻きの滑らかさ! 聞けは箱出しでこれだという。うーん、さすが天下のダイワ、しかもルビアスエアリティは最新モデルだ。
「これがダイワとアブガルシアの差か…」
と思いながら返ってきたゼノンを投げて巻いてみると、
「あれ? 意外と負けてない?」
多少滑らかさでは劣るとはいえ、持ち替えた時の違和感はそこまで大きくはなかった。

3.現時点でのまとめ

まだ釣行も一回しか行けてないので判断はまだできないけど、少なくとも世間で言われてるような失敗作ではない。もちろん買ってすぐ使ってたらひどいリールだ! と思っただろうけど、自分の手で仕上げたゼノンは初回でしっかり活躍してくれた。
これからあと一回、年内は釣行を予定している。その時もゼノンには頑張ってもらうつもり。

IOSのラインローターREVOとマンハッタンノブ装備。めちゃくちゃカッコいい…

買いはどうかは、人によると思うけど、デザインが気に入って、自分でリールを仕上げていくことに魅力を感じる人なら是非おすすめしたい。
噂だけで悪評付けられたのが本当にかわいそうな、良いリールだと思うから。

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