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浦和レッズの分析と雑感4 2022年7月16日 J1第22節清水戦(A)

分析も4回目となりました。本職が7月は絶賛社畜激務中であったため、おかしなタイミングの更新となってしまいました。24節名古屋戦直前になってしまうとは。
まだまだ四苦八苦していますので、ご意見アドバイスいただけると幸いです。

ハイライト

 前半から浦和の組織的な守備が機能し、そこからのビルドアップもスムーズに展開し押し気味に進めるも、清水もしっかり押し返そうとする展開になりました。両チームともビルドアップからの攻撃もあるし、ショートカウンターも狙う似たような指向のチーム同士だなという印象です。清水はゴールを決めた山原もそうですが宮本が良い選手ですね。交代は意外でしたがスタミナ面考慮なんでしょうか。彼経由のビルドアップはスムーズでした。
 浦和は前半から決定機を作ります。好調の岩尾がゲームを作り、同じく上り調子の松尾がゴールを脅かします。大久保が不在でしたが関根はコンビネーションによる突破で持ち味を発揮。FC東京戦で見せた苛立ちが心配でしたが杞憂でした。コンビネーションをうまく使って打開を図ります。そして41分、関根から裏に抜けた明本に繋がり明本がクロス、これには合わせられませんでしたが、モーベルグが拾って関根にグラウンダーのクロス、関根はボレーで合わせます。権田が弾いたところを松尾が先制。オフサイドギリギリでしたが判定はゴール。前半を終了します。
 後半も浦和が押し気味。敦樹が積極的に飛び出して清水ゴール前に進入していきます。52分のモーベルグなど浦和が決定機も作り出します。一方、清水もいくつか良い攻撃を見せます。49分の展開など良い攻撃も見せますし、66分に簡単にクロスは上げずダイアゴナルに進入を図るなどアクセントをつけていました。そんな中で72分にオウンゴールによる追加点。後で触れますがリカルドの理想が詰まった本当に良い繋ぎでした。しかし、77分にFKをズラして山原が右足一閃。ブレ球で大きく変化したボールはバーを叩きゴール内へ。一点差に。しかしこれは打った山原を褒めるしかありません。初見であれは動けません。西川は二試合連続で情報のないとんでもないキックを浴びせられたことになります。気の毒としか言いようがありません。山原は6分のミドルシュートもかなり際どい素晴らしいもので、末恐ろしいSBです。成長していけば素晴らしい選手になりそうな予感がします。
 その後、清水が追いつくべく前に出ますが浦和は落ち着いて対応しました。3-5-2で守備時5バックにして守りを固め、最後は知念投入。知念も体を張ったデフェンスを見せ試合終了。1ー2でアウェイ浦和が勝利しました。

高い組織守備力、松尾のチェイシング

 この試合については、まず守備から触れないといけないかなと思います。野球にも良い攻撃は良い守備からという言葉がありますが、サッカーは攻守が途切れないのでより重要になります。サッカーでは攻守の切り替えをトランジションと言いますが、現代サッカーでは重要性が高まっていて、トランジションをどう捉えるかが戦術の鍵となっています。リカルド監督はリアリストで、闇雲にハイプレスをかけてネガティブトランジションを許さない、というスタンスではありません。即時奪還が狙えるならプレスをかけますが、難しいと判断した場合はリトリート、相手の攻撃を遅らせながら守備陣形を整えて進入に備えます。このあたりの判断が組織としてしっかり共有されているので今期の失点の少なさに繋がっています。言い換えれば、慎重になりすぎる側面もあったのですが、最近はリスクを取って思い切って前に出る守備も多くなりました。単独の判断ではなく共通認識を持って有機的に前に出ることができるのです。これは大きな改善、進化だと思っています。
 具体的なシーンを振り返っていきますが、もう一点確認しておきたいことが、前節のFC東京に比べ清水はビルドアップのミスが少なかったことです。というより前節のFC東京があまりに繋ぎのミスが多すぎた。浦和のプレッシャーが有効だったという見方もできますが、それはこの清水戦でも同じだったと思います。なので、前節に比べると守備強度が落ちたように思えるかもしれませんが、相手あってのことでそう見えるだけで、浦和だけにフォーカスすれば、引き続き良い守備を続けていると思っています。

 23分のシーンです。まさに浦和の組織守備の狙いが現れた場面だったのでチョイスしました。

23分①

 清水のゴールキックのシーン。このビルドアップで特徴的なのがCBに加えてSBの原までゴールライン近くまで下がっていること。後ろに人数かけすぎの感がありますが、浦和、特にFWの松尾と小泉も同じ考えだったらしく、権田からボールが出た瞬間、小泉が身振りで後ろについて来いと指示、右を切っていた松尾もすぐに清水のボランチ宮本をケアするためにダッシュでポジションを取り直します。権田は立田を越して原を選択し、受けた原は立田にパス。

23分②

 続けて②のシーンです。立田は縦の宮本につけて、宮本は大外レーンの原、原は大外レーンで縦関係にポジションを取った白崎に出します。白崎に出るまでの清水のビルドアップは実にスムーズで前回対戦の埼スタは観戦に行きましたが、こんなにスムーズなビルドアップはなかったと思います。ただ、このビルドアップに対して浦和は組織的な守備で嵌め込みます。
 ③では白崎がすぐに宮本に落とします。このビルドアップはここが肝です。宮本がどういう状況でもらうかがポイントです。フリーで前を向けるのか、限定されるか。このシーンは見事に後者となりました。要因は連動した守備で、個人にフォーカスするなら松尾がサボらずに宮本についてプレスバックし続けたことです。そのために白崎から受けた瞬間の宮本は前にアバウトにつけるしかなくなった。チアゴサントスがショルツを背負いながらのプレーを嫌がり中にポジションを取り直したこともあり、ボールは無人のスペースに転がりショルツが回収する、という展開でした。

23分③

 もちろん松尾だけではなく、ボールを奪うほどは詰められなかったものの他の選手もしっかりプレッシャーをかけたことで、最終的に打つ手のない状況に持ち込みました。こういうシーンを見ると、西野TDが会見で求めるFW像について「守備のできるFW」とコメントする理由が分かります。J1でもプレスバックをしないFWは多い。元アルゼンチン代表のハビエル・サビオラはバルサで得点王を取った次の年に守備をしないために干されましたが、彼は守備をしない理由について「攻撃に余力を残したいから」とコメントしていました。結構印象的に記憶に残っていますが、これがFWの本音でしょうが、現代サッカーでは守備にもスタミナを割かないと生き残れないということなのでしょう。「守備をしない選手」はスター選手に多いですが、個人技などと同じくどこまで許容するのか。一人王様を置くチームもありますし、そのあたりはチーム作りの思想の面白さでもあるかなと思います。
 話が脱線しましたが、FWも含めた組織的な守備というのは浦和の強みになっています。リーグ戦で負けていないというのは間違いなくこの守備力に拠るところが大きい。CBの岩波、ショルツの負担が気になるところではありますが、今後保持やオフェンスに更なる改善を図っていく中でも、この安定した守備を継続することが覇権奪還のカギになると思っています。

2タッチ以内の繋ぎによる圧巻の追加点

 ビルドアップに関しては浦和はJでも屈指のレベルにあると思っています。リカルド監督就任時からビルドアップにはこだわりを持っていましたが、最近は無駄を省き最小限の人数で組み立てています。これはやはり岩尾の加入が大きいです。彼がいなければここまでスムーズにビルドアップできていないでしょう。彼を中心に、ますます各人が精度を上げていることがビルドアップの質の向上に繋がっていると思います。
 一方、やや手数を掛けすぎるきらいがありました。それはボールを大事にしようとする表れなのですが、スタンドやDAZNで見ているとそれは消極的に映ります。また、何より相手が待ち構える時間を与えてしまいます。しかし最近、具体的には松尾がFWに入るようになってからですが、速い攻撃を意識して仕掛けるようになっていて、この攻撃が得点に結びついています。速い攻撃というのは、ポジトラ時のシンプルな縦パスや少ないパスでの攻撃を思い浮かべますが、そうした攻撃はもちろん、パスをつなぐ中での速い攻撃を見せることもできていて、この攻撃は保持からの得点を増やす大きな可能性を秘めています。
 何といっても追加点の場面でしょう。オウンゴールというのが少し残念でしたが、戦術的な観点で言えば今シーズン最高のゴールになりうるほど美しい形でのゴールでした。
 浦和スルーインが清水ボールになりかけたボールですが、清水前線に当てたボールがこぼれ馬渡にこぼれます。セットポジションがよかったこともあり、馬渡が拾ってワンタッチでショルツに繋ぎ、ショルツもワンタッチで岩波に繋ぎます。岩波も2タッチで宏樹に繋ぎ、宏樹までワンタッチもしくは2タッチで繋ぎます。

72分追加点①

 なんとここからも2タッチ以内で繋ぎます。宏樹も2タッチで敦樹に、敦樹はワンタッチで関根、関根は2タッチで敦樹、敦樹はワンタッチで江坂へ。

72分追加点②

 江坂はトラップ後2タッチで明本に。飛び込んだ明本はヒールで狙いますが当たらず、原がクリアしきれずにオウンゴール。
 すべて2タッチ以内でのゴールという圧巻の形を見せてくれましたが、これは正しいポジショニング、正しい動き出しによるものです。つまり、リカルド監督の戦術が細部まで行き届いた結果と言えます。とりわけ、潤滑油のようにワンタッチで絶妙な繋ぎ役を見せた敦樹は驚くべき成長を遂げています。最前線に顔を出してゴール、アシストを決め、中盤では潰し役、繋ぎ役を起用にこなす。恵まれた体躯と身体能力も相まって本当に弱点がなくなってきました。松尾もそうですが、浦和下部組織出身の選手が難しい戦術を体現するキープレイヤーの一人となっていることが本当に嬉しく思えます。
 チームとしてもまだまだ進化の可能性があります。この形をどの相手にでも見せることができればJリーグ制覇が見えてくるでしょう。ただ、清水も発展途上のチームのため、どのチームにもこの形を出すにはまだ時間が必要な気もしています。今後のリカルドレッズがどのように進化していくが楽しみでしかありません。

終盤で見せた3-5-2の可能性

 少し触れておきたいのが、停滞期に待望論があり、この日のように試合終盤に守備固め時に起用される3-5-2のフォーメーションについてです。正直、今のところスタートから使えるような成熟度にはなく、守備固めで3枚CBを置きたい時に使っている印象です。ゾーンで守る浦和の守備では、よりバランス良くピッチに配置できる4-4-2のブロックの方が合理的ですし、ポジトラを考えれば即座に前に人数をかけやすいことも利点です。
 しかし、オプションとしてやはり3-5-2の精度も上げたいところというのが私の考えです。なぜかというとユンカーの存在があるからです。加入から一年が経ち、爆発的なスピードと決定力があるものの、どうしても怪我が多い。また怪我の箇所や筋肉系やグロインペインということで、起用を制限しながら活かしていきたいと思っています。リンセン加入やFW松尾のブレイクで、無理をして彼を起用し続けなければならない状況ではなくなりました。また、彼のプレースタイルとして前方に広いスペースがあった方が好ましい。接近戦でのボールキープは苦手なプレーです。これらを総合すると、後半のオープンな展開になった後に、3-5-2にしてユンカーの走力、決定力を活かしたい。戦術ユンカーとも言えますが、相手からしたらこの上なく嫌なオプションです。この日も、相手を引き込みながらのカウンターで、ユンカーがいてくれたらという場面がありました。
 79分に関根→宮本の交代で3-5-2にシフトした浦和は失点を許さない形にしつつ、カウンターで追加点を狙います。そして、まさに82分に狙っている形が表れます。

83分①

 ホナウドから山原へ走らせるパスは宏樹が読んでいてカットします。この時、清水はネガトラとしてはかなり悪い形となっています。山原も走らされているので宏樹にアタックできず、カウンター発動の理想的な形です。宏樹はホナウドの寄せの前に松尾にパス。

83分②

 松尾はさらに近くの3人を引き付けて岩尾に落とします。岩尾はトラップしてルックアップできる体勢。しかし、正確なロングパスを持つ岩尾がフリーの状態で持っても、DF裏に走り出す選手がいませんでした。明本や宏樹が走り出していましたが、タイミング的にDF裏には間に合いません。こうした時に直感的に走り出し爆発的なスピードを持つユンカーがいれば、と思ってしまいます。と同時に、3-5-2は守備時5-3-2になり、中盤が比較的空くので相手はどんどん入ってきますが、相手を引き込んでおいてのカウンターは一気にチャンスになりえます。守備的な布陣でもユンカーや岩尾が入れば攻撃的になりうることを改めて感じました。

J1第22節まとめ

 試合後のゴタゴタについては正直閉口するしかない気持ちではありましたが、試合内容そのものは見応えのあるものだったと思います。相手の清水に関していえば、もちろん浦和との対戦を通してしか知りませんが、ここ数年見た中では一番良いサッカーをしていたという印象です。今年埼スタで4月に対戦した時は敦樹の退場でフラットに見ることはできませんが、退場前の展開で怖さは感じませんでした。監督交代のわずかなこの短期間でゼ・リカルド監督が立て直してきたと思うと、来期は怖い存在になりそうだなと感じました。今期残留すればですが。
 浦和は今後もこのサッカーを継続していくことが大事です。執筆が川崎戦の後になってしまいましたが、第24節以降も組織的な守備を保ちつつ、保持を見せて速攻で仕留める。この形が必勝となりつつあるので、まずはこの武器を磨き、3-5-2や保持からそのままゴールを奪いきる形など、更なる進化を来期以降に期待したいと思っています。別の形を作るのはそう簡単ではありませんからね、サポーターとしては信じて待つしかないかなと思います。
 いかがだったでしょうか。感想やアドバイスなどいただけると大変うれしいです。


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