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~サポーターが手繰り寄せた盤石の勝利~ 浦和レッズレビュー11 2022年8月22日 ACL2022準々決勝 BGパトゥム・ユナイテッド戦

 レビュー第11回、今回はまとめられていなかったACL準決勝 BG・パトゥム・ユナイテッド戦です。タイの強豪チームで手倉森監督が指揮を採るチームです。Jリーグのことも浦和のことも埼スタのことも当然よく知っている監督ですので、やりにくさのある相手です。浦和は前の試合で5-0と大勝していますが、パトゥムも香港の傑志(キッチー)相手に4点を奪いこちらも大勝。タイは日本人監督を次々と招聘するなどサッカー強化に力を入れており、タイリーグも日進月歩でレベルアップしているようです。侮れない、というより展開次第では土を付けられる可能性もあった試合でした。
 蓋を開けてみれば4-0の圧勝だったわけですが、ゴールが2回取り消されるなど嫌なムードが漂いました。が、集中を途切らすことなく試合を進め、前半のうちにしっかりと点が取れたことが勝利の要因だったと思います。得点シーンを中心に見ていきますが、やはりACLのような一発勝負では戦術や選手個々の能力というより、サポーターが一緒に埼スタと闘う一体感のようなものが勝敗を分ける気がしました。埼スタの力は改めてすごいと実感した試合となりました。

嫌なムードを断ち切ったサポーターとモーベルグ

 試合が始まりなんと50秒でネットを揺らします。これは松尾のハンドを取られ得点は幻となりましたが、これまで磨いてきた速攻がいきなり効果を発揮します。

開始50秒 幻の松尾のゴール

 ビルドアップの構えからショルツ、岩波とボールが渡りパトゥムはチェイシングを開始します。しかし岩波は間髪入れずにロングフィード。これがSBとCBの間に差し込む絶妙なロングパス。CBよりもスピードのある松尾がCBを追い越しトラップ、そのままゴール左隅に流し込みます。一本のロングパスで裏を取っただけのように見えますが、浦和がしっかりとビルドアップできるチームであるという前提があるから、前にばかり気がとられる、そこを突いた攻撃で、今シーズン何度も見ているトライです。狙い通りの形で仕留めただけにハンドを取られたことは残念でした。あの映像だとまあハンドを取られますかね。
 松尾はこのあとペナルティエリア内で後ろから引っ張られ倒れますが、これもPKを取ってもらえません。間違いなく手は掛かっていましたが、やや倒れ方がオーバーだと捉えられたのでしょう。
 極めつけは25分、関根のカットインから思いっきり体を捻って左サイドポストにヒットしゴールに吸い込まれたミドルシュート。これもシュートコースに松尾がいて関与があったとする判定。どれも判定自体はおかしなものではないですが、3つ重なるとフラストレーションが溜まりそうな場面でした。しかし、北ゴール裏はよりチャントを途切らすことなくさらにボリュームアップ。「続けよう」というメッセージを選手も受け取り、集中を切らさずプレーを再開しました。
 このあたりは浦和サポーターがサッカーをよく知っていること、そして一体感が大きなプラスの作用として表れました。さすがです。

 焦れることなく攻め続け、ようやく均衡を破ります。31分のシーンです。ビルドアップから左サイドを選択、大外レーンで待っていた関根に預けます。

31分モーベルグ先制ゴール①
31分モーベルグ先制ゴール②

 関根はカットインを選択、先ほどのミドルがあるので当然パトゥムは選手が寄ってきますし、松尾がもらう位置にいるのでそこにも集まります。関根は松尾の先のモーベルグに。狭いスペースでしたがモーベルグへの注意が遅れたため真ん中を抜かれ、強烈なシュートで先制となりました。
 前述の通り、このゴールは焦れずに自分たちのやるべきことをやろうというサポーターのメッセージが選手たちに伝わり、それが結実したのだと思っています。モーベルグのゴールにサポーターの魂が移って、キーパーの手を弾く強烈なシュートになったのだと。浦和サポーターと埼スタが作り出したゴールだと思います。

相手の弱点を突いた的確な攻撃

 ベスト16のジョホールもそうでしたが、日本や韓国のチームに比べ、まだ東南アジアのチームが劣るな、と思うところがあって、それはやはり守備のところだと思います。ボールサイドに集まってしまうし、振られるとボールウォッチャーになる傾向がある。この試合でもその傾向が見られましたし、そしてそれをしっかり突くような攻撃を見せてくれました。
 64分の佳穂が奪った3点目のシーンです。相手の縦パスを敦樹が奪うことところから始まります。ポジトラで一気に持ち上がりゴール前へ、敦樹がスピードを緩めるとそのタイミングでモーベルグと松尾が裏抜けします。ここにしっかりついていくのは良いのですが、他の選手までそちらを見てしまい、佳穂を見失います。敦樹はそのタイミングを見逃さずラストパス。佳穂は慌てて戻るパトゥムの選手を軽くいなしてシュート。綺麗に逆サイドにゴール。

64分佳穂の3点目


 71分の明本のゴールのシーンもフィニッシュの場面が酷似していました。西川がボールをキャッチしてゆっくりと後方でビルドアップします。大畑からショルツに渡った場面で、ショルツが局面を一気に変える縦パスを入れます。これは昨年までの大分・片野坂サッカーの擬似カウンターとそっくりの展開です。擬似カウンターになったことで、先ほどのゴールのシーンのポジトラと同じような状況を生み出します。

71分4点目①
71分4点目②

 敦樹が再び持ち運び、同じようにユンカー・関根が裏抜け、左が空いて江坂に。江坂は自分で打たず明本に繋ぎましたが、敦樹が持ち運ぶところから先程のゴールに酷似しています。浦和はスカウティングの結果あえてこの形を狙ったと見て間違いない。見事な戦術的ゴールです。
 なお、この攻撃は西川がボールをキャッチしたところから始まっており、なんと25本のパス、ユンカーを除いた10人が関与した攻撃でした。今の浦和相手にオープンになってしまうとこんなに見事に決められてしまうという例になったと思います。
 もう一点、気になった点としては、江坂のラストパスを明本が感じていなかった点です。明本は恐らくワンタッチだったら自分にパスが来るし、トラップしたら江坂がそのまま打つと想定していたんだと思います。オフサイドのタイミングからそうイメージしたのでしょう。実際の江坂はトラップしてから間髪入れずに明本へ。明本はやや遅れてダッシュしますが、スペースがぽっかり空いていたので追いつきそのままシュート。ゴール右サイドネットに突き刺します。
 江坂についてはこういう場面が多い。前回も同じことを書きましたが、さらに今回その考えを強くしました。江坂は不調なのではなくて、周りと違うタイミングでプレーしていて、周囲が感じていないスペースを使おうとしているのではないか、という説です。
 なので加入から1年経ちますがまだ呼吸が合わなかったり、味方選手が走っていないスペースにパスを出したりする。江坂が微調整して合わせてほしいと思っていましたが、逆なのではないかという思いもしてきました。つまり、江坂に合わせるように周囲が合わせていく。江坂のレベルに合わせていくことが、更なるチームの昇華につながるのではないか。往年の中田英寿ではありませんが、そんな感覚もしてきました。まだ確信を持っているわけではないので、しばらくウォッチしていきたいと思います。

アジアでの闘いは円熟味すら感じる出来

 99番のイフサン・ファンディはAFCの注目選手で、実際見てみると高い身体能力とポテンシャルを感じました。パトゥムはボールの繋ぎの場面でも非常にうまい。ジョホールもそうでしたが、技術もあるし、細かい足技が特徴で、セパタクローとかをルーツに感じます。彼らが持っている独自の武器を活かしてこのラウンドまで勝ち進んできましたが、彼らがこれから先に進むにはやはり守備整備は必須な気がします。逆に言うと、守備はしっかり教えて鍛えれば必ず上達するので、アジアのサッカーもまだまだ伸び代があるし、近い将来韓国勢やちょっと前の中国勢のようにひりつくような試合をするライバルになりそうな気がします。
 曲者的な難しさのある東南アジア勢2チームに対し、しっかりと慌てず横綱相撲で勝ち切りました。実質的ホームの後押しも受け、ACLの闘いは見ていて心強いものがあります。また選手一人ひとりがこの経験を経て1試合ごとに頼もしさが増していくような感覚もあります。まさにACLの醍醐味です。チームもサポーターもまた一つACLの経験を積むことができました。この経験値があってこそ、埼スタの雰囲気を作り出せます。ACLへの想いは浦和のアイデンティティだと改めて実感しました。

 いかがだったでしょうか。ようやく全て片付けられたので、今度はホーム柏戦。コロナによって逆風の状態ですが、それでも今のチームは勝ち切れる力があると思います。サポーターもともに浦和の底力を見せつけましょう!

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