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~悲観する必要はない~ レビュー6 2022年8月6日 J1第24節名古屋戦(A)

 名古屋との3連戦の真ん中はリーグ戦。優勝はほぼない状況ですが、奇跡を信じるならばもう一つも落とせない状況。そんな中、過密日程と過酷な気象条件もあり、前節川崎戦から5人入れ替えてこの試合臨みました。結果は0-3。結果だけ見ると惨敗ですが、内容はどちらかと言えば浦和優勢と言っていいものでした。もちろん、サッカーは優勢に進めていた方が負けるというのはざらにあります。そして、浦和が完全に勝利していた内容かと問われればそんなことはありません。6対4で浦和、くらいのものでしょう。なので、内容としては悲観する必要はなく今やっていることを継続していけばいい、でも反省材料はたくさんあったね。そんな感じだったと思います。ただ、リーグ戦でのターンオーバーが正しかったか。正直その点は疑問が残ります。そのあたりの起用法も含め振り返っていきます。

今節のターンオーバーは正しかったか

 両チームのスタートラインナップは以下の通りです。

22/8/6 名古屋戦スタメン

 正直このスタメンは驚きました。優勝の可能性が低くなったとはいえ、今シーズンはリーグを最優先としていたはず。3連戦の頭にこのスタメンを持ってくるなら分かるのですが(その場合でもGKは彩艶になったでしょう)、リーグ戦でターンオーバーするか、というのが第一印象でした。もちろん、スタメンを入れ替えるメリットもあって、相手が用意してきたプランを崩せるということです。少なくとも名古屋はこのスタメンに対する攻略法は持ち合わせていなかったはずです。特に松崎のところが想定外だったはずですし、ユンカースタメンも恐らく予想していなかったと思います。なので、レギュラーメンバーを休ませつつ、奇襲のような形で先制点を奪うというのが浦和のプランだったのだと思います。
 ただ、改めて今節のターンオーバーについて私は否定派です。ターンオーバーするなら直前の試合であるルヴァン1stレグでするべきだっただろうと考えるからです。1stレグであれば仮に失敗したとしてもまだハーフタイムだと思えば良い。何より、先述の通り今シーズンの浦和の最優先はJリーグです。リーグタイトルは限りなく難しくなりましたが、それでも可能性は残っている。また、浦和のアイデンティティでもあるACLの出場権もかかっています。優勝の可能性が低くなったからと言ってリーグの重要性が薄れたとは思えません。もし、フロントや監督・コーチ陣が何か一つタイトルを取ることにシフトしていたとすれば残念です。今シーズンはリーグが最優先と決めたのだからそれはブレずに目標とするべき。例えACLだとしても、私は今シーズンはリーグを優先すべきだと思っています。このあたりはサポーターによって多少なりとも考えの違いがあるとは思いますが、少なくとも現時点でリーグを諦めることを良しとする浦和サポーターはいないのではないでしょうか。
 名古屋戦の敗戦うんぬんよりも、ちょっとスタンスにブレが生じていないか心配になるメンバーチョイスでした。

失敗に終わった前半の”戦術ユンカー”

 これはユンカーが悪いというわけではなく、ユンカーという選手の特性を考えるとどうしても速攻を選択してしまいます。これ一辺倒だと相手も対策する。ただユンカーという選手はそれでもこじ開ける力は持っているので、0-0の均衡状態で試合が進んでいけば、ユンカーが先制点をもたらす可能性は十分あり得たでしょう。
 しかし、実際はそうならなかった。
 前半、かなり浦和は攻め急ぎました。例えば6分の場面、フリーで持った明本が走り出したユンカーにロングパスを出しますがカットされます。続いて7分の場面、相手ボールが岩波にわたりますが、岩波はワンタッチでユンカーを走らせようとします。これはユンカーが感じておらずGKに。この直後も岩波はユンカーではありませんが右サイドの松崎の裏に大きく蹴りだします。これももし松崎がキープできれば真ん中の大きなスペースにユンカーが走り込めることを考えてのパスでしょう。さらに13分、ビルドアップの様相を見せていましたがこれも結局岩波がユンカーを右サイドに走らせるロングパスを出し、相手にカットされます。15分も江坂のパスを関根がうまく受けて一発でターン、前方が開けていましたがユンカーへの裏抜けパスを狙って奪われます。

6分 明本からユンカーへのロングパスの場面

 前半開始直後に繋ぐ姿勢を見せましたが、それが陽動作戦になったと思ったのであればちょっと早すぎです。ユンカーの裏抜け狙いがありありと出ていましたし、名古屋DFも早々に気付き警戒されました。昨季の活躍や今季のマリノス戦を見れば、ユンカーの裏抜けを警戒されるのは当然です。言うなれば”ジャブ”もそこそこに”ストレート”を繰り出していたようなものです。もう少しビルドアップによるジャブやボディーブローを繰り出しておいて、ユンカーの裏抜けというストレートはここぞという時に取っておいた方がよかった。もしくはもっと大胆に引いて守るかですが、マテウスと稲垣の一発があるのでやはり通常通りビルドアップから押し込む方が相手が嫌がったでしょう。松尾を休ませるにしても、リンセンの怪我がなければリンセンをスタメンにしてユンカーをスーパーサブに取っておくこともできたし、もしくはユンカーをセカンドトップのように使えたので、改めてリンセンの怪我が残念だな、と試合中に感じました。
 ただ、ユンカーにも変化が見られました。これまで収めるプレーを苦手にしていて、後ろから小突かれると簡単にボールを失っていましたが、特に後半、落としのプレーが随所に見られました。ユンカーは相手CBとのコンタクトのところで失わなければ、ユンカーが見ているところは非凡なところがあり、川崎戦の3点目の関根のパスのように相手の急所を突くところに落としたりパスを出すことができます。そうしたプレーが見られるようになってきたことは、少しずつJリーグのDFのやり方に慣れてきたのかもしれません。
 心情的にはユンカーが大好きなのですが、贔屓目なしに見るとスーパーサブ的な使い方のほうが戦術的にはハマります。ここしばらくは、松尾が先発を務めることになると思います。ただ、本人はそれでは不満でしょう。先発で確固たる地位を得るには、後半のような相手を背負うタスクの精度を上げていくことがポイントになってくると思います。それができるようになれば国内最強のFWになるでしょう。

ターンオーバーの収穫と課題

 先発メンバーの紹介の通り、大幅にターンオーバーをしたわけですが、リカルドの戦術が出場機会の少ない選手にも行き届いていることが確認できました。11分のビルドアップは現レギュラーメンバーに勝るとも劣らない見事なビルドアップを披露します。

11分 浦和のビルドアップ

 ボールを持った平野が少しずつ対面の永井と距離を縮めながらタイミングを伺います。知念に出し、知念は明本へ。明本は少しキープして柴戸へ。柴戸は後方へトラップし、ちょっと苦しいのかなと思わせます。画面で見ている限り危うく感じましたし、チャンスと感じた名古屋の重廣は一気にスピードを上げて岩波へのパスコースを封じに走ります。ところが、柴戸は背走してると見せかけ右前方の宮本へ鋭いパス。これで完全に裏返ります。宮本もしっかり平野にパス、疑似カウンターになります。この後平野が引っ掛かりかけますが残してチャンスというところで笛。このシーンに不満を持った人も多いと思いますが、これは宮本がアフターでファールをもらっていて、平野が一度引っ掛かったので主審の飯田さんが笛を吹いた、ということになります。引っ掛かったけど運よく平野にボールが転がったということで、そこまで予見するのは難しかったので笛についてはそんなに私は疑問を持ちませんでした。ただ、笛がなかったらチャンスにはなっていたと思います。
 このシーンのほかにも、ビルドアップは多く成功していました。これはリカルド監督のサッカーのベースなので、それはしっかりターンオーバーの選手でもできているということになります。

 一方、課題になります。これまで述べた通り、おおよそチームのやりたいことや約束事はできていました。できていなかった部分として、ディテールの部分になりますが、ネガティブトランジションの切り替えがこれまでのスタメンと比べると遅いな、と感じることがいくつかあり、課題として挙げられるかなと感じました。
 23分、浦和が攻め込んでいる場面。この前のシーンでも奪われかけますがすぐに奪い返すなど、相手陣地に押し込んだ状態になっています。ユンカーにボールが渡り、ユンカーは突っかけていきますが藤井に防がれ、こぼれ球がレオシルバに渡ります。レオシルバは躊躇なく空いたスペースに運び出します。この状況判断はさすが。浦和は関根が中に入り、柴戸が左大外に開いているなど形勢としてはかなりまずい状況で、とにかく遅らすことが絶対に求められる場面です。ここで、明本がレオシルバに食らいついていきます。この明本の判断とチェイシングの速さもまたさすがでした。

23分①

 レオシルバは明本のチェイシングを追い払うことができず、外の相馬に出します。明本が十分に時間を稼ぎました。相馬もすぐに展開せず、いったん後方、中に持ち運んだ後に大きくサイドチェンジを図ります。ここが問題です。ここまで時間を稼いだにも関わらず、永井にサイドチェンジのボールが渡り、かつ柴戸が後ろから追いかける格好になってしまいます。中にはマテウスが猛烈な勢いで駆け上がり、岩波、知念が必死に戻る状況です。


23分②

 ここ数試合分析を行っていますが、共通点として、とにかく帰陣、そして4-4-2のブロック形成が速かったことに気づきました。そしてその数試合と比べるとこの試合はそれが遅かった。このシーンは最終的にゴールラインまで戻った明本が永井を抑え込みゴールキックとし、失点に結びついていませんが、戦術的に見れば失点シーンよりはこうしたシーンの方が気になりました。
 失点シーンについては事故のようなものだと受け止めています。1失点目、2失点目はマテウスという選手がいなければ成立しなかったものでしょう。かつ、2失点目は知念、3失点目は宮本のミスからの失点です。なので戦術的に論じるところは少ない。戦法としてマテウス対策は必要でしょうが(当然やっていたと思いますが想像のさらに上を行かれたということでしょう)、出場機会の少ない若手が犯すミスこそチームとして許容しなければ成長はありません。これを糧にして更に成長してくれれば何の問題もありません。特にこの2人はこうした失敗を大きな成長に繋げてくれる選手である気がしています。

24節名古屋戦まとめ

 今節は関根がすごく調子が良かったように思えました。なので前半交代は惜しいなと感じました。松崎についても代えられるような出来ではなかったはず。正直、江坂は良くないなと思ったので、私だったら江坂を代えていたと思います。江坂がなぜ良くないかというとパスのズレが非常に多い。ワンツーのリターンや裏へのパスがフワッとしていて、可能性が低い選択肢を取っているように感じられるからです。江坂のパスは通れば決定機かもしれないけど、そのタイミングでそのパスを受け取れる人が果たして日本にどのくらいいるか、と感じることが多い。
 一方で自己満足のようなものは感じない。責任感が強いからリスクを取るプレーを敢えて選択している気もしています。リーグ前半戦、チームが絶不調だったこともあり、責任を負うことに頑なになっているような感じもします。最近は途中出場の時の方が肩の荷が下りたような良いプレーを見せるので、しばらくそういう起用法でも良いのかなと思ったりします。
 関根と松崎の交代は惜しいなと思った一方、小泉のSMF起用が割と良かったな、と感じました。SMFはドリブルの縦突破ができる選手じゃないとダメ、というのが私の持論ですが(少なくとも片方のサイドは)、この日は周りとのコンビネーションを使って効果的な働きとなっていた。これまでSMFで起用されていた時は微妙だったので、新たな可能性が見えたなと感じました。終盤のボランチもまあまあ、というところでしたが、本来はボランチに適性があるのでしょう。組み立てに必要な頭脳も申し分ないので、どこかで本格的に岩尾さんの後継として育てても良いような気がします。
 判定について疑問を呈すようなツィートを見ましたが、謎判定というか、ん?と思うことはあったものの名古屋びいきではなかったと思います。まあただ名古屋は激しいというか、荒かったのは確かです。故意というか怪我させようという意志は私は感じませんでしたが、結果的に怪我人も出て、もっとカードが出てもおかしくなかったかなと思います。ハセケンさんのチームはいつもそんな感じです。一方で元鳥栖の監督でパワハラで処分された監督ほど狂気は感じません。
 マテウスという選手はJリーグでもナンバーワンの外国人選手なのではないかと思っています。ドリブル、キックのクオリティは他の追随を許しませんし、気まぐれなところもあるでしょうがチェイシングもする。あまりに個人能力が突出しすぎて彼を中心とした戦術になってしまいますが、ハセケン戦術とは相性も良い。素晴らしい選手です。まだ年齢も27歳くらいですよね?なぜ韓国や大宮時代に浦和が獲りにいかなかったんだろう、と疑問に思ったこともあります。
 Jリーグナンバーワン選手に若手選手が高い授業料を払った、と思えば今後に繋がると思います。あれだけの技術があると思えばそうした対応になると思いますし、またこの悔しさをすぐに返すことができる機会が水曜日に埼スタであります。これを成長の機会とするか、自信を失う出来事とするか。選手のリバウンドメンタリティに期待したいと思います。
 これでACL圏内を目指す上でも、リーグは一つも落とせない状況となりました。幸い上位陣との対戦を控えており、まだ挽回はできると思います。松尾トップの布陣の完成度を上げていく必要がありますが、前述の通り今トップ下を任されている江坂の調子が今一つ上がってきません。
 そこで提案したいのが、松崎をトップ下に据える布陣です。松崎はスプリント力が高いわけではありませんが、一人は躱せるドリブルスキルにミドル、スルーパスと高い水準を持ちます。外でもプレーできますが本当は中で輝く選手です。もっともっとプレーしてもらいたいし、一度松尾とのコンビを見たい。大久保と同じように信じて何回か使ってあげてほしいと思っています。もちろん彼も守備やフィジカルなど課題はありますが、若い選手の伸びしろを信じて使うこともチーム力の向上に必要なことだと思っています。松崎快が浦和の浮沈の鍵を握るーそれくらい可能性を秘めた選手だと期待しています。松尾との同い年仲良しコンビもぜひ見てみたい。
 色々と書いてきましたが、ターンオーバーしたにも関わらず高いビルドアップ力を見せるなど、好材料もたくさん見られました。マテウスはじめ高い個人能力の前に、ミスをして屈した形ですが、書いた通りミスは今後の糧にすれば良いので、悲観する必要はないと思います。むしろブレずに、戦術もチーム方針も含めて、ブレずに自信を持ってやり続けることが何より大事だと思います。そんなに簡単に勝ち続けられるならリーグ優勝1回なわけがない。ピラミッドの石段を積み上げるように、一段一段を組んではまた石を運びにいくような作業が必要ということでしょう。それしかないですから、途中で放棄せずコツコツとやっていきましょう。
 いかがだったでしょうか。感想やアドバイスなどいただけると大変光栄です。よろしくお願いいたします。

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