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~進化したリカルド戦術と土田SDの先見の明~ 浦和レッズレビュー7 2022年8月13日 J1第25節磐田戦(A)

 レビューも7回目となりました。今節は磐田に0-6と大勝しましたが、さすがにそこまでの実力差があったとは思えず、戦術の嚙み合わせによるものだったのかなと思っています。そこにはリカルド戦術の進化によってもたらされた効果があって、そしてそれは土田SDが3か年計画で語っていたことだったことに気づきました。そのあたりを共有できればと思います。

進化したリカルド戦術

 前半戦のレビューをしていないため記憶ベースになってしまいますが(こういう時にレビューを残しておくのは大事ですね、自分のブレが分かる)、リーグ前半戦のリカルドレッズはボール保持、ファイナルサードまで持っていくものの、そこから手詰まりになり点が奪えず引き分け、という結果が多かったと思います。それに対する提言として、Twitterではハイタワー系のFWを獲得することで、潰れない起点を作り、かつシンプルなクロスからも得点が狙えるようにすることを挙げていました。これは言わば遅攻を完成させるための策です(ちなみに今でも、ACLやリーグ戦優勝のためにはオプションとしてハイタワー系のFWの獲得は必要だと思っています)。しかしリカルド監督は異なる解を選択しました。そして後半戦以降の戦いぶりを見れば、成功であったと言って良いでしょう。私も、主戦はこのスタイルで良いと思いました、というか思い知らされました。リカルド監督の解は「松尾のFW起用」です。ハイタワー系のFWではなく、ウイングタイプの選手を一番前に起用することで解決しました。そして、攻撃の根幹を担うのは広い意味での「カウンター(速攻)」であることが明らかとなっています。これがズバズバ決まるようになり、複数得点を奪えるようになりました。なお、この後カウンターという言葉を多用しますが、意味としては、ポジトラからの速攻だけではなく、手数少なく攻め切るという広い意味で捉えていただければと思います。
 孫子の兵法にもありますが、元来戦術においてカウンターほど効果のある攻撃はありません。攻撃は「相手の虚を突く」「手薄になったところを攻める」というのが定石ですが、まさにカウンターがそれだからです。要は遅攻より速攻の方が相手にダメージがあるということです。リーグ前半戦、遅攻がうまくいかなかった。私は遅攻を完成させるためのラストピースとしてハイタワー系のFW獲得の必要性を望んでいましたが、リカルド監督はそうではなく、速攻にシフトしたということになります。
 「松尾のFW起用」と「カウンター」というのは切っても切れない関係です。そもそもカウンターというのはスピードがないと効果を発揮しません。これは単純に足の速さというのもあるし、技術的に「まごつかない」というのもあります。松尾のアジリティ・スピードと技術はこれらを解決します。ボールキープ力もあり、散らす力もある。現状、松尾がいなければこの戦術は成り立ちません。ユンカーはキープ力などの部分で不足があり、他にも何人かFWで起用されましたが、松尾ほどの効果はなかったと見ています。FW松尾の他にも数名、この戦術に不可欠な選手がおり(特にセンターライン)、その選手の代役を育てていくことが来期も含めた今後の鍵となりそうです。松尾の役割をリンセンができればかなり層に厚みをもたらすことができますし、松尾を左SMFとして起用できますので、戦術的な幅、可能性が広がります。リンセンに無理はしてほしくありませんが、FW松尾の役割を担えるのか、それ以上の活躍が見られるのか非常に気になっています。
 このレビューを始めて以来何度か言及しましたが、明らかに速攻を意識した場面があります。これは前半戦になかったプレーですし、岩尾のインタビューなどを見ても、当初想定したものではなかったと思われます。練習での組み合わせ、ACLでいろいろな選手、組み合わせを試した中で見つけたのだと推測していますが、偶然にせよこれを見つけてリーグ戦など本番で起用したリカルド監督の眼力が優れていたということでしょう。

38分 3点目の場面①

 磐田戦でも多用されたカウンター(速攻)ですが、象徴的だったのが3点目。ファールでのリスタート時、浦和も磐田もほとんどの選手が浦和陣地にいた状態でした。ファール後、両チームとも一息ついたような間があった隙を、大久保と岩尾が見逃しませんでした。大久保が一気にダッシュすると、岩尾がすぐにボールをセットし大久保の走ったスペースへ、大久保がボールキープできたことで、一気に形勢を変えます。

38分 3点目の場面②

 大久保がキープ後、上がってきた松尾にパス。このパスも後方に下げると見せかけ横の松尾にパス。攻め切りたい意志が感じられます。松尾はシンプルに佳穂に。佳穂はキープ後右のモーベルグに。焦ってはいませんが無駄がない、自然な形でサイドチェンジします。モーベルグは得意の形から縦突破、右足チップキックで3点目を奪います。クロスか微妙なボールではありましたが、本人曰く右足で枠を狙ったそうなので見事なシュートでした。
 この攻撃の殊勲はゴールに絡んだ選手、特に大久保、そして岩尾です。岩尾は現在この攻撃のタクトを振るう指揮者です。奪ってからのカウンターはもちろん、遅攻から速攻のスイッチも岩尾が判断しています。このサッカーに岩尾の存在はとてつもなく大きい。代役に平野がいますが、平野がここまで上手く指揮できるかどうか。もちろんできる才覚はあるので、出ていない試合でも岩尾から多くを吸収してほしい。あと、ショルツの影に隠れがちですが、岩波も不可欠な存在になりつつあります。岩尾のほかに発射台として岩波の存在があるから敵チームは寄せきれなくなる。縦パスが岩尾からしか入らないなら岩尾にマンマークを付ければ良い。でも、岩波から鋭い縦パスが入るので絞り切れなくなる。岩波も大きく化けてきた感があります。

土田SDの先見の明

 戦術的なところで言うと、もう一つ磐田戦後に気づいたことが。もっと抽象度の高い次元の話ではあるのですが、3か年計画の際に語っていた土田SDの「攻撃はとにかくスピード。ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持って行く、フィニッシュに仕掛ける時はスピードを上げることが重要」という言葉が思い出されました。まさに今、これに磨きをかけて得点を重ねています。
 私は土田SDのこの言葉とリカルド監督の戦術の相性がどうも良くないように思えており、先月くらいまでこの言葉がリカルド監督の重荷になっているような気がしていました。8月に入り突如融合が見られ、内容・結果含め右肩上がりの成長を見せています。偶然の産物なのか、ようやく実り始めたものなのか分かりませんが、チームコンセプトと戦術・戦法が噛み合い登り調子になっていることは手放しで喜ぶべきことなのだと思います。迷う必要がないわけですから。直近でも数チームが監督解任に踏み切る中で、ようやく長いトンネルから抜け出せる予感がしていることに、安堵と喜びを感じています。何より、土田SDの言ったとおりになっていることは、チームを中長期的にオーガナイズされる立場の方に先見の明があるということなので、その点もさすがと思い知りました。今のフロントがすごく頼もしく感じられますし、一時の躓きなど気にせず付いていこう、と思うようになりました。
 しっかりブロックを形成してまずは守備をオーガナイズ、マイボールは丁寧に繋ぐ、チャンスと見れば速攻・カウンターで得点を奪う。チームコンセプト通りの戦術で勝利を重ねて、磐田戦では大勝という結果を得られました。チームはますます自信を深めたに違いありません。そしてACL。若い選手が多いこのチームでは間違いなく高い経験値が得られます。ACLはもちろん、その後のリーグ戦も楽しみでなりません。

安居の可能性

 鳴り物入りで今シーズン加入した安居海渡。特に大学サッカーマニアというわけではありませんが、流経大3年時には私もその名前を知っているくらい有名な選手でした。その後の獲得レースでは名古屋入りが濃厚とされている中で、突如浦和加入が発表され大変驚いたものです。守備力に定評があるとされていましたが、識者の中では攻撃力を評価する向きもあり、安居と伊藤敦樹を共存させるために曺監督が敦樹をCB起用したことも有名な話です。敦樹や安居、宮本は恐らく曺監督就任を見越しての内定だったのではないかと思っていますが、曺監督誕生はならなかったものの、リカルド監督も敦樹や宮本は重宝していました。3人の中では最も出番が少なかったのが安居です。開幕戦の京都戦で先発でしたがあればコロナ感染者が出たスクランブル的な試合でした。これまでの浦和オフィシャルのインタビューでも悔しさがあるというコメントもあり、忸怩たる思いを抱くルーキーイヤーになっているかもしれません。
 しかし、ここのところ出場機会を少しずつ増やしています。柴戸の怪我の影響もあるかもしれませんが、この日もベンチに入り、得点差もあってか70分という時間帯に出場機会を得ました。そして素晴らしいパフォーマンスを見せました。

73分

 73分、安居がビルドアップに参加します。右サイドで受けた安居は岩尾に預けて中央に位置取りし、岩波からリターンを受けます。しかしこのパスが少し強く大きかったためトラップしきれず一度金子に奪われます。しかしここから安居は再び奪い返し、その勢いで山本も抜き去ります。一気に前線に飛び出し、再びプレスバックしてきた金子のチャージももろともせず右の大久保に展開、大久保が仕掛けてFK獲得&イエローカードとなりました。

78分 6点目

 6点目も安居の好判断、好プレーが生んだものでした。78分、一度ビルドアップが引っ掛かりますが、再度奪い返し岩波が持った場面です。岩波が安居に付けると安居はターン後すぐに江坂に付けます。これがなかなかできるプレーではない。まず囲まれているあの状況で空いている江坂を見つけることが難しいですし、あとはあの狭いスペースで正確に止めて蹴る技術が必要です。これをいとも簡単にやってのけるルーキー。敦樹がいるから感覚がおかしくなりますが、安居のこのプレーもルーキーとは思えない素晴らしいプレーです。
 この後の展開でも進化した戦術の浸透が感じられます。江坂もボールキープを選択せず、すぐに左サイドに流れようとしていたユンカーに付けようとします。このパスに鈴木雄斗が触れたことで結果的に絶妙なスルーパスとなり、コースが変わったことでマーカーの伊藤も足を滑らせてユンカーが1対1に。ユンカーが最も得意とする形で、この形になれば俊足のユンカーに追いつけるDFはほぼいませんし、シュートもまず外しません。期待に応えしっかり沈めて0-6。ここは各人の判断もそうですが、特に安居のプレーが秀逸で、彼のプレーによってもたらされたゴールと言えるでしょう。

 ほかにも、73分に安居の好判断と高い身体能力によって未然にカウンターのピンチを防ぐなど、短い時間ではありましたが、攻守にわたり能力を発揮し存在感を見せました。リカルド監督は良いパフォーマンスを見せればその後しっかり使うので、安居は今後出場機会を増やすかもしれません。そうなると良いなと思っています。柴戸も24節名古屋戦で怪我をするまでは非常に良いパフォーマンスでした。ボランチはリカルド戦術ではもちろんですが、現代サッカーではもっとも重要なポジションです。現在浦和はボランチに関してはリーグでも有数の素晴らしい選手層を誇りますが、敦樹もいつ海外に引き抜かれるか分からない状況のため、少しでも多く優秀な選手を確保したいところです。敦樹のポジションを柴戸、安居で争うことになると思いますが、安居には敦樹のポジションを奪うくらいの覚悟でやってほしい。あくまでオプションだとは思いますが、敦樹のCBも試すことができましたし、さすがの落ち着きで持ち上がり(コンドゥクシオン)も遜色ないため、岩波のところを知念、犬飼で争い、ショルツの代わりなら敦樹が良いかと思いました。
 少し話は逸れましたが、この試合前まで敦樹が海外に引き抜かれたらどうしようということばかり考えていましたが、安居のこの日の活躍で少しだけ和らぎました。浦和ジュニアユースからの生え抜き、駒場からほど近いエリアで生まれ育ったということで、もちろん寂しさはありますが…というか海外移籍が決定事項のように語ってしまいすみません。まだ何も決まっていません…そのはず。しかし今季終了後間違いなく移籍してしまうとは思っていて、あとはどのチームに行くか、でしょうか。今季終了までにロングシュートでも一発決めたら、もうボランチとして必要な要素は全部披露したので、より格の高いチームやリーグからのオファーが来るかな、くらいの心持ちです。そうなったら快く送り出して、そのチームを一緒に応援しようかな。プレミアはDAZNで見れないからやめてほしい…。最後は空想話でまとまりありませんが、安居も川口出身の浦学卒ですし、浦和を背負って立つ資質、素質のあるプレーヤーですので、浦和の未来は明るいよ、というお話でした。

 いかがだったでしょうか。これまであまり見られなかった大久保が縦パスをもらうために下りてくるプレーや相変わらず効いている佳穂のプレスなど触れたいプレーはたくさんありましたがこれくらい絞らないと適時開示できません…また今後触れられればと思います。
 アドバイスや感想などいただけると大変ありがたいです。Twitterでも全然問題ありません。どうぞよろしくお願いいたします。



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