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~戦術の浸透を証明する結果に~ 浦和レッズレビュー12 2022年9月10日 J1第29節 柏戦

 レビュー12回、J1第29節柏戦です。ご存じの通りトップチームの6選手に新型コロナ感染者があり、また酒井宏樹についても古巣との対戦を心待ちにしていたでしょうが、全北現代との死闘の代償で肉離れ。緊急事態とも言えるメンバー編成となりました。今の浦和の状態ならば、ベストメンバーで臨めば勝つ可能性の高い試合であると思っていましたが、鹿島戦もそれは同様でした。結局鹿島戦は可能性を感じさせるもドロー、この柏戦はどうなるか、不安がないわけではありませんでした。普段出場機会の少ない選手がどれだけ戦術にコミットできるかという点が勝敗を分けるポイントになったわけですが、結果、内容とも大勝と言えるものでした。控えメンバーがスタメンの半分を占めた緊急事態の中で、この結果を得られた要因を紐解いていきたいと思います。

チームに安定させた盤石のセンターライン

 前述の通り、厳しい状況下でのメンバー編成となりましたが、救いと言えば松尾、敦樹、岩尾、ショルツのセンターラインが起用できることです。このメンバーは現浦和レッズの生命線、アイデンティティとも言えるメンバーであり、代えが利きません。敦樹のところは安居がうまくカバーしそうな気もしますが、敦樹のフィジカル的な優位性と得点感覚含めた攻撃性能はJでも屈指であり、相手が嫌がっているのが伝わってくるプレーヤーです。他の3人は今代わりがいません。3人が出れないとなると別のチームになってしまうと言っても過言ではない、そのくらい影響力が大きいです。
 岩波も出場できないということで、名古屋戦以来の知念出場となりました。試合後のコメントにもあった通り、本人は不退転の覚悟で望んでいたようであり、良い意味で開き直ってプレーしたようでした。センスを感じる縦パスを何本も通しており、持ち味を十分発揮していたように思いました。守備面でも、やや連携不足を感じる場面はありましたが、個人の出来でしては現在5位の相手にこの上ないパフォーマンスだったのではないでしょうか。出場機会がもっと増えればロングパスももっと入れられるようになる気がしますし、今後さらに期待したいなと思いました。
 同様に、覚悟を持って臨んだという宮本も素晴らしい出来でした。攻守に切れ目ないアップダウン。ビルドアップのところも日に日に良くなってきています。後ろに下げるにしても、晒して相手を動かしたりと工夫が見られます。ミスを恐れずチャレンジする姿勢が素晴らしい。後半は柏で売り出し中の細谷が左サイドにポジションを移しましたが、ガチンコのぶつかり合いでも負けず、右サイドを制圧していました。失点シーンは当然ですが宮本の責任ではありません。
 惜しくも1失点を喫してしまいましたが、鈴木彩艶も素晴らしい出来でした。DAZNでもピックアップされていましたが、67分から69分は彩艶祭りでした。キックも鹿島戦やその前に出場したルヴァン名古屋戦より格段に向上していました。若手の成長は本当に嬉しいですね。今シーズンの西川はある種化け物的なパフォーマンスなので、なかなか壁は高いですが、一番大事なシュートストップの能力は西川を凌ぐものがあるので、あとはハイボールの処理と足元を磨けば良い。西川を越えれば日本代表正GKが見えてきます。
 出場機会の少ない選手たちがしっかりパフォーマンスできたのも屋台骨部分を支える松尾、伊藤、岩尾、ショルツがいるからで、彼らが当たり前のように毎試合ハイパフォーマンスをしてくれるからに他なりません。危ないシーンやチャンスシーンでは彼らが必ずと言っていいほど関わっていました。能力もそうですが戦術理解度が非常に高いのでしょう。逆に彼らが怪我をしたりコロナに感染したらと思うと恐ろしいですが…。ともかくも、このメンバーでこの内容・結果で勝利できたことはさらにチームが一段レベルアップでき、自陣を深めた一戦になったと思います。

シャルクが左、大久保が前だった理由

 この試合のサプライズポイントはシャルクが左で大久保が前、セカンドトップだったことでしょう。私はトップシャルク、セカンドに松尾、左関根に右大久保だと思っていました。この並びでも柏守備網を突破できたと思いますが、リカルドはそうしなかった。理由は2つだと推測しました。
 まず、松尾のトップを替えたくなかったこと。ならば松尾トップ、シャルクをセカンドトップにすれば良いじゃないかとなりますが、それは私もあまり考えなかった。浦和のセカンドトップはボランチの位置まで下りてボールを引き出す必要があります。このプレーをシャルクがどれだけできるか読めないからです。これが2つ目の理由に繋がります。
 2つ目の理由が、大久保がこの引き出すプレーも得意としている点です。磐田戦のレビューの際にも、レビューの最後に触れたかったが触れられなかったポイントとして大久保の引き出す動きについて記しました。リカルドレッズの戦術として、サイドハーフは状況によってインサイドレーンとアウトサイドレーンを使い分ける動きをします。サイドバックと調整して使い分けていますが、岩尾が空けた位置まで下りるのはセカンドトップと決まっていました。
 ところが、磐田戦では左サイドハーフの大久保が下りてきてもらうシーンが散見されました。新たな戦術的オプションか、と思ったのをよく覚えています。大久保はもらってターン、の動きがすごく得意で、外だけではなく中でも発揮できることをリカルドは見抜いていたのでしょう。セカンドトップでの起用というサプライズを仕掛けるのですが、この起用がいきなり的中します。6分のゴールシーンです。磨いてきた速攻急戦の形と大久保の特長から生まれたゴールでした。

6分先制ゴール

 知念の縦パスから始まったわけですが、このパスも相手に食いつかせるような絶妙なパスでしたし、何より大久保にしかできないようなターンですよね。Jでも屈指の俊敏性、アジリティを備えた大久保ならではのプレーです。私も多くのサッカーファンのご多分に漏れず、こうしたある種の才能を持った選手しかできない天才的な閃きと技術の詰まったプレーが大好きです。客を呼べる、このワンプレーだけでも1試合分のお金を払ってみる価値があったと思わせるプレーでした。
 そして松尾の裏への抜け出し。今年からワントップを始めたとは思えない絶妙なタイミング。完全にストライカーのそれです。ずっと本職でやっていてもシーズン1点も取れない選手もいることを思えば、松尾のこの適性も才能の成せるものなのかなと思います。
 試合後のコメントで、大久保が敢えてこのスペースを使ったと言っていましたが、確かに4分に染谷がアフターで岩尾を削りに行くシーンがあり、岩尾が痛んで止まっていたタイミングで、染谷が食いついてくることを確認したのだと思います。食いついてきてスペースが空くならそのスペースを使えば良いし、アフターチャージしてくるならカードのリーチがかかるということでしょう。リカルドの戦術が行き届いている証左でもあり、敵だったら恐ろしいコメントですね…。
 序盤のこの1点、そして同じく速攻急戦、敦樹の素晴らしいスルーパスで得た2点目が大きく試合展開に影響したことは間違いありません。ネルシーニョ監督は「前半相手をリスペクトしすぎた」とのコメントを残しており、後半分かりやすくアフターチャージによるイエローカードが次々と出される(5枚)なんですが、逆に言えばファールでもしないと止められないのが今の浦和なのかもしれません。それにしても5位のチームが9位のチームをなぜリスペクトしすぎたのだろう…やはりACL効果なんでしょうか。恐るべしACL。

明本と関根が再浮上

 前半戦に比べると控えに回ることが多くなってきた両選手ですが、この試合では強い存在感を発揮してくれました。メディアでも言われてましたが関根は左に回った後の方が良くて、デビュー当時のイケイケなプレーが戻ってきました。関根は大きすぎるスペースよりはやや制約のあるような状況を使って抜け出すプレーが上手いので、個人的には左に固定してそうしたプレーをどんどんやらせた方が良いと思っています。
 そして明本。あまりに多くのポジションをこなせるため、逆に器用貧乏になりかねないことを心配していました。スタミナや強さはもちろん、スピードや技術も水準以上のものを備えているため、前の方で勝負させた方が良いと思っていましたが、柏戦を見て、本格的に左SBに転向させても良いのかな、と思ってきました。大畑がいるので前で、と思っていましたが、明本が柏戦で素晴らしいパフォーマンスで、このまま行けば大畑からスタメンを奪う気がしているからです。大畑も素晴らしいプレーヤーで順調に成長すれば海外移籍、日本代表の可能性が高い選手だと思っています。大畑獲得の報を聞いたときは、よくこの選手を獲得できたなと驚いたものですが、その選手を凌駕する可能性があります。明本のポテンシャルの高さに驚くとともに、順風満帆に見えた大畑のキャリアに初めて現れる強力なライバルになりうるという状況が嬉しい悲鳴に感じます。大畑と明本、非常に仲が良いんですよね。この二人がどういう関係性を築いていくのか興味深いものがあります。
 大畑は1年やって海外に引き抜かれるコースかなと思っていましたが、やや伸び悩んでいる感もあります。断っておきますが、Jリーグのトップでやていくには十分すぎる水準でプレーしています。でも、即本人及びチームがが納得行くオファーが届きそうな活躍かというとそうでもない。敦樹と比べるとちょっと物足りない、というのが本当のところだと思います。個人的には勝手に、今年は大畑で、大畑が海外に飛び立ったら荻原がレンタルバック、というのが浦和フロントが目論む青写真だと思っていましたが、もしかすると大畑、明本、荻原で来年左SBを争う格好になるかもしれません。ACK含む全てのタイトルを狙うならそれくらいの選手層を誇るべきなのでしょうが、この3人で誰を起用するか悩むのはいかに贅沢か、とも思います。しかし、荻原は戻ってきてくれるのだろうか。個人的には大好きなプレーヤーなので、浦和に戻ってきて大活躍することをずっと期待してはいます。

好調のチームの中で気になる要素

 コロナで6人欠場、緊急事態の中で4-1の勝利ですから、手放しで喜びたいところですが、どんな試合でも反省材料はあります。この試合も、以降の試合の糧にしたい反省材料はありました。
 守備の場面では、前半終了間際の攻め込まれた場面が気になりました。戦術的には、39分のビルドアップの失敗は今後に活かしたいところです。
 ビルドアップの場面で彩艶まで戻されました。この時に、やや知念のポジション取りが遅かったのか、彩艶がマイナスのボールを知念に出します。あるいは、知念の態勢から考えると彩艶は大きく蹴りだすべきだったかもしれません。知念も苦しい格好で受け、明本に短いパスを選択します。知念も思い切ってタッチラインに蹴りだしても良かったかもしれません。
 明本は大南のプレッシャーを受けながら何とか前に繋ぐために体をぶつけてスペースを生み出します。そして何とか前に出しますがそこには柏の椎橋が。この後、椎橋は大南に出し、大南はワンタッチでクロス。もう少しで細谷に合うというポジトラ機会を創出します。これは浦和のミスなので避けたいところ。いくつものミスが重なった形ですが、なるべくマイボールでゲームを進めたいという気持ちの表れでもあります。難しいですね。こういうシーンを繋げればバルサや川崎のように称賛されるし、引っ掛かると非難の対象になる。個人的には、チームとしてこういうトライを続けようという意志があるのであれば、失点覚悟でトライしていけば良いと思います。もちろん、同じ轍は踏まないように。

39分 ビルドアップのミス

 失点シーンも同じです。あれは柴戸の個人的なミスなのですが、そもそもチームとしてあそこで相手を躱すことを慫慂されているなら問題ないということになります。でも恐らくそうではない。なので柴戸の判断ミスということになります。同じく、松崎もアピールを焦るあまりプレー判断のところを誤った部分があるかなと思います。自分でミドルシュートを打って惜しいシーンがありましたが、ユンカーに出した方がチャンスが広がったはずです。
 でも、これは本当に難しいところで、いよいよ浦和が負けないフェーズに入ってきて、チーム内の練習でも技術的なミスをしたり判断ミスをすると浮くようなレベルになってきたのだと思います。厳しい競争の中で出場機会が得られないとなると、どうしても試合で結果を出したいと思うのは至極当然な話ですし、柴戸も松崎もやや功を焦った感がありました。気持ちは痛いほど分かりますが、チームの勝利に優先するものはないので、リカルド監督が二人をうまく導いてくれることを期待します。松崎については、例えば今日の大久保の役割だって実はできるのだと思います。大久保は素晴らしいプレーで埼スタを沸かせ結果を出しましたが、松崎も同じことができると思っています。あっと驚くプレーで局面を変えることができる点が松崎の特長で、セカンドトップの適性があります。私はずっと、佳穂・江坂のセカンドトップ争いに松崎を加えるべきだと思っています。二人を凌ぐ能力も持ち合わせていると思います。知念もそうですが、何とかリカルドがうまく導いて浦和で持っている才能を発揮してほしい、そう願うタレントの一人です。
 心配という点では、ユンカーが一番気がかりです。柏戦では、悪い意味で一番気になる選手でした。守備タスクについて放棄しているようなプレーです。
 ユンカーの精神状態については窺い知れません。ごく近い人しか真相は知りえないし、なので不貞腐れたような態度は触れずにおいても、守備の場面でチェイスを放棄するような姿勢はいただけません。
 リカルド監督の戦術のベースは守備です。複雑なポジショニングに気を取られますが、それも守備時に最適なポジションが取れるからに他なりません。守備がベースなのです。その点でロティーナさんのポジショナルプレーと共通する点はあると思います。今の浦和の戦術から考えても、守備を免除される選手はいません。ユンカーがスタメンで起用されない現状に不満を持っているのか、それとも体調が芳しくないのか分かりませんが、一つ言えることは守備タスクをこなさない限り、松尾からポジションを奪うことはできないということです。それどころか、外国人選手の中で最も序列が低くなってしまう。それを肝に銘じた方が良い。
 シャルクは常に献身的な姿勢で守備を行うし、モーベルグやショルツのパフォーマンスは文句の付け難いものがあります。モーベルグも出し惜しみすることなく守備タスクをこなします。その結果途中交代になることも多いですが、それでも毎試合アップダウンを惜しみなくやっている。さらにリンセンまで結果を出すことになれば、ユンカーの立場が危うくなります。
 ユンカーの抜け出しと決定力は一つの武器です。彼のゾーンになれば、ヨーロッパのトップリーグでもある程度数字として結果を出すでしょう。ただ、それを発揮するシチュエーションになれないと、なかなか持ち味を発揮できないのも事実です。なので、弱点を克服するか、強みをさらに磨くかという観点はありますが、少なくとももっと守備をしっかりこなさなければならない。フォアザチームという言葉は古いかもしれませんが、チームの勝利のために何ができるか、それを証明する必要があるように思います。

 いかがだったでしょうか。感想などいただけると嬉しいです。浦和は覚醒前夜、日進月歩で成長するチームを楽しみ、後押ししましょう!

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