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~岩尾 憲という存在の重要性~ 浦和レッズレビュー14 2022年9月17日 J1第30節 湘南戦

 レビュー14回目、J1第30節湘南戦です。この試合も勝ちきれませんでした。リカルド監督はルヴァンも見据えメンバー変更を実施しましたが、今回もうまくいきませんでした。振り返ると狙いは分かりましたが、現チームはカギとなる選手が不在だとノッキングを起こしてしまいます。それが改めて感じられた(感じたくないのですが)試合となりました。タイトルもズバリ「岩尾 憲の存在の重要性」です笑。

岩尾不在の前半、何を狙っていたか

 私はこれまでも、現チームにはセンターラインに外せない選手がいて、その選手さえいれば、あとのメンバーが代わってもよいパフォーマンスができると主張してきました。センターラインですので岩波、ショルツ、敦樹、岩尾、佳穂、松尾がその選手なのですが、その中でもとくにショルツ、岩尾、松尾の「SIM」(絶対流行らないですね)は戦術の基礎となるので今のチームでは本当に代えられないチームの土台だと思っています。その次点で敦樹も決定的な仕事をするし、佳穂は前線リンクマンとして重要だし、岩波も岩尾とともにスイッチャーの役目を果たします。
 この代えられない3人のうち、ショルツはいましたが岩尾と松尾の二人が不在となった湘南戦の前半、浦和はどういう狙いを持っていたかを分析します。

ビルドアップと見せかけたロングキック

 ビルドアップと見せかけ岩波とショルツ、西川でボールを回しますが、この日は敦樹・柴戸のボランチコンビは降りてきません。私が確認した限りですが、前半は一度もCBの間に落ちなかったと思います。昨シーズン、敦樹は頻繁に落ちていましたので、これは狙いがあってのものです。次のビルドアップの章が主に関係のあるところですので、そちらで記します。
 岩波、ショルツ、西川でボールを回し、敵の重心をズラします。そして、岩波を発射台としてロングキックにより前線に起点を作ることを狙いました。
 なぜロングキックを多用したかというと、3-4-2-1を敷く湘南に対し、3バックの状態の時に空いた両脇のスペースで起点を作りたかったのだと思います。

11分 中盤を省略して3バック脇へ

 岩尾がいない中、相手の中盤が厚い状態でビルドアップからの中盤突破はリスクがあります。またユンカーの強みを生かすためにも極力速く展開したい。このあたりが浦和の狙いだったでしょう。
 また36分のシンプルな攻撃は前半の狙い通りの形で、ベンチはこのシーンで先制点を取っておきたかったはずです。

36分 江坂からユンカー 絶好機も決めきれず

 江坂からユンカーの縦パスが通り、体勢十分の状態からフィニッシュ。ユンカーなら決めてくれそうな場面ですが、珍しくフィニッシュワークが甘くなり決めきれません。
 起点を作ることは何度かできたものの、それもこぼれ球が偶然浦和側に渡ったりしたためで、スムーズにいったという印象ではありませんでした。ユンカーが体を張ってボールをキープするタイプではないので成功率も高くないし、せっかくボールがこぼれてきても江坂がすぐパスミスをしたりしたことも印象が良くなかった。

ビルドアップ

 ロングキックより数は少なかったですが、ビルドアップも試みました。ビルドアップもいつもと違う形でしたが、これは岩尾不在のためというよりは3-4-2-1の形を採る湘南対策だったと考えるべきでしょう。

20分のビルドアップのシーン①
20分のボルドアップのシーン②


敦樹と柴戸が瀬川・池田の後ろに立つことで、瀬川・池田は背中で浦和ボランチ二人を消さないといけない。ウェリントンもそこまで速いチェイシングはしないので岩波・ショルツでもボールを動かし続けます。そして江坂が降りてきてボールをもらいます。
 このビルドアップも、初見で抱いた印象よりは悪くなかった。ボランチは動かず江坂が左サイドのあの位置まで動いてボールを受けるのは、戦術的に見れば非常に興味深い動きです。いくつか中盤を抜けたシーンもありました。ただ、やはり後半岩尾が入ってからはスムーズさが全然違いました。逆に言えば、岩尾がいればこんなに手の込んだことをしなくてよかった、とも言えます。

リンクマン不在で分断された前後左右

 もう一つ、この日は狙いがあって右サイドから組み立てていく共通認識がありました。右の狭いところばかり行くなあ、とこれもやや印象が良くなかったのですが、45分のシーンでこれはわざとやっているな、と考えを改めました。

45分の右サイドの攻撃①
45分の右サイドの崩し②

 なので実は振り返ってみると、前半について、初見の印象ほどは悪くなかったことが分かりました。やりたかったことは、右に起点を作って中央か左(ユンカーかシャルク)でフィニッシュ。左右でアシンメトリーな役割を担っていました。このシーンでも右サイドの崩しにこだわっていたことがよく分かります。初見は全くうまく行っていないように見えましたが、それはいつもと明確に違うことをやっているからで、スムーズではないものの狙いを持ってトライしていたことが分かりました。
 シャルクがサイドに入ったときは偽WGとなり、江坂も偽FWとなるのでしょう。左からシャルクが一気にゴール前に入ってきて、江坂はビルドアップやラストパスがタスクとなります。
 戦術的に、特に攻撃面で創意工夫を凝らしたことが分かります。しかし、結局先制点は奪えなかったですし、浦和側視点なので触れていませんが湘南の攻撃により前半は多く決定機を作られています。決められてもおかしくない、湘南にしてみれば決めなければならないチャンスが数回あった。いかに前半不安定だったかが分かります。前述の通り左肩上がりの布陣となったので当然左サイド、湘南から見て右サイドが空きます。そこからチャンスを作られましたし、DFラインが下がってしまった後は左サイドの中野の個人技でもこじ開けられるシーンがありました。振り返って浦和側にも狙いがあったことは分かりましたが、それでも湘南優位で救われた前半だったことは間違いないと思います。
 こうなった要因ですが、やはり岩尾不在が影響したと見ています。これまでの試合でも、当然各選手に求められる役割がありました。この試合でも同様だったわけですが、各選手が自分の役割に集中した結果、前後左右で分断されたような格好になったと思います。例えると決め球がストレートならストレートだけ投げているような感じです。岩尾はまさに各選手を繋ぐリンクマンで、それは前後左右、攻撃と守備を繋ぎ緩急を付ける役割を担っています。ベンチからの指示を遂行するためにピッチ上ではあえて逆のことを行うなど、敵を陽動しながら最終的にチーム戦術を遂行するのです。各選手のタスクを理解しチームとして今何をすれば良いのか、岩尾は常に考えながらプレーしています。ベンチが指示しきれるものではなく、自ら考え構築しプレーすることでしか実現できることではありません。チームとして行うための舵取り役が現浦和では岩尾なのです。
 敦樹や柴戸は素晴らしいボランチですがその域には達していません。この試合でも、自分の役割は十分に果たしているものの、リンクマンとしては不十分ということになります。いかに岩尾が難しいことを毎試合しているか分かると思います。Jでその域に達している選手はほとんどいないのではないでしょうか。ハブを失った組織が潤滑せずきしむことは、ある意味当然の帰結ではありました。

岩尾が入った後半、決定力不測の要因

落ち着きを取り戻した組み立て

 後半開始より敦樹に代わって岩尾が入りました。柴戸と代えなかったのはやはりルヴァンカップを見据えてのもので、敦樹を後半で代えることは元々決まっていたものであるような気がします。
 岩尾が入りましたが、やはり積極的にCBラインに降りていくことはしません。相手2シャドーの背後に立ちます。ただ、一度降りたことがあって、それは58分のシーンだったのですが、これはベンチの指示ではなく岩尾が考えてのプレーだったと思います。こうして色々なパターンを織り交ぜながら攻撃を組み立てリズムを取り戻し、後半は浦和ペースになりました。何が改善したかと言うと、「安定感」と「リズム」ということになるのですが、これだけで劣勢が優勢に変わり、走力の湘南が前に出られなくなるのでサッカーは不思議なものです。でもそうした空気感やメンタルが試合の流れに大きく影響することは間違いありません。

結局遅攻でノッキング

 岩尾が後半から入り、攻撃はスムーズさを見せます。一つ一つのプレーが気が利いていて、安心感もあるからチームに落ち着きをもたらします。厳しいことを言ってしまうと柴戸はバタバタしているような印象があり、味方も見ていておっかないボールの持ち方をします。それでもスルスル抜け出したりスキルフルではあるのですが、柏戦の失点などたまにやらかしてしまうところがあります。この試合ではそうしたシーンはありませんでしたが、周囲は疑いの目を持ってみてしまい、柴戸を信じてラインを上げられなくなる。なので、柴戸はともかく安定したプレーを長く見せることが最も重要なことだと思います。安定したプレーの中で状況判断を磨くことが大事だと。
 スムーズな繋ぎができるようになり、湘南ゴールに迫りますが、急戦で攻め切ることはできず遅攻になります。湘南はセレッソほど強固な守備というわけではありませんでしたが、やはりそこは走力の湘南、浦和より8kmも多い走行距離119.8kmの走るサッカーで、あっという間に守備に戻ります。こうして固められてしまうとなかなか打つ手がなくなってしまうのが今の浦和。56分のシーンでもノッキングを起こし結局クロスを「上げさせられて」しまいます。

56分の攻撃①
56分の攻撃②

 最近ではクロスを上げた瞬間に「ダメだ」と思ってしまいます笑。前節でも言及しましたが、そもそも登録メンバーにおいてヘディングで合わせるタイプのFWを一枚も用意していないのだから、単純なクロスは期待できるわけもない。期待感があるのはボランチの敦樹くらいですがその敦樹もおらず、案の定クロスは合わせるどころかこぼれ球にもなりませんでした。
 岩尾が入り中盤をオーガナイズしビルドアップを安定させチームを落ち着かせました。ただ、岩尾のタクトの先、最前線のところでは未だブロック突破の攻略法が確立できていません。

打破する可能性を見せた佳穂と岩尾

 こうした中でもブロック突破の可能性を見せてくれたのはやはりレギュラー陣でした。特に素晴らしいと感嘆した佳穂のトライがあったので紹介します。最終的にはうまく繋がらなかったのでエラーとなりましたが、素晴らしいトライアル&エラーだったと思います。

65分 佳穂の狙い

 佳穂はやはり非常にインテリジェンスがあって、現状の課題に対し考え実行に移す個人の「PDCA」が回せている印象を受けます。岩尾と同様です。こうした選手が伸びるし、長く活躍し選手生活を続けられる選手なのだと思います。岩尾や小泉の希少性はこうしたところに理由があるのだと思います。
 その岩尾も素晴らしいタクトで起点となりあわやゴールというシーンを演出しています。72分のシーンです。

72分岩尾のスルーパスによる決定機

 佳穂と岩尾は現状の浦和の課題が分かっていて、それを打破するためにトライアル&エラーを繰り返しています。クロスは有効になり得ないと分かった上で、じゃあどこを狙えば良いのか、そのポイントとタイミングを探しながらプレーしている。願わくばこうした佳穂や岩尾のトライをチームとして取り組むようになってほしい。前節レビューで残しましたが、遅攻時でも相手をずらしギャップやスペースを作って攻め込む手はあります。川崎も良くやり切れずにゴールキックになったりしますが、うまく繋がらないときはそうなりますし、うまく繋がればゴールになります。トライアル&エラーを繰り返すしかない。難しいのは承知です。
 他の選手についてですが、江坂についてもずっとトライアル&エラーを繰り返している。自分の責任と背負い込んでタスクを担ってくれていることは伝わってきます。江坂の場合は逆にそこではなく、何でもないパスや繋ぎの際に周りにリズムを合わせてほしいのですが。

岩尾に代わる人材の難しさ

平野か安居か、あるいは別の人材か

 現在の岩尾は自分のターンにおいて常に最善手を打てています。ボールキープもパスの精度も高く、何よりピッチ全体が見えていて長短のパスで最善のパスが出せる。守備についても、危険の芽を摘み時には最後列で体を張ってシュートブロックする。岩尾については代役がいないことを改めて痛感した試合になりました。
 今回、前線は松尾・小泉に代えてユンカー・江坂に代えました。正直、戦術的にはファーストチョイスの二人に比べ攻撃・守備とも一段下がってしまう印象(あくまで私個人の印象)です。もちろん、個人の能力としては例えばユンカーの抜け出しとフィニッシュはJナンバーワンだと思いますが、ユンカーの特長を戦術に組み込む難しさと、ボールキープや守備を含めた戦術理解度などでチーム力が下がります。江坂は前述の通りそろそろチームのリズムに合わせてくれないとまずい。ビルドアップや繋ぎのミスが多すぎます。二人のネームバリューからするとシーズン開始直後には中々考えられない状況ですが、現状では控えという扱いも順当だと思っています。
 今節、前線がセカンドチョイスである中で、先発を岩尾まで代えたのはどうなのか、というのが私の感想です。もちろん、これまでずっとフル出場で闘ってきていて疲労も蓄積していたことも当然あります。なので致し方なかったのでしょうが、敦樹や柴戸も素晴らしいボランチであるものの岩尾の代わりが現時点でいないことを改めて痛感しました。
 平野は恐らく負傷から復調していないのだと思いますが、平野が万全であっても岩尾の代わりがすぐに務まるとは思えない。パスセンスは岩尾に劣らないものがありますが、ボールキープと、特に守備の面で難があり、そこは平野が改善していかなければならないポイントです。また、チームをオーガナイズするという面で、まだ一段、二段レベルアップしなければならない。自分が不要なカードをもらっているうちは岩尾を超えることはできない。
 もう一人、実は安居は岩尾と同じことができる素養があると思っていますが、なかなか使われない。敦樹と同じ役割を担うことがありますが岩尾の位置で使われない。ただ、安居も実は周囲が良く見えていて、よくここに付けたなと唸らせるパスやあっと驚くターンをします。守備強度も高くクリーンです。岩尾の後継者は安居が担ってくれると信じていますがなかなかどうして使われない。リカルドはしっかり見てくれていると思いますが、今シーズンのプレーぶりを見ると安居はもう少し信じてあげても良いのでは、と思います。宮本は試合で使って育てようとしていますが、安居はちょっと違うアプローチで育てようとしているのかもしれません。
 あるいは別チームに人材を求めるというのもありますが、今すぐ代わりを務められそうな人材は思い当たらない。成長によってその領域に達していきそうな選手は何人かいますが、そうした選手を引っ張ってくるのは当たり前ですが簡単ではない。前の試合のレビューでも書きましたが、平野と安居を育てることが一番の近道だと思います。
 今シーズン、リーグについてはセレッソ戦、そして今節でACLラインすら絶望的となりました。来期こそ優勝が求められます。私はリカルド継続を支持しますが、それでも来期優勝は必達目標だと思います。そのためには代えられない選手、SIM(ショルツ・岩尾・松尾)の代役を探し、あるいは彼らを超えられるような人材を確保しなければなりません。そうしなければチーム力の底上げにならないし、優勝なんて夢のまた夢、今シーズンと同じことを繰り返します。ショルツの代役を内部から探すのはちょっと無理そうなので海外選手も含めて獲得ということになると思いますが、平野・安居はしっかり育てていかないといけない。降格もACLもほぼない状況になったので、逆に考えれば、リーグについては来期を見据えて戦力を育てていく割り切りも必要な段階になっていると思います。

 いかがだったでしょうか。セレッソ戦、湘南戦と正直、落胆した結果ではありますが、外せない選手たち(SIM)の代役がいない、特に今回は岩尾不在の難しさを実感しました。触れませんでしたが、松尾がいれば決めてくれたかもしれないしアシストしてくれていたかもしれませんでした。少なくとも選手たちが押し上げる時間とスペースを作ってくれていたようにも思えます。岩尾、松尾、それから明本(大畑がU-21追加召集のため不在)、前半で代わった馬渡(代表選出で宏樹が不在)は恐らくルヴァンのための温存だったと思うので、ルヴァンではリーグの雪辱を果たすことを期待して応援したいと思います。


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