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~戦術の応酬となった伝統の一戦。物足りない結果と更なる成長の可能性~ 浦和レッズレビュー9 2022年9月3日 J1第28節鹿島戦(A)

 3週間ぶりの再開となったJリーグ、再開初戦は鹿島とのアウェイ戦。伝統と因縁の相手ですが、実は戦前の予想では勝利すると思っていました。サッカーの戦前予想ほどあてにならないものもありませんが、チームとしての完成度や戦術などを鑑みると確率で言えば勝利する可能性が高いと思っていました。
 しかし蓋を開けてみると相手が云々というよりメンバー編成のところで苦しい状況となっていました。コロナ感染者がトップチームにも出たということで、ベストメンバーを組めずポジションの配置換えも余儀なくされました。アウェイ名古屋戦が顕著な例ですが、まだ「誰が出ても勝てる」領域にはなっていないので、戦前から暗雲が立ち込めました。
 結果としては、内容では浦和が勝利に値したといえるものでした。しかし、浦和側の致命的なミスもありドロー。勝ち切りたかった、というのが本音です。今、浦和は本当の強さを身に付けつつあります。しかし、あくまで途上だということも痛感しました。振り返っていきたいと思います。

戦術の応酬となった伝統の一戦

 タイトルにもした通り、浦和ー鹿島というのは両チームのサポーターの因縁も浅からぬものがあり、内容はともかく、順位も置いておいてとにかく勝つことが求められる一戦です。ガンバとの一戦がナショナル・ダービーと位置付けられていますが、サポーターとしては鹿島との試合も同じことが言えるでしょう。ただ、蓋を開けてみると戦術の応酬となりました。結果はと言うと、鹿島の岩政監督は就任から1月も経っていない状況。戦術面では浦和が上回ったと言って良いと思います。

13分浦和のビルドアップ

 13分の浦和のビルドアップのシーンが特徴的です。この日、鹿島は4-3-3シフトでスタートして驚きました。これはビルドアップ時に最終ラインの3人をマンツーマンで見て、速いプレスで綻びを突いてポジトラを作り出す狙いなのは明白です。クロスとともに鹿島のこの日の狙いの一つでした。伝統的な4-4-2が特徴の鹿島からすると異質で、完全に浦和対策の戦術です。さすが理論派の岩政監督らしいなと感じました。実際、岩政監督の狙ったとおりの形となったシーンも2、3ありましたが、多くあったビルドアップの機会で、鹿島としてはほぼ包囲網を搔い潜られる結果となりました。10分の素晴らしいビルドアップからのフィニッシュはリカルドが志向する形の一つで、指揮官としては完成形でしょう。

10分のビルドアップからの見事な攻撃

 鹿島は相当なプレス速度、強度で迫りましたが見事に躱しゴール前まで迫りました。関根の大きなサイドチェンジで一気に相手陣地奥まで進める判断と言い、パーフェクトな形で惚れ惚れしました。戦術としてはできることはこれが限界であとは決めるか決めないか個人の能力と連携次第です。もう解法は分かっているのであとはこの形の精度を突き詰めていくしかない。
 なお、鹿島は潰せないと感じたのか、はたまた2点リードしたからなのか、途中から3枚で極端に詰めていくことはやめ、リトリートに切り替えました。その時は仲間が中盤に落ちる形で4-4-2にシフトしていました。10分のシーン以外でも、ビルドアップから浦和に一気に攻め込まれた場面があったので、これは懸命な判断だったと思います。この辺の鹿島の対応力はさすがというところです。

 失点シーンですが、先制されたシーンはまず前提としてカイキを褒めるしかない。危険度としては低いあの形で決められる選手がどれほどいるかという話です。しかし一方で、カイキのヘディングの強さは周知でもあり、スカウティングでも当然警戒していたはずなので(リカルド監督のコメントからも、クロスの形を警戒していたとのことなので)、フリーでヘディングさせてしまったことだけは反省材料として今後に生かせば良いのかなと思います。前半戦の横浜FM戦でも決められているので(アンデルソン・ロペス)、ヘディングというかもっと言うと「首の強い」選手がいるならあの形でもマークをしっかりつけた方が良い。通常なら可能性が低い形なのですが、鹿島サイドから考えるとその「首の強い」カイキがいるわけですから、彼を活かす戦術として論理的だし、実際狙い通りになりました。
 2失点目も、カイキのシュートが岩波のスライディングに少し触れたことで、ボールスピードが落ち、かつインスイングの回転が強くかかり彩艶が読み違えてしまった。あの距離で、かつ前にDFがいる状態であれば、本来危険度としては高くないので、不運でもありもったいない失点でもありました。アンラッキーではありましたが、防げただろうシーンなので彩艶は今後に活かしてほしい。20歳の若手ですからね。戦術的にどうこうはないシーンですが、ミドルシュートを積極的に打てばこういうこともある、という教訓ですね。
 後半浦和は5-3-2にしました。関根がDFに落ちる形です。これにより鹿島がクロスを上げられなくなり手詰まりとなりました。この修正力もさすがリカルドです。鹿島はまだクロス以外の攻撃の形がなく、前半かなり飛ばしてチェイシングした結果、後半が進むにつれ鹿島は追うことができなくなり、ポジトラを作り出せなくなった結果、ワンサイドゲームとなりました。厳しいことを言えば、浦和は前半もそうですが、特に後半は点を取らなければなりません。終了間際の明本のチャンスは決めたかった。右利きの選手だったら決めていたでしょう。左足に持ち替えた分、舩橋のタックルが間に合ってしまった。守備も攻撃も、まだ控え組の精度に課題があり引き分けとなってしまった、ということですね。ただ、逆に言えば控え組でも勝利目前となるくらい、戦術が浸透しているということも言えます。

遅攻で奪った価値ある1点目、更なる成長の可能性

 初夏までのチームは遅攻でゴールを奪うことができず、決定力不足を露呈し下位に低迷しました。その後、チームは松尾のワントップという解決策を見つけ、「速攻」という武器を引っ提げ好調を維持しています。ですが、この試合で奪った1点目のゴールは速攻の象徴である松尾のゴールですが、久々に「遅攻」から奪ったゴールでした。ゴール前を固められた状態から奪ったゴールは今シーズンそんなに多くないはずです。ゴールパターンがまた一つできたことは非常に重要なことです。速攻とともにこの遅攻を使い分けて行くことができれば、対戦相手を自在に混乱させることができる可能性を秘めています。
 実際の場面です。カイキのクリアミスを敦樹がヘディングで佳穂に繋ぎマイボールにしてから、実に17本のパスを繋ぎました。しかもユンカーと岩波を除く全FPが絡んでいます。サイドも中から左、左から右、中、また右と広く展開しながらのゴール。しかもこの前のプレーも押し込んでいて、速攻の要素がないゴールです。流れで図を並べます。

29分1得点目①
29分1点目②
29分1点目③
29分1点目④
29分1点目⑤

 このゴールで最も大事な点は、「クロスの選択肢を取らなかった」ことです。その点で、鹿島と真逆の思想だったということが言えます。少なくとも左で松尾が受けた時、そして右で関根が受けた時、定石からするとクロスが選択肢となる。図③、図④で示した通りユンカーが飛び込むスペースがあり、タイミングも合っていた。しかし、二人とも最終的にパスを選択した。
 浦和はここでクロスを上げても点が取れるチームではありません。松尾もユンカーもヘディングで競り勝つタイプではないからです。ここでクロスを上げるならターゲットマンを獲得しなければならない。今シーズンの前半戦は、このタイミングでクロスを入れていた。幾度となく相手陣地まで押し込んではクロスを上げて跳ね返されての繰り返し。攻めてるのに点が取れる気がしない、そんな状態でした。
 それが現在、選手の統一した意識として、むやみにクロスを上げることを排除して、ペナ横のスペースを創出して使うという、戦術的に高度な展開をやってのけたという点にこのゴールの価値があります。戦術的には今シーズンベストゴールだと思います。手放しで賞賛したいゴールです。
 速攻は既に確立されつつあります。岩尾、岩波が入れる縦パスからスイッチが入り早く攻め切る形は選手たちも既に自信を持っているでしょう。これに遅攻という武器も備わればさらにチームは飛躍するでしょう。
 なお、ポイントは使い分けだと思っています。間違ってもミシャ時代のように遅攻のみになってはいけない。それは守備バランスも崩してしまいます。数字に根拠はありませんが速攻3の遅攻1くらいの比率が良いのかなと思います。少なくとも速攻の方が多い方が良い。相手へのダメージとネガトラ時のリスクヘッジを考えれば。
 新たな武器を手にしようとしています。良いバランスと共通認識を持ちながら新たなフェーズに入ろうとしています。本当に今楽しみしかないような状態です。

本当の強さを身に付けつつある今

 初夏までのチームであればアウェイ鹿島を相手に2点差を追いつくことはできなかったでしょう。逆転のチャンスも多く作ったし、むしろ内容としては逆転すべきものだった。驚くべき成長です。この2か月ほどで戦術や個の能力に加え底力がついてきた。
 今、浦和は本当の強さを身に付けつつあると思っています。前章でも述べた通り、新たな武器を手にしつつあり、それをモノに出来れば勝ち続けるチームになれる、そんな感覚です。それは、2006年頃のリーグ優勝、ACL優勝を果たした時の感覚と近いものです。どのチームが相手でも負ける気がしない、先制されても最後には逆転勝ちするだろうという自信がチームにもサポーターにもあった。そんな時代もあったのです。ミシャ時代の2016年も年間勝ち点1位、当時のJ1歴代最多勝ち点だったわけですが、あの時代はチャンピオンシップ決勝で鹿島に追いつかれてしまうような脆さがあった。特に大事な試合ほど落としてしまう勝負弱さがあり、普段勝てる相手にここ一番で勝てなかった。
 今のチームは2006年頃の感覚に近い。それはやはり守備がしっかりとしているからでしょう。守備が土台となり、攻撃も良いサイクルに入ってきた。守備・攻撃が2分化されずシームレスにできている。2006年頃のチームはエメワシというチート級外国人に、DF、MFには日本代表クラスの選手もいて盤石の体制だった。それに近い。今の方がより個の力に頼っていないのでさらに良い状態とも言えます。
 もちろん課題もあります。チームの底上げです。今回のようにコロナでベストメンバーが組めない状況は来期以降も発生するでしょう。そしてコロナを契機に交代メンバーが5人まで認められるようになった。FPを半分代えられるのです。したがってベンチメンバーがどう試合に変化をもたらすかも勝敗に大きく影響します。そのため、誰が出ても一定のパフォーマンスが約束されるチーム力が必要ですし、ベンチメンバーも激しい争いとなるくらいの選手層が理想です。若手が突き上げてくる状況が理想ですので、リカルド監督はうまく回していると思いますが、もっともっと個々のレベルを上げていくことが今後の成長のポイントになると思います。特に若手。ミスのあった彩艶や、やや物足りなさのあった宮本はもちろん(二人とも良いプレーもたくさんありました)、ほとんど出場機会を与えられていない木原も早くベンチメンバーに入ってほしいし、貪欲にレギュラーを奪いにかかってほしい。レンタルバックになる(と信じている)荻原や福島、武田、藤原もです。そのメンバーがどれだけ台頭して現メンバーを脅かすかが今後の成長のカギになると感じました。まさに浦和の時代を迎える前夜という予感がしていて、年甲斐もなくワクワクするような心持ちで過ごすことができています。きっと実りの秋になると確信しています。

 いかがだったでしょうか。ご感想などいただけると大変ありがたいです。お読みいただきありがとうございました。

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