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浦和レッズの分析と雑感3 2022年7月10日 J1第21節FC東京戦(H)

第3回です。今後の分析レベルアップのために忌憚ないご意見をいただけると大変うれしいです。

アジェンダ

・ハイライト
・両SMFとFW松尾の戦術的な貢献
・交代策の的中
・前節を完全に払拭した西川
・リーグ後半戦巻き返しへの期待

ハイライト


 試合開始から浦和ペース。浦和が良かったというよりは東京が良くなかったというか、とにかくビルドアップのミスや簡単なボールロストに助けられショートカウンターを幾度となく浴びせます。31分の得点シーンも梶浦から木本へのパスが乱れ、奪った松尾が木本のタックルを受けながらも倒れずにモーベルグへラストパス。良い時間に先制ゴールが生まれます。前半、FC東京はチャンスらしいチャンスは数えるほどで、得点の可能性があったのは34分のレアンドロの単独突破と松木のロベカルを彷彿とさせるFKくらいでした。いつもの4-3-3ではなくレアンドロとDオリヴェイラの2トップにして恐らくカウンターを狙った形ですが、結果的に不発でした。
 しかし松木のFKは素晴らしかったです。警戒してても止められないかもしれないし、ましてや初見では西川が一歩も動けなかったのも当然でした。ゴールポストに救われました。
 後半も開始直後、まだ東京のパス回しが覚束ない中、50分に押し込んだ状態から伊藤の素晴らしいミドルシュートが決まり浦和が突き放します。2点差となってようやく東京も浦和陣内にボールを運ぶシーンが出てきますが、フィニッシュはレアンドロのミドル、CKと流れの中からはなかなかチャンスを作れません。東京は59分にオリヴェイラが負傷交代、山下が投入します。シンプルに山下や同じく途中出場の紺野に展開するようになって浦和陣内でボールを保持する時間が増えますが、効果的なフィニッシュには至らず、逆にカウンターから浦和が決定機を作ります。浦和は69分に江坂、明本、馬渡を投入します。この交代が功を奏します。馬渡のロングスローから江坂が一気にモーベルグへ展開、モーベルグがドリブルしながらペナ内進入、江坂にヒールで繋ぎ江坂が大久保へラストパス。大久保は合わせるだけではありましたが難しいボールを綺麗に合わせ3点目。試合を決定づけます。その後も江坂や明本を中心に効果的なカウンターを展開。久々の出場となった馬渡にも1対1の決定機が訪れ、更なる追加点を奪っても不思議のない展開となります。試合は3-0で終了。浦和の完勝と言っていい内容と結果でした。


両SMFとFW松尾の戦術的な貢献

 京都戦、そしてこの東京戦と内容としては浦和が勝利に値したものと言っていいと思います。上昇気流に乗っていきそうな期待感が一気に湧き上がっていますが、これはモーベルグ・大久保の両SBとFW松尾の起用が相手にとって脅威になっているからだと思います。この3人のおかげで、いつ完成するか見通せなかったリカルドサッカーが一気に完成度を上げています。リンセン加入、ユンカー・シャルクの復帰後にどうなるかは未知数ですが、この3人の構成がパターンの一つになりそうなのは間違いありません。
 持論ですが、基本的にボールを保持するチームのウイング、またウイングの役目を担うSMFはドリブルができる選手でなくてはならないと思っています。片側はクロサーなど色々なパターンはあれど、どちらかはドリブラーが望ましいし両方そうならなお良い。パスすれば一点取れる場面でドリブルするような戦術眼の低い選手は論外ですが、ドリブルという選択肢があるからパスが生きるし相手DFはドリブル、パス共に警戒しなければならず混乱します。パスしかないと分かっていればドリブルを警戒する必要はありません。ドリブラーがいるから戦術がさらに鋭さを増すのだと考えています。「基本的に」としたのは、例えばワールドカップ本大会のように、実力差が明らかでも勝利を目指さなければならない場合などはこの限りではないからですが、J1リーグを闘う浦和レッズにおいては例外をあまり考えなくて良いと思っています。
(7/13 公開後に、ウイングやSMFがドリブラーが望ましいという持論に、「ボールを保持するチーム」という前提を加えました。大事な前提が漏れておりました。つまり、速攻型はこの限りではありません)
 浦和もミシャ以降ドリブラーの確保に注力してきましたが、関根や汰木はドリブラーの部類にもちろん入るものの、「自分の間合い」になった時に勝負するタイプでした。具体的には、相手と正対してかつ数歩ステップでタイミングを図ってから勝負するような場面です。あるいは相手が二人寄せて来る場面で相手を引きつけて間を割るドリブルといったような、状況を利用するドリブルです。
 これに対し、モーベルグや大久保ももちろん自分の間合いはありますが、自分でそれを作り出すことができる点が異なる点だと思っています。モーベルグはシザース、大久保は体の向きを細かく変えるなどで強引に相手を間合いに引き込めます。さらにモーベルグはカットインからの巻いたシュートがあり分かっていても止められず、大久保はトラップからの間髪入れない突破や単純なステップワークのアジリティも高い。大久保は右サイドだけではなく利き足と同じ左サイドでも仕掛けられる強みがあります。細かい違いにも思えますが、相手に与える脅威が格段に違います。

80:00の大久保の仕掛けによるチャンス

 大久保は今期最大のサプライズですし、モーベルグも守備面の戦術的理解が充分でないという理由でスタメンから外れていたと思っていましたが、直近の試合では二人とも守備面のタスクもこなせています。例えば関根や明本起用時より守備強度は確かに落ちますが、どちらを取るかという話なので、今の2人の活躍ぶりからすればそのリスクは許容すべきだと思います。
 この二人はさらに良くなる気配がある、というのも期待感が増す理由です。

42:40頃

 この場面では、モーベルグの独特のタイミングから佳穂にリターンするというシーンで、佳穂が予測できずタッチラインをアウトしました。もし感じていればパスは通っていて佳穂の正確なクロスが上がっていたかもしれません。このあたりはフィールドで時間を重ねていくしかないところだと思います。まだコンビネーションという意味ではこれから、というところもあり、周りとの関係が成熟度を増すとさらに期待が持てそうです。

 続いて松尾です。松尾のFW起用もシーズン開始時には想像できなかった形ですが、対戦相手が嫌がっているのが一目瞭然です。前節の解説でも記しましたが、松尾はスピードがあるのでユンカーでやりたかった「縦に速い攻撃」が実行できます。またキープ力、単独のドリブル突破もあるので味方が思い切って押し上げられます。敦樹がどんどん飛び込んでいけるのは前線でキープできる松尾の存在(とビルドアップを一手に引き受ける岩尾の存在もですが)があってこそです。31分の先制シーン、まさに松尾の魅力が凝縮されたゴールになりました。

31分先制シーン①
31分先制シーン②

 ボールをカットした松尾は木本からのプレッシャー、さらに後方からのやや危険なタックルを受けますが持ち前のドリブルで引きちぎります。PKをもらいにいったりすぐに味方にパスをせず深くまで抉ったことで、触れば一点というシーンを独力で作り出しました。松尾の真骨頂とも言えるプレーです。

 また、江坂もそうですが、松尾も発送力に唸らせられるシーンがあります。50分の敦樹のミドルの直前の場面ですが、松尾のプレーがすごく面白いと感じた場面がありました。


49分松尾のノールックパス

 スローインを受けた松尾は木本のプレッシャーを受けながらキープします。通常なら後ろに下げそうなシーンで、松尾はペナ横へのノールックパスを選択します。味方の宏樹すら感じておらず、減速していた宏樹はやや慌ててダッシュしなんとかスライディングでクロスします。このシーンはFC東京も中の準備ができておらず、森重が何とかクリアしますが合わせられれば一点というシーンでした。そして、大きくクリアしきれなかったFC東京守備陣はラインを上げず低い位置で守備ブロックを敷く選択をします。これが次のプレーである敦樹のミドルシュートでの追加点に繋がります。敦樹のミドルシュートが決まったあの瞬間、敦樹よりも前方にFC東京のフィールドプレーヤーが何と8人いました。松尾が後ろに下げず前進を選択したことで、相手を引かせミドルシュートへの寄せを遅らせる効果をもたらしました。
 このように松尾の大胆不敵なドリブルやパスが、相手に脅威を与えていて、それが好循環に繋がっています。リカルドの戦術と個人の能力がマッチしていることが、チームが上昇気流に乗りそうな気配を感じさせるのでしょう。

交代策の的中

 この試合では交代策も的中します。3点目のシーン、馬渡と江坂の交代組のイメージが合致します。

70分3点目①


70分3点目②

 スローインで馬渡が素早くロングスロー気味に江坂に。江坂は反転しすぐにモーベルグの前のスペースにロングパス。このパスが通ります。モーベルグはシザーズでドリブル。この時、前節も決め切った巻いてファーサイドへのシュートがFC東京守備陣の頭によぎったでしょう。ドリブルの間に江坂が長い距離を走りモーベルグを後方から追い越します。このタイミングに合わせてモーベルグがヒールパス。タイミングといい完璧なパスとなります。江坂はワンタッチで大久保の足元に折り返し、大久保はショートバウンドのボールに見事に左足を合わせ3点目。タイミングといいアイディアといいFC東京が全く対応できなかったビューティフルゴールとなりました。あのコンビネーションであればどのチームが相手でも得点ができるでしょう。
 このゴールは素早くスローした馬渡、そして何と言っても江坂のイメージが具現化したものです。江坂は京都戦もそうでしたが、得点から逆算するようなイメージを持っています。なので味方が感じていないと通らないパスも多い。

72分のシーン

 これは3点目の直後、72分のシーンですが、江坂が一気に局面を進めるロングパスを展開します。敦樹のパスを受けた江坂が松木を引き付けながら右に流れます。すると、松木が引き出されてレアンドロは人を見ていないので、宏樹がフリーでかつ宏樹の前方のスペースががら空きとなっています。バングーナガンデはモーベルグを見なければならないので外までケアできない状況です。江坂はこの状況を好機と見て一気に右サイドのスペースへ展開します。しかし残念ながら宏樹が感じておらずアウトします。点差もあり宏樹は速い攻撃のイメージを持っていなかったのだと思いますが、もし感じていれば一気にチャンスになった場面でした。江坂の戦術眼の高さを感じるプレーでした。
 3点目を影ながら演出した馬渡も相変わらず試合巧者ぶりを発揮します。3点目もそうですが自身も84分に江坂のラストパスから1対1で決定機を迎えるなど試合勘も全く問題なさそうです。サッカーをよく知っているということを感じさせる選手です。頼もしい選手が戻ってきました。
 また、明本も相変わらずらしさを全面に出して闘います。前節ハムストリングを痛めたという情報もありましたが、73分にはガツンと木本にショルダーチャージ、こぼれたボールを左足ヒールで隠してファールをもらいます。味方を助けるプレーですし、ハードに闘う一方で繊細な左足も実は持っている、明本の特長が表れたプレーでした。決定機もあり、明本にも決めて欲しかった、取って欲しかったと思いました。

 唯一、心配になったのが関根です。途中出場するも85分からのイン、しかも当初予定は平野でしたが相手の交代を見て急遽関根に変更したものでした。88分のファールは完全に余計なもので、ファールした瞬間にイエロー貰うなと感じました。案の定イエローカード。大久保とモーベルグの活躍や自身の扱いに不満や苛立ち、焦りを感じていることは想像に難くありません。ですが、結局自身のパフォーマンスで見返していくしかありません。例えば明本のように、SBで起用されてもそこで全力で取り組み自身のカラーを発揮する。そういう姿勢が今関根には求められているのだと思います。

前節を完全に払拭した西川

 前節の2失点目、西川のミスで失点しました。前節のレビューでも触れましたが、これは完全に西川個人のミスだと思っています。もちろんチームとしてビルドアップに取り組んでいますが、受け手の岩尾に問題はなく、個人的な判断ミスと分析しました。
 今節ですが、前節のミスを活かし、チャレンジするところ、セーフティに行くところがはっきりしていました。ビルドアップもセービングもノーミスだったと思います。レアンドロのミドルなど個人技の単発ではあるもののヒヤリとした場面がありましたが、パンチングで確実に弾くなど守護神としての意地、底力を見せつけました。この日のパフォーマンスからすると彩艶が先発の座を奪い取るのは至難の業と言えそうです。ただ、この高い壁を乗り越えないことには浦和の正GKの座は奪えないので、彩艶、牲川もそうですが練習からバチバチの競争を繰り広げてほしい。
 また、J1通算170試合無失点という偉大な新記録樹立。偉業だと思います。まだまだ記録伸ばしていけると思うので、前人未到の記録を打ち立ててほしい。キャプテンとして色々言われることもありますが、私はキャプテンとしてサポーターに真摯に向き合っていると思うし、コロナ禍で難しい立ち位置を求められる中で、現チームで彼以外にキャプテンは難しいのではないかと思います。岩波など強い責任感を持ってくれている選手はいますが、それでも浦和の熱く重いサポーターと向き合うプレッシャーは計り知れません。チームが若返って一手に引き受けてしまっているところが気がかりですが、チームを牽引していってほしいと思います。インタビューは非常に感動的で、彼の人柄が表れているものでした。

リーグ後半戦巻き返しへの期待

 京都戦、そしてこのFC東京戦で良いパフォーマンスを披露した浦和レッズ。これは巻き返しの兆候と見て良いのか、という点ですが、強くなったと確信するにはまだ早計だと思っています。もちろん期待感は持っていますが、7/30の川崎戦を含めた今後の数試合がポイントになってくると思っています。
 よそのチームを心配する余裕や義理はないですが、この日のFC東京はチグハグで自滅したという印象です。本来持つ選手の能力や持っている力を発揮しないまま試合終了を迎えてしまったのだと思います。原因は戦術的な部分にフォーカスしすぎたのかなと見ていて、例えば28分、ビルドアップでうまく浦和のプレスを掻い潜ったと思ったら長友のロングボールであっけなくマイボールを手放してしまうなど、チームとして意思統一が図られていないようでした。恐らく、浦和相手でボールを握られる展開になるので、引き込んでおいてカウンター、キープ力のあるDオリヴェイラ、レアンドロに預けて一気に攻め上がるような展開に持ち込みたかったのでしょう。先日のG大阪戦でも片野坂監督のハイプレス・ハイラインの奇襲によって苦戦を強いられましたが、アルベル監督も違うアプローチで奇襲を図ったものと思います。28分の場面では、他の選手はカウンターが難しいと判断しビルドアップで組み立てたものの、長友はカウンター・急戦の速い攻撃をイメージし長いボールを蹴り出したということになります。このように、選手間でイメージしていることが異なるのではないかと思わせるシーンが散見されました。それがあれだけのビルドアップや繋ぎのミスになったのだと思います。結果論ですが、いつもの戦い方で初めから4-3-3で来た方が浦和にとっては厄介だったかもしれません。FC東京はアルベル監督初年度なので、監督の理想と勝ち点との折り合いをつけながらシーズンを過ごしているということなのでしょう。また怪我人で思うようにスタメンを組めなかった側面ももちろんあります。例えば安部や青木がスタメンでいれば違った展開になったかもしれません。このため、このFC東京戦をもって浦和が波に乗ったと見るのは早計かと思います。
 ただ、今回触れられませんでしたが、佳穂が非常に良いパフォーマンスでした。佳穂ならではのパスやボールキープを随所に見せてくれました。また効果的な守備で幾度もボール奪取をしています。コンディション的にはもう少し上がってくるような気がしています。岩尾のパフォーマンスも右肩上がりです。今や完全に彼がリズムを作り攻撃を指揮しています。浦和で慣れてきて良い意味で遠慮がなくなった気がします。また久しぶりに知念がリーグ戦に出場。CBらしからぬエレガントな守備、ビルドアップを披露していました。彼らしい持ち味を披露していたのでもっともっとメンバーに入ってきてほしい。点差があるとベンチメンバーに出場機会を与えられます。松崎は大久保と同じくサプライズをもたらす才能があると思っていて、もっと出場機会を与えてほしいと期待しています。ここにユンカー、シャルクが復帰し、リンセンが加われば否が応でも期待感は高まります。なんといっても勝利を重ねながら一人ひとりが自信を深めればこれが1番の「補強」になりますので、強さも本物になってくるということなんだと思います。

いかがだったでしょうか。
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