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浦和レッズの分析と雑感5 2022年7月30日 J1第23節川崎戦(H)

 第5回です。が、第4回の清水戦が執筆できておりません…。仕事が絶賛社畜激務中だったもので、なかなか筆が進んでおりません。7月は地獄のような日々でしたが、川崎戦の勝利で吹き飛びました。

 浦和の勝利、3連勝を飾ったことは大きな喜びでした。ですが、当然ながらこの試合についてはそもそも開催の是非について議論されるべき問題があったと思います。それだけ、川崎の状況は酷なものでした。控えにGK3人を登録してまで試合を成立させ、しっかり勝利を目指しピッチで闘った川崎にはリスペクトしかありません。とても公平とは言えない状況下においても、王者のプライドで勝利を目指す姿勢こそ強さの源なのかもしれません。

 それでは早速分析したいと思います。冒頭でも触れたとおり、川崎はスクランブル状態で、それは戦術的な面にも当然影響がありました。なので、特に川崎においてはあくまでこの試合で起きた現象という捉え方が適切なのだと思っています。

アジェンダ

・ハイライト
・守備による勝利
・先制点と追加点が奪えた「早い攻撃」
・23節まとめ

ハイライト

 およそ公平とは言えない異常なメンバー構成での試合となりましたが、さすが昨期までのチャンピオン。ボールを保持し試合を優勢に進めたのは川崎だったと言えます。しかし、浦和も非保持の戦い方の質を高めてきました。先制点を奪ってからの戦い方はそれが結実した形となりました。どのチームにも勝ち切れない状態から、どのチームでも勝てるようになってきました。もちろん途上ですし過信は禁物ですが、10月末の横浜FMアウェー戦が楽しみですし、もっと言うと来年が楽しみなチームになってきました。
 前半開始から浦和はハイテンションで試合に入ります。ハイプレス、強度の高いチャージから押し込みます。得点シーンの詳細は後に触れますが、狙い通りに3分に先制。その後はやや守勢となりますが、16分にこれまた狙い通りのカウンターでワンチャンスを活かします。効率良く得点を奪った浦和は守りを軸に試合を進めますが、さすがは王者、それでもこじ開けてきます。37分の攻撃はLダミアンのシュートに対し西川が神がかり的な反応を見せてストップします。ライン間をタイミング良く狙った絶妙な攻撃でしたし、決まっていれば試合の結果も違うものになったかもしれません。ピンチを凌ぎ2-0という理想的なスコアで折り返します。
 後半も守備を主体としつつカウンターを狙います。後半開始直後には明本が抜け出し一対一に。しかしここはセーブされてしまいます。
 この展開に持ち込めれば大抵の相手には持たせている状態を作れるのが今の浦和ですが、さすが川崎、危うい場面を作ります。47分のマルシーニョのヘディング、65分の家長のワンタッチパスはわずかなズレでシュートには繋がりませんでしたが、いずれも決定機の一つ前まで作り上げます。脇坂のミドルもあって、守備陣はラインコントロールが本当に難しかった試合だったかと思います。この点は後で触れます。
 81分、柴戸が橘田を引っ張って倒してしまいPK。このPKは妥当ですし、柴戸からすれば奪われてはいけないところで奪われ思わず手が出てしまいました。岩波がいましたが間に合っていたか微妙でしたし、折り返されたら確実に一点ものでした。引っ掛けられてしまった時点で失点していたようなものかもしれません。トラップせずクリアすれば問題なかったでしょうが、それも結果論でしょう。このPKを家長に決められ2-1。
 追いつかれてしまう恐怖感が漂いますが、失点後すぐに関根と岩尾の頑張りが結実したゴールが生まれます。85分、キャスパーがスペースに走らせるようなパスを関根に送ります。奪われそうなタイミングでしたが、川崎守備陣も恐らく体力が残っておらず、スルスルと関根が抜け出します。ジェジエウが体を寄せてゴールラインを割ると誰もが思いましたが、関根は回り込んで倒れ込みながら折り返します。反応していたのは岩尾だけ、合わせたボールにチョンソンリョンも反応できず3-1。岩尾は浦和初ゴール、形は割と綺麗でしたが、直向きに諦めず二人が走ったからこそ生まれた泥臭いゴール。これで勝負が決まり、浦和が勝利しました。

守備による勝利

 3得点というスコアで攻撃に目が行きがちですが、この試合は浦和の守備の力が発揮されたことによる勝利と捉えています。川崎は異常な状況でしたが、スタミナ面に不安は残すものの、攻撃陣はほぼベストのメンバーを揃えられました。J屈指の攻撃力を持つ王者に対し、守備陣の要であるショルツが欠場という状況。先制点を奪われることも充分想定されましたが、そして機的な守備によって跳ね返し続けました。この組織的な守備によってファイナルサードに進入させる前にカットする、もしくは進入されたとしてもフィニッシュの部分で自由にやらせないところができている点が、リカルド監督就任後に最も浦和が成長した部分だと言えます。例えば、57分のシーンなどはライン間に通された場面ですが、ゾーンの間隔を一定に保っているおかげでファイナルサードまで進入させず事なきを得た場面です。

57分のシーン

 後ろでシミッチなどとパス交換をした後、谷口がライン間で浮いた形でスペースに出た遠野に鋭い縦パスを付けます。遠野は素早くターンしますがそこは岩波のゾーンの中。岩波がボールを奪います。こうしてフォーメーションボードを眺めていてもこの統率されたラインを打ち破るのは簡単ではないだろうなと思わされます。
 しかしこれだけ統率されたラインで待ち構えていても、実際ゴールを奪われても仕方がない場面も多くありました。8分のあわやマルシーニョが1対1となる場面や、8分のLダミアンのバックヘッドなどは川崎の個人能力の高さでフィニッシュまでこぎつけていますが、危険なシーンにおいても一定の距離間で整えられたゾーンディフェンスの長所である穴が生まれにくい特性が活かされ、最後にしっかり蓋をすることができたと思います。もちろん、最後の踏ん張りのところは西川や岩波など個人の能力や奮闘による部分もありましたが。それにしても、あのスペースや状況からフィニッシュに持っていける川崎もまたすごい…。
 今回特に紹介したいシーンとして、浦和は速攻から得点を奪いましたが川崎も遅攻だけでなく速攻気味の速い攻撃を仕掛けた時がありました。対する浦和の対応について触れたいと思います。11分、川崎のチェンジオブペースによる速攻となった場面です。

11分 川崎のカウンター気味の攻撃①

 川崎のリスタート、川崎は一旦チョンソンリョンまで戻しDFラインで回しますが、シミッチに入ったところでスイッチを入れ一気にカウンター気味に狙います。シミッチから橘田に入ったところで遠野が反転、前を向いてスペースに走り込みます。橘田もタイミングよく遠野を使い繋がります。4-4-2ブロックの中盤までを一気に追い越しチェンジオブペースによるカウンターが発動されます。

11分 川崎のカウンター気味の攻撃②

 うまく反転してスペースで受けられた遠野ですが、ここで浦和の守備に質が発揮されます。遠野がトラップした瞬間、躊躇なく岩波と岩尾がプレッシャーをかけます。恐らく二人とも”ここが潰しどころ”と感じたのでしょう。2方位からプレッシャーを受けた遠野はプレッシャーから遠い左に向き直し、マルシーニョを走らせる裏へのパスを選択。マルシーニョは足元で受けたかったため裏抜けしておらず、宏樹だけが走っていました。宏樹は裏に出されても足元でも良いようにひとまず裏へ駆け出しました。岩尾と岩波でコースを限定していたので、宏樹もそれを踏まえたリスクヘッジのできた守備だったと思います。まさに守備の連動を感じられた場面でした。
 続いてもネガティブトランジションの被カウンターの場面です。63分、裏のビルドアップの場面で岩波から鋭い楔のパスが打たれます。通ったかと思いましたが、ギリギリ脇坂に引っ掛けられ、シミッチの足元にボールがこぼれます。シミッチは間髪入れず遠野に付け、一気にカウンターとなります。浦和はビルドアップの陣形だったため、虚を突かれ、陣形を整えられない状況となります。こうした中でも各人が高い守備意識を見せます。岩波はまた遠野に入った瞬間を狙います。ただ、この時は岩波のゾーンの範疇ではなく、遠野からマルシーニョへと繋がれてしまいます。なおマルシーニョと
家長はポジションチェンジしていました。岩波がつり出されたことで、知念一人の絶体絶命の局面を迎えます。

63分①

 ここで絶妙だったのが知念のポジショニング。ここでは、Lダミアンに通されたら終わりです。知念はそのパスコースを消しながら後退します。この動きによってマルシーニョは自分で突破するか、家長に出すかの2択となります。

63分②

 自力突破するにはゴールが遠く時間がかかりすぎるため、マルシーニョは家長にパス。すると、ネガトラの瞬間から全速力で帰陣していた伊藤敦樹が家長に立ちはだかります。なおネガトラの瞬間、敦樹はビルドアップのために右ワイドにめいっぱい開いていました。知念の冷静なポジション取りと直感的な敦樹の危機察知能力により救われた場面でした。
 この場面では個人の能力で守ることができた場面ですが、高い守備意識が各人に植え付けられている証左とも言えます。まとめで述べますが、この守備意識こそ今の浦和のアイデンティティの一つと言えるものだと思っています。

先制点と追加点が奪えた「速い攻撃」

 続いて攻撃です。この日の戦術・戦法を考える上で、この試合の前提条件を考えないわけにはいきません。おさらいですが、川崎はまさに緊急事態となっており控えが5人、うち3人はGK登録。本職SBは不在で普段ボランチを務める選手がコンバート。しかも真夏、うだるような暑さと湿度。相手の状況を見れば当然、最初から飛ばして圧力をかけるということになるでしょう。川崎が落ち着かないうちに先制点を、という考えは浦和にあったはずです。事実、開始直後よりハイプレス気味にプレッシャーをかけ、強度高くチャージを仕掛けます。2分に宏樹がマルシーニョにガツンとぶつかっていった場面は象徴的です。スタートからテンションMAXで入りました。もう一つ理由があって、先述の通り攻撃の核となる3トップ、脇坂が出場できるということで、オフェンス面ではJ屈指の破壊力であるということです。対して、これも再三触れていますが浦和は守備の要ショルツが不在。後手に回って先制点を奪われるものなら、手負いの川崎に屈する展開も想像できました。こうした事情から、前半からハイプレスをかけていくことはある意味必然とも取れます。
 3分、狙い通りに先制点を奪います。まさかここまで上手くいくとは思っていなかったでしょうが、まさに急造コンバートSBの弱点を突くような形となりました。

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先制点のシーン

 圧力を掛け続けて川崎陣内でゲームを進める前半、一度川崎にボールを奪われますが、珍しく家長が中途半端な浮き球パス、敦樹が回収し混戦のボールが江坂にこぼれ、モーベルグに繋ぎます。モーベルグはこのプレーの前にも縦に行って右足で精度高いクロスを上げていて、その印象があったのかウイングのマルシーニョが全速力で戻り守備に加わります。これで、モーベルグが中に切れ込んで左足、という線を消すことができたのですが、橘田は縦への突破を許してしまいます。まさにここで、本職SBであればマルシーニョの動きを見て縦突破に絞れますが、橘田は絞り切れなかった。ライン際を縦のコンビで守るセオリーのようなものですが、それが欠けていたプレーでした。当然橘田を責めることはできません。が、ゴール直後にマルシーニョが怒っていましたが、それは橘田の判断に対してだと思っています。マルシーニョも試合後など冷静になっていれば責めることなどしないのでしょうが、試合中の余裕のないときだったため、咄嗟の反応が出たのでしょう。
 もう一つ、CB、GKも含めてかもしれませんが、ちょっと中の対応もまずいものでした。混戦の局面から敦樹がスルスルっとゴール前に位置取ります。ヘディングでのゴールでしたが、飛び込んでゴールというものではなく、垂直ジャンプで合わせるだけというゴールでした。入ってきた敦樹のケアを誰もしていなかったことになります。ジェジエウが復帰直後、Jでは復帰初戦でした。そういう意味ではCB、GKの連携ももう少し深めたいところだったが、車屋不在ということもあり、いきなりのジェジエウ先発だったのかもしれません。選手不在や満足行くトレーニングができなかった側面がいきなり顕在化してしまいました。浦和はモーベルグの個人技と敦樹の飛び出しという個人の特長で取ったゴールですが、一方で相手の不安点を突く戦術、というか戦法でいきなり狙い通り取ったゴールとも言えるかと思います。
 先制点を取った後は一進一退の攻防となりますが、やや川崎が攻勢を強めます。攻撃時はさすがの展開力、局面打開力。基本的には浦和も落ち着いて対応しますが、7分に脇坂がこぼれ球をワンタッチでマルシーニョに付けた場面、直後の8分のLダミアンのバックヘッドは危うい場面でした。ともに個人能力の高さを見せつけられました。ここ数試合からすると少しラインが後ろで消極的な印象でしたが、リーグ戦初先発の知念が入ったためにフェールセーフな選択をしたのだと思います。これも仕方がないところではありますし、知念に場数を踏んで経験を積んでもらうしかありません。
 攻勢を強めた川崎ですが、理不尽にも久しぶりの浦和の攻撃によって追加点を奪われてしまいます。15分、オフサイドからのリスタートで、ゆっくりビルドアップすると思いきや、岩波から鋭い縦パスが入り、受けた松尾が素早い斑点から左の関根に展開し、一気にカウンターの様相となります。松尾はしっかり足元でキープできるボールを入れてあげれば高い確率で保持し展開してくれます。この場面もシミッチからプレッシャーを受けていますが、いなし方が完璧だからこそ簡単に展開ができます。関根へのボールも左足で強く正確なボール。だからこそ途中で引っ掛からない。

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16分 追加点①

 この後、関根がキープして一気に松尾が駆け上がりそこに通します。無駄のないカウンターのため川崎も準備ができていません。

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16分 追加点②

 川崎サイドから考えると、ちょっと油断というか、ルーズさが出てしまいました。どこかでディレイさせられれば失点することはなかったでしょう。しかもネガティブトランジションとしては、ボールを奪われたわけではなくオフサイドを取られて最後方からの相手の攻撃。岩波の縦パスが意表を突かれたとしても、松尾が受けたところ、もしくは関根で受けたところでファールでも良いから止めたかったところです。翻って浦和の守備はと言うと、24分のシーンは逆に脇坂が前を向いてカウンター発動の場面ですが、関根がユニフォームを引っ張って止めました。ファールで止めるのは褒めるべきことではありませんが、ディレイに成功しています。また、前項で記載の通り、浦和は帰陣とゾーンディフェンスの整え方が正確で迅速でした。なので最後のところで寄せられるし、ギリギリ間に合うのだと思います。
 関根から松尾に通った時点でいつ打たれてもおかしくないのでポジションを捨てて飛び込みます。松尾の切り返しは恐らくタッチミスですが、それがうまく敦樹に繋がり、守備陣が皆敦樹に食いついてしまいます。敦樹がフワッとチップキック気味に松尾に繋ぎネットに突き刺します。これで2-0。
 最後方からのカウンターは松尾がトップ起用されるようになってからの浦和の武器になりつつあります。この形で得点もかなり取れていて、この攻撃時に重要なタスクを担う岩波、岩尾、敦樹、松尾が好調なことも17戦負けなしの要因になっていることは間違いありません。ルヴァンやACLも考えるとショルツ含めた代えの利かないメンバーについてうまく休ませることも今後の戦い方のキーポイントになると思います。

23節まとめ

 今節は当然ながら額面通りには受け取れない、複雑な試合となりました。問題提起もありました。しっかりと考えなければならないと思います。これは敵味方関係ない。スポーツにおいて公平性は当然担保されなければなりません。まして、Jはtotoという公共賭博の対象です。そうした観点から言っても放置して良い問題ではありません。2022年8月5日の時点でJから何の声明や見解が示されないのは浦和サポーターからすればもはや分かりきっているものですが、本当にJリーグがこれで良いのだろうかと心配になります。
 そうした面は置いておいて、ピッチ上に表出した現象を言語化するとこれまで書き連ねたものになります。とりわけ、浦和に関してはやはり高い守備意識、質の高い組織的守備が安定して発揮できていることは評価されるべきものだと思います。あくまで私の初見ですが、この守備意識はJ1でもトップに近いのではないかと思います。そして、上位陣では最も高い。守備に偏重していないチームの中では最も守備意識の高いチーム。それが今の浦和と言えるのではないでしょうか。横浜FMや川崎と比べて浦和の強みはここにある。もちろん、攻撃もカウンター一辺倒ではなく、保持もできるし速攻も形になってきました。守備をベースに変幻自在の攻撃を繰り出す。リカルド監督の理想にまた一歩近づいた試合だったのではないでしょうか。
 いかがでしたか。筆のペースが遅く、また論点がばらつくのでもう少し内容を絞って速報性を重視して書いていこうかな、なんて思っています。


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