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ストーリーラインのような白昼夢『Ladies and』感想
暮田直子川柳句集『Ladies and』を読んだ。
読みはじめてすぐ、「なんだか違うぞ」と思った。なんだか違うーー短歌とは。そこに〈私〉を見出す前に、ぽんと放り出されてしまう。俳句のように季節で繋がることもできない。えっと、どんなふうに読めばいいんだっけ?
下の句がなくなっただけで、こんなに心許なくなるなんて。不安になって、先にあとがきを読んだ。
『川柳はーー(略)ーー短歌から〈私〉を差し引いて詩情だけを残したような、そういう夢のようなものにみえてしまう』
わたしも、わたしも!
見えてしまうが、そうではない。川柳には川柳の「ほんとう姿』があるーーと、あとがきは続く。あとがきに勇気をもらって一冊読み終えるころには、わたしにもなんとなくわかってきた……かもしれない。
語の組み合わせの面白さ。シンプルに音の連なりの楽しさ。見たことのない景色が目の前にぱっと浮かび上がっては、すぐに次の句が立ち上ってくるリズム。そういうものが合わさって、だんだん癖になってくる。
それに、頭の中から完全に物語性を排除する必要もない。詩形に〈私〉が宿らなくても、読む〈わたし〉から〈私〉が生まれる。川柳に詩情があるのなら、それはやはりわたしの顔をして、ときどき爪先で句集を撫でるのだった。
以下、好きな句10選です。掲載順。
眠るため四隅の蝶結びをほどく
行間を泳ぎきれない笑い声
煙草かと思って火をつけて吸いました
檻があり有象無象の象二匹
帰宅即部屋に館がある悲劇
皆さまの卒論が飛ぶ焼け野原
心ではいつも砂糖を舐めている
星々はとてもくちうるさい焦土
変身のあとに残った包み紙
あの星が滅びるまでの舌鼓