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荒廃した土地と幹線道路#1

 上空からの景色はその視界の多くを黒に染めていた。まだ、夜はやってきていないというのに、地面が暗いせいなのか、夜のような色を覚える。ほとんどが岩肌であるのだが、奥にそびえている山には木々が生えているように見える。しかし、手前に岩畳が広大に連なっている影響で、奥の景色まで黒く映ってしまっている。

 右手前から「く」の字を描くように走る幹線道路。片側一車線のその道路は、この土地をあたかも無視するために曳かれたようである。道路脇には岩畳、屋根のある建物はおろか、側道に休憩の為のちょっとした隙目もない。あるのはまっすぐな道、それだけである。

 そのような土地にも関わらず、数台の車が走っている。奥へ向かうのが5台、手前に向かうのが1台だ。奥は見える限り自然の山や霧しか見えないのだが、いったいこの5台はどこへ向かうのだろうか。この岩肌の土地は大方邪魔で、いち早くこの土地を抜け出したいとでも言うかのような直進ぶりである。反対車線の一台は、向こうからやってきているはずであるが、やはり同じように止まる気配など微塵もない。くの字の幹線道路は、人間の移動に対する欲望により、昔は通り抜け不可能とでも言われたであろうこの土地に堂々と築かれている。

 いったいこの土地はいつからこのような様子をしているのだろう。荒廃するというと、昔は緑が豊かだったか、人間の作った街があった過去を想像するが、そうとも言えない。たしかに、昔は緑が豊かだったかもしれない。ただ、その緑が、例えば大量のマグマが上から巨幅の滝のように降り注ぎ、一瞬にして丸焦げになった後、そのまま溶岩が固まったような様子である。だから、だんだんと廃れたのではなくて、そのような巨大な力が押し寄せ、全く抗う余地もなくそのまま固まったかのような、そういう岩肌なのである。

 ただこの様な暗黒の土地にも、太陽が降り注ぎ、また月が照らすのかと考えると、地球の丸さを小さく感じる。今自分の上で輝く太陽や月が、この土地ともつながっている。人間が思い描けるレベルのディストピアは、自分の足下と地続きになっている。幹線道路を曳くことで、地球の弱点を克服できたような気になっているかもしれないが、この土地の記憶は人間の無能を見抜いている。今日も幹線道路を走る車達を眺め、エンジンの故障やタイヤのパンクなどで足止めをくらう人間に気づかぬ恐怖を与えている。人間はまだ、この土地に無視はされていないのだ。

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