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広大無辺の夕暮れ#3

 私は大地である。
 木を生やし、草原を広げ、太陽の恩恵を受けて、いつもこの身体の中で輪廻転生を繰り返すことを仕事にしている。私のもとへ来れば、どのような用済みの生命も、私の中の生命達が、私へと還元をしてくれる。そして、私から生えている木は新たな生命に、また新たな生命を宿す手伝いをする。
 私は動くことができない。自らの力で動いているわけではない丸みを帯びた塊の一部であり、また、自らの力で動いているわけではない丸みを帯びた赤い塊から、一日の内の半分だけエネルギーをもらっている。そのエネルギー量は、いつも一日分ぴったりで、さらに私の中にいる生命達が、いつもぴったり取っていく。それを毎日繰り返している。エネルギーを残しておくことなど、考えたことはない。
 人間が、自らの意志で、何かを成し遂げようと思っていることが、私には信じられない。たまに私の上に車輪を転がして、私の反対側を目指す人間がいるが、彼らの目的が私には全く理解できない。私の元へ還ることが唯一の自然な行為だと思うのだが、そうではなく、彼らは私を横切ることに一生懸命だ。何名か、途中で私に還元される事態となったのだが、彼ら人間達は泣いていた。本意ではなかったようなのだ。ほとんどの人間は私のちょうどへそあたりで折り返し、自らが出発した他の大地へと戻っていく。
 自らの意志ではなく、毎日夜が訪れる。私の意志も、太陽の意志も、夜には反映されていない。夜はとても暗い。しかし、私は休むことを許されていない。いや、許されていないと言うより、過去何億年もそうしてやってきたのだ。休むことを忘れてしまった。逆に言えばいつも休んでいるのかもしれない。別に、大きな変化は数億年に一度くらいしかない。
 大きな変化、その時は、私は意志を持って行動しているような気がしている。
 地殻変動。
 ただ、何かに迫られ、何かに追いやられ、何かに押され、そして、地殻変動を起こすのだ。自らの意志なのか?
 分からない。

 私は大地である。
 今日も私は、自らの力で動いているわけではない。

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