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白氷の湖#1

 まず、白。氷の大地が、右を見ても左を見ても数キロメートル続いている。左を見れば、遠くて小さくなったビル群。正面は郊外だろうか。右は、半島の切れ目が見える。海岸付近は雪がこれまた白く積もっている。氷の大地がその視界のほとんどを占めている。本格的な白だけで無く、灰がかった白もある。おそらく、薄い氷、氷の下の海の部分にやや接近しているところは灰色をしているのだろうと思わせる。空も、もちろん、と言いたくなるほど、白。一面に、雲と言っていいのか、霧と言っていいのか、とにかく、白んでいる。絵の具を丁寧にむら無く横に伸ばしたような、やや幅のある、壁にペンキを塗るときに使うような筆だろう、その筆を持って、丁寧に横に塗られたような、そういう空である。この視界には、白が(白の中でもグラデーションはあるのだが)全て占めている。海を遠く見通せば、その一番奥に水平線が見えるが、この視界では陸地が水平線の役割をしている。つまり、この場面はおそらく氷の上から見られている。氷の上から遠くの陸地を見ている。そのため、水平線と陸の逆転現象が起こっている。だが、一面のテーマ色はとにかく白。建物も、陸も、白んでいる。

 これまで、白、白と繰り返してきたが、本当は白は脇役のように思わされるものが映っている。一面白で、この視界の99.9パーセントが白い色で覆われているのは事実である。しかし、白は主役ではない。主役になれないのには訳がある。それが、その氷の大地の中心を、そしてこの視界の中心を、「ピキッ、ピキッ」という音が聞こえてきそうな(おそらく)“ひび”が、足下から、前の方向に、視力の限界のあたりまで、伸びている。おそらくひびだ。しかし、近くで見ると、ひびのイメージよりはやけに丸みを帯びた曲線なのだが(積もった雪の影響か?)、その線が、この視界の中で、唯一の「黒」である。もちろん、黒みがかった白はあるのだが、あくまでも白で、白以外の色を認識できるのは、その視界の中ではその“ひび”のみである。

 ひびの周囲には、その黒く見えるひび以外にも、ひびの直前の様な線が確認できるが、それらは薄く、中心にはいったひびとは比べものにならない脇役である。もしこれがひびなのだとしたら、その氷の大地は崩れるのだろうか。見えている印象としては、大丈夫そうだ。決して、割れたりしなさそうな、ひび割れた氷の大地。そんなところか。

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