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未練の話#4 未練の分析

 とういうことでございまして、ゴマの助に思いを馳せてみると致しましょう。
 彼の未練はいくつか未練のが混じり合っていると考えられそうですな。
 「高校のときの叶わぬ恋」のお相手チョン子が「根も葉もない噂」にさらされていて、ゴマの助は、ただその噂を聞くことしかできなかったんですね。
 先に申し上げておくと、もう中年の腹も出ているだろうおじさんが、自らの高校時代の未練について眉をひそめて考えるのは、逆に高校生が孫に会えないかもしれないと考えるほどにひどくアホらしいですなぁ。そんなことを考えている人は、今の高校生に卑しい気持ち抱いて動き出しやしないかと見張っといた方がいいかもしれませんな。膨らんだ卑しい風船が縮むまで、どこかお空遠くへ飛ばしておきたいものですな。
 ひどいこというもんだな、誰だって昔の思い出に浸ることはあるだろう。そんな風に言われたら、この腹のように膨らんだ風船にお前さんの針が刺さって割れてしまうわい。
 それならいいじゃないか。現実を見れるんだから。
 いや、だめだ。痩せたら本当にモテてしまう。
 ゴマの助は、自分の見た目がチョン子に好かれるわけはないと思っていたでしょうな。しかしながら、チョン子は男を(これも噂だが)とっかえひっかえしていたんですなぁ。彼女は悩んでいたのではないかと思われますな、実はチョン子のことをを好きになってくれる人を求めていたのではないでしょうかね。それはゴマの助でしたのに。
 そんな妄想を抱いて、高校時代に彼女と良い恋ができたのかもしれない、という思いが、彼にひとつ大きな未練を残している。
 そしてもし、チョン子と恋を楽しめていれば、(噂ではあるが)大学を辞めることなく、チョン子らしい生き方を見つけられたのではないか、実は、ゴマの助はチョン子にとってかけがえなのない人だったのに、心の弱いところが出て、チョン子と話すこともしなかったんですねぇ。
 夢の中でさえ、チョン子に自ら話しかけたわけではなく、チョン子から話しかけてきていましたねぇ。
 「何でもできた」はずの自分は「何もしなかった」。ゴマの助は、このようなことが頭にあったために、あのような夢を見せつけられた。つまりはゴマの助の心の底深くに大きな未練があったからねぇ。
 もちろん、こんなことはゴマの助は勘違い、妄想、思い違いだと、頭では分かっている。ゴマの助には何もできなかったのだし、心も弱い、人の生き方にあれこれと踏み込める力も、今のゴマの助にだってありゃせん。
 しかしねぇ、「心の底」には本音のかけらがあって、10%でも、1%でも望みがあれば、それははっきりと頭に刻まれてしまうということですなぁ。覚えているか忘れているかは問われません。ゴマの助の心にしっかりと刻まれたまま、長い時を重ねたということでしょうなぁ。
 心の底の、へそにへばりついたゴマみたいなものが、夢という顕微鏡のカメラを通して見つかっちゃったということです。あららぁ。心のへそゴマを取るのは痛いだろうなぁ。その、見つけたゴマを取るときは、心の中にブルドーザーだかショベルカーだかを駆動させて、ああ、でも免許は持っていないとだめですよ、どこでその免許が取れるかって? 教習所に行かなきゃですなぁ、電話して聞いて「心のブルドーザーの免許取れますか? へそゴマ取りたいんです」ってねぇ。それで、「取れません」って言われたら、それはしょうがないですな。そしたら、死ぬまでへそにゴマ付きっぱなし。きたねぇなぁ。

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