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荒廃した土地と幹線道路#3

 妹に会うには、この道をまっすぐ進むしかない。
 Earth highway 4528。この数字を聞くと、よくもまあこの数の道を管理できているものだと思う。道路建設の技術はここ数百年で格段に上がったらしいので、管理の手間も省けているのだろうが。
 地球内に国家がなくなり、もう人間の数が、各地の小さな「○」に限られている。本で読んだが、昔は地方活性化だの少子高齢化だのと騒いでいたらしく、その極致となった今の時代から考えると豊かだったのだなと思う。
 妹は知的障害を持って生まれたらしい。今、知的障害者や精神障害者は、完璧に構造化された「○」に集められて暮らしている。これも昔は共生社会だのインクルージョンだのと工夫を凝らしていたらしいが、今となっては考えられない。それぞれの暮らし方があるのだから、別々に暮らすことがベスト、ということになっている。
 そういう制度上の理由もあり、私は妹に会ったことがない。私の「○」から妹の暮らす「○」までは2万キロほど離れており、交通手段が最高値に達したとされるこの時代でも、行くのが億劫だ。しかも、妹とはいえ知らない知的障害者の人間だ。会いたいとは思わなかった。
 しかし、事情が変わった。私の住む「○」の一番の会社の社長だった父は、死ぬ直前に書いた遺書に財産を妹にやるということを残した。
 何度読んでも、何度聞いても信じることができなかったのだが、その事実は覆ることはないようだった。父は、障害者の「○」への支援金のつもりなのか、その真意はよく分からない。
 Earth highway 4528は、真っ黒の世界を切り裂くように曳かれていた。左右にはものものしい岩肌が延々とが続いている。ここは数百年前、深海の巨大な火山の噴火によって飛び出したマグマが降り注いだ土地だと本で読んだ。実際に来たことはなかったが、この星にこのような世界があることを間近で見ると、人類が支配したと思っていたこの星も、まだ人間には超えられない大きなエネルギーが渦巻いている可能性を感じる。
 時速1千キロで進んでも、半日以上はかかる。これだけ遠いところに行くのは、久しぶりだ。妹は話ができるのだろうか。私は父の財産が欲しい。妹は私のことを知っているのだろうか。そして本当に父の財産を受け取るのだろうか。

 荒廃した土地、二人を繋いだ父の遺言、そして幹線道路。

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