いっちゃん_

アイ・アム・ザ・レザレクション

2015年10月29日、モーニング娘。'15のメンバー、鞘師里保が、同期の9期メンバーと担当しているブログの記事において年内いっぱいでのグループからの卒業を発表した。その衝撃のニュースは「17才の決断」という見出しとともに瞬く間にネット上に拡散されていった。鞘師里保は11年正月のハロー!プロジェクトのコンサートにおいて9期メンバーのひとりとしてモーニング娘。への加入が発表され、それから約5年に渡り華々しい活躍を続けてきた。小学校一年生から地元のアクターズスクール広島に通いトレーニングを重ねてきたこともあり、グループに加入した時点ですでに歌もダンスも即時実戦に対応できるレヴェルのものであったことが鞘師里保という存在を自ずから別格のものとしていた。加入当時はまだ小学生であり見た目は非常に幼い雰囲気であったが、実力的には誰が見ても鞘師里保はモーニング娘。の次期エースだと確信できた。ただし、モーニング娘。に加入した直後に東日本大震災が起こり波乱含みのスタートとなったが、全てにおいて大変で強い忍耐力が必要とされる時期にあっても鞘師里保は持ち前の明るさと弛まぬ努力の積み重ねによって着実に前進し、グループ内でより大きな存在感を発揮していった。モーニング娘。のプラチナ期を支えてきた、高橋愛、新垣里沙、光井愛佳が相次いで卒業し、立て続けに10期と11期の後輩ができ、田中れいなと道重さゆみが遂にグループを去り、気がつけば9期の四人がグループ内で最古参のメンバーとなっていて、新たに12期メンバーが加わった。振り返ってみれば、グループの中も外も激しく変化した激動の5年間であった。いつしか鞘師里保は、日本を代表するアイドル・グループ、モーニング娘。を牽引してゆくエース中のエースとなっていた。まだ、ほんの17才という若さで。しかしながら、その真面目すぎる性格ゆえに歴史あるモーニング娘。の看板という非常に大きなものを背負い込んでしまうことになった鞘師里保を見ていると、本当に大丈夫なのだろうかと心配になることも最近は多かった。アイドルとしての極めて高いポテンシャルをもっているということが、かえって鞘師里保にエースとしての責任感というもの以上の重圧と向かい合わせることになっているのでないかと危惧していたのだ。そして、そうした内面的な部分での苦悩は、鞘師里保という17才の少女の表情や身体における変化や変調として如実ににじみ出してきてもいた。だが、そこに備わっている芯の強さや意志の強さ、アイドルとしてのポテンシャルの高さゆえに、いつかならなず鞘師里保ならば全てのハードルを乗り越えてくれるであろうと信じてもいた。しかし、限界は誰にとっても意外なほどに早く訪れた。鞘師里保はグループへの加入からちょうど丸々5年を経過する節目となる、15年大晦日のカウントダウン・ライヴにおいてモーニング娘。'15から卒業することを決断したのである。その「17才の決断」には様々な意見もあることであろう。鞘師里保というひとりの少女の人物像に対しての様々な憶測めいたことを書き連ねる記事などもあるだろう。だが、ひとつだけ確かなことは、鞘師里保は15年に加入した一番下の後輩となる四人の12期メンバーの成長ぶりを自分の目で見て、もう(この後輩たちに託しても)大丈夫だろうという確信をもてたから所謂「17才の決断」に踏み切れたのだということである。あの大真面目な鞘師里保が大真面目な卒業発表コメントで大丈夫だといっているのだからきっと大丈夫なのだろう。(モーニング娘。からの卒業後も鞘師里保はハロー!プロジェクトに在籍するという。まずは歌とダンスをさらに学ぶための海外留学を考えているようであるが、帰国後に何か新たな動きがあるのではないかと期待してしまう部分はやはり少なからずある。さらに進化した鞘師里保のパフォーマンスが見られるのだとしたら、数年待つぐらいのことはどうということはない。)
しかしながら、モーニング娘。にとって、鞘師里保という実力派のメンバーを失ったことですっぽりと空いてしまうことになる穴は想像以上に大きいものがあるはずである。それほどに鞘師里保がその小さな両肩で担っていたものが大きなものであったであろうからだ。天性のタレントとスター性をもつ唯一の11期メンバー、小田さくらが、どんなにアイドルらしさを前面に出してこようとも、決して鞘師里保の代役は務まらないであろうし、逆に小田さくらをグループの中心にどっしりと据えてしまうと、あまりにも玄人好みのする完成されたムードをもつモーニング娘。に仕上がってしまって、再びプラチナ期に回帰してしまうという様相を呈すことにもなりかねない。では、いかにすべきであるのか。やはり付け焼き刃的な対処法などではない長い目で見た戦力の回復を目指してゆくのであれば、一刻も早い13期メンバーの募集へと動くことが最善の策なのであろう。モーニング娘。にとって新メンバーを迎えて補強を行うためには、まずはオーディションの開催が不可欠であり、その機会を虎視眈々と狙っているのがハロー!プロジェクトの若手育成制度であるハロプロ研修生に所属して日夜トレーニングに明け暮れてきた少女たちである。そして、鞘師里保の卒業の発表とともに、早くも13期メンバーとして現在ハロプロ研修生で活躍する実力者たちを待望する声が聞こえてきていたりもする。実に気の早い話であるとも思うが、実はそれほどに現在のハロプロ研修生にはかなりすごい逸材がひしめき合っているということも確かなのである。
鞘師里保の抜けたモーニング娘。への加入が待望されているハロプロ研修生としては、加賀楓、段原瑠々、一岡伶奈、井上ひかる、橋本渚、堀江葵月、船木結(11月5日、カントリー・ガールズへの加入が発表された)などの名前がすでにあちらこちらで挙げられているようである。この中で現在14才の段原瑠々は、鞘師里保と同じ広島の出身で幼い頃よりアクターズスクール広島で研鑽を積んできたという非常によく似たバックグラウンドをもっている。それゆえに、鞘師里保の抜けた穴を埋めるには、これ以上の適任者はいないのではないかと目されてもいる。実際に段原瑠々は、すでに歌もダンスもハロー!プロジェクトのメンバーの中でもトップ・クラスに位置する実力をもつ飛び抜けたタレントである。また、加賀楓と一岡伶奈は、現時点で最古参のハロプロ研修生である。これはすなわち、最も長くトレーニングを積み重ねてきている長い長い下積み生活を送ってきた苦労人であることを表している。ふたりは、これまで多くの先輩たち後輩たちが研修過程を修了し、あるものは念願であったアイドルとしてのデビューを果たし、またあるものは静かに芸能の世界から引退してゆく姿を、間近で見てきている。ほぼ3年を研修生として過ごしてきているふたりに、そろそろ表舞台に立たせてあげたいという周囲の気持ちが高まってきているのも当然といえば当然であろう。それほどに、ふたりは輝かしいアイドルとなるための努力を地道にコツコツと積み重ねてきているのである。何度も挫けそうになることも諦めそうになることもあったであろうが、ふたりは決してアイドルになるという夢を手放そうとはしなかった。そんな誰よりも強い意志と不屈の闘志を垣間見せてくれている研修生が、加賀楓と一岡伶奈なのである。
ハロプロ研修生の一岡伶奈は、いっちゃんの愛称で知られており、研修生ブログなどでの記述を通じて無類の鉄道マニアであることも広く知られている。長く黒い髪が美しい、とても素敵なお嬢さんである。そんないっちゃんが、最近になって一段とその輝きを増してきているのである。鞘師里保が抜けたモーニング娘。への加入が期待される研修生の中に、いっちゃんの名が挙げられているのも、そんな最近の活躍ぶりが高く評価されているからなのであろう。だが、かつてのいっちゃんは、ずっとアイドルとしてのデビューには最も距離がありそうな位置にいる研修生のひとりであった。14年の秋あたりからモーニング娘。の12期メンバーの加入やアンジュルム(旧スマイレージ)への3期メンバーの加入、そしてこぶしファクトリーとつばきファクトリーという新グループの相次いでの結成などを通じて、続々とアイドル・デビューへの切符を掴んで(多くの後輩を含む)研修生たちが巣立っていったのを見て、もしかするといっちゃんも相当に大きな刺激を受けたのかもしれない。激烈な悔しさほど本気の奮起を促すものはないであろうから。
12年11月、モーニング娘。の11期メンバー・オーディションで最終審査に残りながらも落選し(このオーディションの合格者は、小田さくらのみ)、ハロプロ研修生の門を叩いたいっちゃん。この頃はまだ歌も踊りも非常に荒削りで初心者感が満点であった。不思議と個性的な雰囲気がありとてもおもしろい存在ではあったが、アイドルとしてのスキルの部分ではまだまだというしかない状態であったのだ。おそらく、本人も歌や踊りに対しては少しばかり苦手意識があったのであろう。何をしても自信なさげな感じであった。だが、それでもいっちゃんは本気だった。本気であったからこそ研修生となる決心をしたのである。レッスンでは常に細かくメモをとり、トレイナーの指導をよく聞き、本気のアイドル志望者のレヴェルのレッスンに必死に食らいついてゆこうとしていた。できる子ばかりのハロプロ研修生であったから、周囲のレヴェルに追いつけてゆけないこともいっちゃんには多かった。おそらく、挫けそうになることも多々あったであろう。しかし、いっちゃんにはコメディエンヌとしての天賦の才が備わっていたのだ。それゆえ、周囲のレヴェルに追いつけてゆけていなくても、いっちゃんには常に光るものがあったのである。不器用なまでに一途にアイドル修行に勤しむ姿勢や、ステージ上を移動する際に小走りしている姿さえもが、とてもコミカルに映ったほどである。いっちゃんは何をしても楽しく底抜けにおもしろい、周りの人々を明るく照らすことのできる子であった。だからこそ、多くの人が、その人柄の部分に備わっている不思議な魅力に注目していたのである。そんないっちゃんをオーディションの最終審査に残し、コツコツと一から研修生として育成してきたつんくもまたそのうちのひとりであるはずである。
そんな我らがいっちゃんが近ごろ急激に成長しているのである。もはやアイドルというだけではない、一流のエンターテインナーとしての資質が花開きつつあるようにも感じられるくらいのスケールの大きな成長なのである。急成長するいっちゃんは、まさに日ごとに大きく変化している。元々、とてもかわいらしい美少女であった(あまり動かず、あまりお喋りしなければ)が、雰囲気がお姉さんぽくなり美しさに磨きがかかってきている。潜在的な美貌が表れ出て、実に魅力的なお嬢さんになりつつある。研修生になりたての頃はとても小柄であったが、成長期で身長が伸びたのかスラッとしたスタイルで見栄えもいい。課題であった歌唱力にも安定感が出てきているし、大らかな人柄がうかがえるダンスも華麗に魅せれるものになりつつある。本気でなりたいものであるアイドルに少しでも近づくために弛まぬ努力を続ける苛烈なまでの向上心が、いっちゃんの輝きを高めているということなのであろう。そして、その人間的な大らかさや朗らかさとともにあるいっちゃんに不可欠のお笑い要素もまた、周囲を無条件に楽しませるエンターテインメント力のしっかりとした基礎にもなっている。いっちゃんのアイドルになりたいという信念は、そう簡単には折れることはないだろう。もし折れそうになったとしても、その時は誰かがいっちゃんを支えてくれるに違いない。それだけ、いつもいつもいっちゃんの朗らかな笑顔や楽しい人柄に救われている人は、その周囲にたくさんいるであろうから。
99年2月25日生まれのいっちゃんは、モーニング娘。'15の小田さくら、鈴木香音、尾形春水、アンジュルムの勝田里奈、田村芽実、室田瑞希、相川茉穂、そしてJuice=Juiceの宮本佳林、植村あかりなどとほぼ同世代である。そして、98年生まれの鞘師里保とも学年としては一緒である。すでにアイドル・グループで活躍しているものたちやアイドル・グループから卒業しようとしているものと比較すると、いまだにアイドルを目指す道の途中にいるいっちゃんは相当に遅咲きなタイプである。また、現在高校二年生であるいっちゃんの世代は、もうすぐ大学受験も控えており、嫌が応にも進路について考えなくてはならない状況が差し迫ってきている。研修生には高校の最終学年を迎える前にデビューできていなければ、アイドルになる夢を諦めて別の道へと進んでゆくものも少なくはない。ここには、より過酷な「17才の決断」がある。遅咲きのいっちゃんが本当に咲き誇ることができるかは、実は時間との戦いでもあるのである。
最近YouTubeにアップロードされた研修生の動画で、リハーサル室で歌っているいっちゃんの横顔がモーニング娘。の元リーダーの道重さゆみにそっくりであるということが話題になった。色白で黒髪で円らな瞳、日本人形のようなややふっくらした顔立ちにあどけない幼さの残る表情。実際、少し遠目に横から撮影されたいっちゃんの姿は、どこか道重さゆみっぽくみえるのである。あの感じでは、今なお数多く存在している道重信者たちが、アイドルの中のアイドルの再来なのではと色めき立ってしまうのも致し方ないところであろう。もしも、いっちゃんが道重さゆみのルックスだけでなく不屈のアイドル魂をも継承しているのであるならば、どんなに遅咲きであったとしても大輪の美しい花を咲かしてくれるのではなかろうか。大いに期待したくもなる。だが、例の動画における一番の驚くべき点は、何よりも研修生内でも随一の実力者である段原瑠々とのコンビでいっちゃんが互角に歌いあえているところにあったりする。早くも3年になろうとする研修生としての数々の学びを通じて、いっちゃんは大きく成長し、かなりアイドル予備軍としてもばっちりと仕上がってきているように感じられる。
高校卒業まであと1年ちょっと。いっちゃんの「17才の決断」へのタイムリミットも刻一刻と迫ってきている。今回の鞘師里保の卒業を好機と捉え、いっちゃんこと一岡伶奈は研修生Tシャツを脱ぎ捨てて大きく浮上してゆくことができるのであろうか。つぶさに注目してゆきたいところである。

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