独白シニメ
フィクション
実話から始まった、私とあのひととの恋愛小説「水彩紙」のシリーズまとめ。表紙は全て私作。しばらく書きません。
親友同士のミナトとカナデの、カイロみたいなお話。触れるのは温もり、待ち受けるのはゴミ箱。 1話:泣いた日 2話:落ちた日 最終話:死んだ日
おすすめの記事。お気に入りの記事。
突然異音がして目覚まし時計の針が止まった。私はこの命が絶える瞬間に立ち会ってしまったのだ、と思った。 米津玄師がLemonを世に出したあと、「部屋の電気のスイッチが機能せず生き死にを感じた」みたいなことを書いていたブログを思い出す。 それから、ぽんと何気なしに石を投げたらイモリを殺してしまった、という話が印象的な、現代文の教科書で見た文章も。 夏にあった通夜で見た、ほぼ面識のない亡き曽祖母は、解放されたような顔で目を閉じていた。 「眠っているみたいだね」と母は言った。
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:学校 小学生の頃、「強制仲直り制度」が本当に疑問だった。 友達と口論になって、どっちも譲れなかったことを、どうして「ごめんなさい」の一言でなしにできるんだろう? いや、なしになったと思えるんだろう? 私は譲れなかったしあの子も譲れなかった何かがあった。 それでも、これからも教室で話しかけていいし、これからも体育のペアを組んでいいじゃないか。 友達ってなにも、「あなたのすべてを肯定して好きでいますよ」っていう契約じゃな
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:声 音楽が好きだ。歌うのが好きだ。歌詞を書いて曲をつけるのが好きだ。 カラオケ好きは父の遺伝。一緒に行こうと言われて、結局一度も行ったことがないけれど。 音楽をやりたかった。歌いたかった。スポットライトを浴びて歌いたかった。 だけど金にも余裕にも環境にも恵まれなかった。いや、これも言い訳になるのかもしれない。 自分の声が大嫌いだ。録音した声は勿論、独り言を呟く声から嫌いだ。自分だけに聞こえる声から嫌いだ。 きっと、
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:染まる 「東京に染まるなよ」と言われた。 上京して約半年。実家の自室よりも狭いワンルームで、ふとそのことを思い出す。 そう言ったのは誰だっけな。家族だったか、友人だったか、親戚か、東京で出会ったクラスメイトか、はたまたネット上の知り合いか。 「東京はいいぞ」という言葉は聞かない。少なくとも私のまわりでは。私も「東京はいいぞ」と思っていたのは、最初の二ヶ月くらいだった。 利便性は人を急かす。強欲に、我儘に、自己中心的にさせ
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:傷跡 左腕に無数の傷がある。自分でつけたやつ。 たぶん、もう、一生消えない。 はじめて切ったのは五年ほど前。その一番はじめの傷が消えていないから、もう消えない気がしている。 でもそれでいい。このぼろぼろでくたくたになった左腕が、また綺麗でまっさらな右腕みたいな状態に戻るのなら、私が部屋の隅でこぼした涙は、一体全体何になったのだ。あのとき私が沢山傷付いた時間を、誰が思い出してくれようか。 十八歳になった。 十八歳になってか
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:手 自分の手、手相が薄い。 骨がごつごつしているところとか、指が細くて綺麗なところとか、好きなところは沢山あるけれど、その中でも、手相が薄いところが割と好きだ。 手相が薄い。 占い好きの友人や親戚に、これはわからない、と突き放されてきた手。 運命に縛られまいと、叫んでいるみたい。 たとえば、宝探しに行くという明確な目的があれば、宝の地図は必須だろう。だけどもこの人生、どう生きてどう死ぬか。明日にはもう生きていないか
朝晩七時にお題が届く執筆アプリ「書く」より お題:速度 花が落ちるスピードで歩いていくーー米津玄師「paper flower」の歌詞。 花が落ちるスピードは秒速5センチメートルだ、というのが通説のようで、それを題材にした映画もあった。 秒速5センチメートルって、意外と速いなあ。でも、人間の歩幅にしては遅い。 いまの私が、ベッドの上で天井を見つめたまま、日々を過ごしているから、速く感じるのかもしれない。 食パンは秒速0センチメートルだ。 首振り扇風機は秒速5センチメートル
ーーかみさまは死にました。 日曜の昼。いま思えば、何かの凶兆のように真っ青な快晴だった。春先だというのにアスファルトが燃えるように熱かった。転んで膝をついたから知っている。運が悪かった。 ぼんやりと眺めていたSNSで人身事故のニュースを見た。夜中に眺める過剰摂取じみたジャンクな情報。画面外に流そうとして、太字表示された文が指を誘った。あっ! ファッション誌「Rouge」のメインモデル シャシャが昨夜に自殺 ダークモードの画面に薄く自分の顔が見える。心臓が急速冷凍されるよ
確かに僕は言った。きみを独りになんてしないと。きみはちょっと目を離したら消えちまいそうだったからね。たとえるなら何だろう、風船かシャボン玉か。いや、やっぱりきみはきみでしかない。 「自然の法則なんてものはなくて、すべて神様の気紛れだと思う」 きみが呟いた言葉を知った喉が勝手に答えを紡いだ。 「そうでなければ、こんなに海は綺麗じゃないよ」 ねえ、僕はもっとキザな台詞でも探せばよかった?どれだけ丁寧に扱っても、僕らが愛と呼んだものは酷く脆くて仕方なかった。 きみはどこからを嘘に
世の中のすべてを知った気でいた。勿論そんなことはなくて、それを知っていながら、すべてを知った気でいた。 だって、誰かが定義した青春はワンパターンで、どれも一言で片付けてしまえるような、冷たい心の奥底に沈めて、何重にも鎖をかけて永遠に見ることもない、そんなもの。二番煎じの人生を歩んで、捨ててきた感情の名前も知らず、罵詈雑言を言い合って死ぬ。どうせ、そんな世界だろ。 「いつまで斜に構えて生きていくつもりなの」 そうからかった君に私は言うんだ。 「死ぬまでさ」 私が太宰治を読んじゃ
愛で世界を救えるらしい。馬鹿だよ、それでほんとうに世界が救われるなら、僕みたいな捻くれた人間なんてとっくにいなくなっている。骨になったら残りもしないのに、愛だの心だのが皆は好きだ。 で、そういうのは強がりで、結局あのひとに惚れちまって、だって、中途半端な優しさでひとを弄ぶような、美しいひとだったから、なんて、これもまた言い訳で。 あのひとは優しいんだ。とっても。他人の痛みを己の前でだけでも最小限にしようとして、結局己が痛い思いをしている。あんな、すべてを背負い込んでひっそり
爪。あのひとの爪。長くて綺麗に磨かれているでしょう、それはもう恋人がいるひとの爪なの。だから、あたし、それが叶わない恋だなんてのは初めから知っていたの。 悪く思わないで頂戴ね。あたしがあんたを一番に出来ないこと、ちゃんと話してあったでしょう。そうしてあんたもそれで、うん、それでもいいや、と、しっかり頷いてくださったでしょう。こうしてあたしがあのひとの話をしていたって、あんたはもう泣かないでしょう。だって、あたし、それでもちゃんとあんたが好きなんだもの。 嗚呼、そうやって全部を
2022年06月05日投稿作品 「毎週ショートショートnote」企画 お題は「消しゴム顔」 ーーああ、この顔には表情がないばかりか、印象さえない。特徴がないのだ。たとえば、私がこの写真を見て、眼をつぶる。すでに私はこの顔を忘れている。 「人間失格」の四文だ。顔だけ消しゴムで消されたように何一つ浮かばないような、そんなことがあろうか。十歳の少女は一旦、本を閉じて考えた。 たとえば、顔を触ってみる。ある。確かに、額が、眉が、眼が、鼻が、頬が、口が、ある。鏡の中の少女は粋な笑
2021年03月21日投稿作品 まだ蕾のままの花を抱えて、僕は歩き出す、夜明け前ーー。 あなたの香りがした。 何も嘲るもののない無機質な部屋。透明な四角に夜景が映る。もう、今夜は終わる。 とうとう帰って来ませんでしたね。わかっていたけれど淋しくて堪らない。どうせ僕らはこれきりの関係で、小さい子を出鱈目な玩具で弄ぶくらい安易な設営なんだ。さらさらのシーツがいやに冷たい。あなたがいないから。 僕は二歳の頃にはブランコに一人で乗れていたらしい。となると今の僕はそれ以下だ。あ
貴方はいつだってそういうことを言う。頼り方も愛され方も慰められ方も知らないあたしを、何度だって抱きしめて同じことを言う。 「僕が愛してあげるから、まだ死なないでよ」 と。 あたしは別に自分がこの世で一番不幸なんだなんて言ってるわけではないんだ。ただ、苦しくてもう息も吸えないような夜に一人になっちまうのが耐えられないだけなんだ。あたしは何も知らなかったから。 「どうして向日葵と太陽は恋仲なのかな」 「どうしてって、そういうものなんだよ」 貴方は心底興味なさそうに吐き捨てる。貴方
恋愛小説「水彩紙」没案 サイドストーリー はじめて天使に出会ったと思った。 入学式で隣の席になった少女はまるで、この世界の理不尽さによって私達が息をしているという哀しい秘密を、たった一人で背負っているかのような、そんなひとだった。猫背にだらしないポニーテールが飾らない美しさを演出して、私は今までどうやって友達を作っていたのかを忘れてしまうほどに。 その彼女、高崎さんはどうも本を読むのが好きらしく、休み時間には喧騒を傍観するようにオブラートの中にいる。一人で、けれども淋しそう