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Rainy Die Beautiful

雨。

雨は嫌いだ。

湿った暑さが肌に纏わりついて離してくれない。

肌に纏わりつく服のベタベタするあの不快感がたまらなく苦手だ。

雨が嫌いな理由はもう一つある。

雨の匂いを嗅ぐと、傘を買える余裕もなく雨に打たれて心が折れかけていた路上スカウト時代を思い出す。

美夜(仮名)と出会ったのはそんな蒸し暑い雨の日の夜だった。

瞳が美しい。

吸い込まれるような眼だった。

良い意味で歌舞伎町が似合わない子だった。

初めて美夜を見た時、ハエのように沢山のスカウトが声をかけていて無視を決め込んでいたのに僕が話しかけると彼女は笑顔でこう言った。

「お兄さんLINEあげるから傘貸してよ。」

こんなにも雨に感謝した事は後にも先にもなかった。

聞くと彼女はどうやら18歳で某高級ラウンジで働いていて、最近はホストクラブにハマり通い出しているようだった。

こんな綺麗な子が、なんでわざわざ自分から不幸になりにいくんだろうか。

元々ホストをやっていた僕は、ホストにのめり込んだ女性が最終的にどうなっていくのかを知っていた。

大抵は不幸になる。

良い子ほど損をする

歌舞伎町では常識だ。

彼女は俗にいう良客だ。

店では担当ホストが卸したいお酒は絶対に断らずに自分は飲まず、ヘルプに飲ませていたらしい。

次第に担当ホストの煽りはエスカレートしていく。

ある時、彼女から風俗の仕事を紹介して欲しいと相談された。

僕は正直に言うと彼女に風俗の仕事をやって欲しくはなかったしやらないよう説得をした。

どうやら、10月のバーイベで500万を用意しなければならないらしく彼女の意思は固くて、曲がらなかった。

結局、出稼ぎのお店を紹介し、美夜の要望以上に稼いでもらう事に成功した。

美夜は仕事が終わると稼ぎの報告を僕に送ってくれた。

本人の頑張りが全てなのにいつもうららのおかげと言ってくれた良い子だった。

バーイベが近づきお金が貯まるにつれて

美夜はみるみる憔悴して痩せていった。

瞳だけがずっと変わらず美しかった。

バーイベの前に僕らはお通でご飯を食べた。

顔は憔悴しきってるけど嬉しそうにしてる美夜をみてなんだか僕まで嬉しくなったのを覚えている。

「楽しんでくるね♪」

といって美夜は担当のお店に駆けていった。

バーイベは成功した。

バーイベが終わってしばらくして美夜と連絡が取れなくなった。

ホストに使う額が100万200万300万と増えていくのに比例して僕に返ってくる連絡の頻度は遅くなった。この業界ではホストが仲良いスカウトに女の子を紹介するケースが多々ある。僕は勝手にそんな事かと自己解決していた。この頃には自分の仕事が忙しくなり、心配はしていたものの深掘りして解決する気が起きなかった。

12月。僕に1通のDMがきた。




現実を理解できない時間が続いた。

現実を理解した時、僕は冷静に彼女の友人とやり取りを続けた。

どうやらバーイベが終わった後も毎月400万ほどの売掛を背負わされて追い詰められてしまったようだ。

鬼だ。そう思った。

まだ18歳の女の子が毎月何百万と借金を背負わされたらどうなるだろうか。

想像に容易い。

と同時に無力感に苛まれた。

僕は彼女に何もできなかった。

僕は彼女の相談者になってあげる事すらできなかった。

彼女の闇の部分に触れてこなかった。

彼女は責任感が強すぎた。

彼女は良い子すぎた。

彼女は闇の吐き出し方を知らなかった。

彼女は純粋すぎた。

辛かった。悔しかった。悲しかった。

あの時僕が風俗の仕事をビンタしてでも止めていればまた違った結果になっていたかもしれない。

美夜が歌舞伎町に適正がなかったと言われれば確かにそうである。

だが1度立ち止まってみんなで考えてみて欲しい。

18歳の女の子に毎月何百万もの借金をさせても売上を上げるのがホストクラブの在り方なのかと。

僕は絶対にそうじゃないと信じたい。

これは数年前のお話でホストクラブ業界自体クリーン化が続いている。

僕は決して偽善者ではない。

ただこんな事があったんだよってみんなに知って欲しいだけだ。

同じ事が繰り返されない為にも。

雨。

雨の匂いを嗅ぐとふとあの美しい瞳を探してしまう自分がいる。

そして、その度に後悔の念と自分の無力感に苛まれるのだ。

この話を読んで感じるものがあったらノートにいいねと引用RTにてシェアしてくれると嬉しいです。沢山の人に知ってもらえるきっかけになり、悲劇が繰り返されないためにも。

※この話は実際の人物、団体に一切関係ないフィクションです

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