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サンセットに届ける。~後編~

~前編の続き~

そんなこんなで、草間さんはいつも陽気だった。
草間さんのもとで働いてるみんなも陽気だった。
ショップに集まってくるみんなも、もちろん陽気だった。

「なんてことないらー」
「なあにゆっちゃってんのー」
いつもこう言っては笑っていた。
そんな彼のもとに人が集まる。
陽気な草間さんはお酒の席では誰よりもはしゃいでいた。

私は22歳頃で大会に出ることを辞めた。
理由は勝てなかった、から。
友達はプロになったり、ライダーになったりしていたが私はダメだった。
いや、うまくなかった。
だから大会でまったく勝てなかったのだ。
あの頃は大会であちこちに行ったりしたな。千葉、伊良湖、仙台。海外にサーフトリップにも何度か行ったりした。
たくさんの仲間のヒートアップの歓喜、そして自身の涙。それらすべての思い出を胸に、コンペ志向から海を楽しむエンジョイサーフに変わった。
コンペ思考を辞めた時、なぜだかホッとしたのを覚えている。

それから年月は経ち、次第に仕事やもろもろで忙しくなり、だんだん海から遠ざかっていった。
みんなに会うのは年に数回、大会や忘年会などの集まりの時のみに。。あとはたまにショップに顔を出すだけ。
そんな30歳手前の頃に、突然草間さんに言われた一言があった。

「ゆーこさあ、なあに頑張っちゃってるの?いいじゃん、もっと楽に生きなよ。」

その頃、私は仕事を無茶苦茶必死に頑張っていた。寝る時間も惜しんで働いていたかもしれない。そんな中、草間さんに突然そう言われ、正直ちょっとだけムカついた。
こちらは将来への夢や願望のために必死に頑張っているのだ。
のんきになんて言ってられない。なんでそんなこと言うの?そんな風に思ったものだ。

でも彼がなぜそんなことを言ったのか、今ならわかる気がする。
あの頃、私は自分の日常のことなんて彼には話していなかったけれど、きっとなんだか、まったくもって私らしくないように見えていたのだろう。
しかめっつらして、ストレスで顔中ぶつぶつになっちゃって。痩せちゃったり太っちゃったりの繰り返しで。。
そんな私を見て、きっとそんな風に言ったんだろうと思う。
自分らしく生きる。。
これって永遠のテーマみたいなものだけど、本当に大切なもの。今はそう思えるのだ。
そののち、いつしか更に海から遠ざかり、ひょっこりショップに顔を出す時以外はみんなにも会わなくなっていった。

そして時は流れ、ある暑い夏の日、そう今から10年前のある日に、草間さんのもとで長年働いていた友人から突然連絡が来た。

「急なことなんだけどさ、草間さんが亡くなった。」

えっ?

なにがなんだか意味がわからなかった。
亡くなった、という文字が、頭の中をぐるぐる回転した。
生涯ひとりものだった草間さんはご実家も県外にあり、連絡先もよくわからない。スタッフ総出でバタバタの様子だった。
「とにかくどこに行けばいいの?草間さんはどこにいるの?」
私を含め、仲間みんながそう思ったこと覚えている。

草間さんは大きな棺の中に入っていた。
生きてるみたいだった。

「なあにゆっちゃんてんのぉ?」

声が聞こえてきそうで、本当に亡くなってるとは思えなかった。
8月12日。朝みんなで海に入り、お店に戻ってこなかった彼を心配して、働いていたみっちゃんが自宅に見に行ったところ倒れていたという。
この時期はちょうどお盆で、斎場もお休み、草間さんは通常よりも随分長い時間安置されてたくさんの人たちに会えることになった。
安置されている彼のもとに、ひっきりなしに人が訪れた。
お通夜も葬儀もまだできない。
毎日朝から晩まで本当にたくさんの人たちが草間さんに会いに来た。
真夏で暑いから草間さんが傷まないように、と、葬儀屋さんも注意を払ってくれ、いつまでもすやすやと眠る草間さんはやっぱり生きてるみたいだった。

お葬式。
どこかの組の親分の葬儀みたいに、本当にたくさんの人が訪れた。
草間さんは小さくなって、お空へと飛び立っていった。

なんだか心にぽっかりと穴が開いてしまった2011年の真夏。
その後、みんなで海に集まって、船を出して、草間さんのホームグランドだった静波海岸にに散骨をした。
いつもは賑やかなみんなだけど、この日はみんな黙っていて静かだった。

空と海がひとつになる。
ブルーとブルーが重なり合って、溶け合って、言葉にできないなんともいえない色合いになるあの瞬間。あのはざまに草間さんがいるように思えた。
今までありがとう。あちらの世界でもエンジョイ。
私は心の中で草間さんにそう伝えた。

あれから10年。みんなそれぞれに歳をとり、私も草間さんが生きていた年齢を越えた。
2021年8月14日。何万年ぶりに海に入る。
あの頃と変わらないみんなで、サンセットの時間を海で迎えた。
なつかしさと、なぜだかたまらない想いでいっぱいになった。
ありがとう。
私は心の中でつぶやき、このサンセットに、彼がいつも言ってた言葉「エンジョイ」を届けた。
そして、そう、自分らしく生きること、自分らしく在ることをあのサンセットのはざまに誓ったのだ。

おしまい。

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