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窓を開けた。冬の花の匂いがした

冬の朝のツンとした空気が肺に滑り込んでくる感覚が好きだ。
そんな初冬の香りがし始めた晩秋。
私は久しぶりに11月に日本にいた。

久々の11月の空気が気持ちよくて、私は外に出た。
辺りを散歩していると、窓を開けた時の花の香りの正体が隣の家のサザンカだということに気付いた。

もうしばらく散歩をした。
近くの自然保護林の中を歩く。
朝日が差して葉っぱがキラキラ輝いている。孔雀の羽みたいに輝く葉から零れる木漏れ日が、地面に宝石のような光を落としている。

私は今、朝にいる。
そして、私の大好きな人もみんな今、朝の中にいる。
同じように冬の始まりのスンとした空気を吸っていて、同じように赤や黄色に染まる葉を見て秋を感じている。
同じ季節の中、同じ時間に朝を迎え、夜に眠る。
「今日は寒いね」とか「今日はいい天気だね」とか声を掛け合いながら。

それが、どれだけ幸せなことか。
大好きな人、たとえ会えなくても、今日もあの人が同じ季節、同じ時間の中で、健康に生きていてくれるのなら。それはもう私にとって隣にいるのと同じなのかもしれない。


もうしばらく行くと、公園に椿が咲いていた。
どの木も葉を落とし始めるこの時期に、サザンカや椿などこんなに花が咲いているとは思わなかった。
久々に見る日本の冬の花に、また私は嬉しくなった。

地面に目をやると、椿の花が花ごとゴロリと落ちていた。花はまだ瑞々しく、私は椿を拾って集めた。
公園のベンチに集めた椿を並べると、とても華やかな花束がそこにできた。
こんな小さな感動を、誰かに伝えたいと思う。できたら「わぁ!綺麗だね!」と、一緒に感動してもらいたいと思う。「好き」ってきっとそういう事だ。


が、伝える相手もなく、昨日チャットアプリで少し話しただけの男に写真を送った。

彼は
「すごー!綺麗!」
と言った。


私は、その返事に何も思わなかった。

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