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最後にもう一度会う日はすぐそこに

彼にはもう一度会わなければならない。
彼からKindle本体を借りているのだ。

これを返す時は私が「楽しめる」状態になった時にしようと決めている。
「楽しむ」は彼の生き様だった。

常に人生をモヤモヤと悩み続けている私からすると「楽しめるか、楽しめないか」で日常のいろんなことを決めている彼は、明確で、前向きで、驚きと発見と憧れでいっぱいの人だった。そんな彼から私は、人生を楽しむコツと小さな幸せを見つけるヒントをたくさん教えてもらった。


彼は早くKindleを返して欲しそうだったが、私は
「少し待ってほしい。必ず返すから」
と言った。

きっと次会う時が最後になる。
だから、最後に会う日くらい、悲しくて寂しくて辛い日にするよりも、少しでも楽しめて「ああこの人と出会えて、そして笑ってお別れできてよかった」と、お互いに思える日にしたい。
それが「日々を楽しむこと」を教えてくれた彼へのせめてものお返しのつもりだった。
それで、私は散歩したり、森林浴したり、空を眺めたり、読書したり、文章を書いたり、仕事したり、前向きになれそうなことを手当り次第試している。

私が少し強引に必死に前を向こうとしているのには理由がある。

私には、もうあまり時間がない。

……と言うと、重い病にでもかかってるのか、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、至って健康です(笑) 

最近私を知ってくれた方の中には知らない方もいるかもしれないけど、私は国際結婚して普段は海外に住んでいる。
今は一時帰国中。日本にいられるのはあと2週間くらいだ。
それまでに、私は前を向いて、笑顔で彼に「ありがとう、さようなら」と言えるようにならないといけない。

Kindleは郵便局留めで返しても良かったのかもしれないけど、最後にもう1度彼の顔が見たいという気持ちが強かった。最初はただ、恋しくて会いたくて、もしかしたら、会ったら、泣きながら戻って来て欲しいと口走ってしまうのではないかとも思っていた。

でもたぶん、今は違う。

ちゃんと会って、初めて会った時みたいに、軽い冗談をたたきながら笑って、バイバイって言えたらいいな、と淡い幻想を抱いている。

今ならわかる。
一度壊してしまった信頼関係と彼の気持ちを戻すことは、今の私にはできない。それはもうどうしようもない。彼を変えようとする前に、私が私自身の人生を「楽しめる」ような強い女にならないといけない。

あと2週間、いや、1週間かな。
きっと大丈夫。


最近はようやく、読みかけで止まっていたそのKindleも読めるようになってきた。
そこには、まるで彼の恋愛観や人生観を事細かに記したような文章が並んでいた。何度か私に言ってくれた言葉もあった。
きっと彼はこの本を何度も読んでいたんだろうな。もしかしたら、自分を知って欲しくて私に貸したのかもしれない。

「なんでもっと早く読まなかったんだろう…」

活字がめちゃくちゃ苦手で、借りたまま放置していたのを深く後悔した。
そんな後悔も、今さら。

代わりに、彼の大事にしていた価値観を全部吸収して私のものにすることにした。返すまでに何度何度も読む。

人として好きだった彼の、人として大事な部分。それを全部もらって私のものにしてしまえば、彼は私の中からずっと消えない。私たちが一緒にいた時間は無駄じゃなかったって、私自身が証明できる。


いや…本当は、直接もっといろんなことを教えてほしかった。いろんな経験も考えも共有したかった。もっと一緒にいたかった。


でも彼はもういない。もういないんだよ。

好きな人に教えてもらうだけじゃなく、自分で学ぶ時が来たんだよ。
「好きな人」以外にも私の周りにはたくさん人がいて、いろんな価値観持って日々のいろんなことを選択して動いていて。そんな中でいろんな経験だってできるし、本もいろんなこと教えてくれる。
幼くて弱い私が変わるには、彼に頼る以外の方法だってたくさんあるはずだよ。


彼と別れてから、彼との連絡に費やしていた時間を、今までやらなかったような読書とか、散歩とか、文章を書いたりとか、そういうことに費やすようになった。

この時間が私を癒して、きっと成長させてくれると信じて。

きっと彼に笑顔で会えると信じて。

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