バンドマンとお客さん〜追悼編「Kさんのこと」〜

無事にツアーファイナルも終わりました。で、書こうかどうしようか迷っていたんですが、書き残しておきます。

お正月にウラニーノHPにメールをいただきました。悲しいお知らせでした。よくライブに来てくれていたお客さん(Kさん)が、年末に亡くなったという報せでした。

Kさんはもうずいぶん前からウラニーノのライブに来てくれて、東京だけでなく地方もたくさん来てくれました。本当にライブハウスが好きな人で、いろんなバンドのライブに通っていました。ぼくも自分のライブではなく、見に行ったライブでお会いすることもたくさんありました。

12月14日のウラニーノのワンマン、チケットを買ってくれていたのですが、「体調が悪い」とのことで残念ながら来ることができず、彼女のお友達がそのチケットで代わりに来てくれました。終演後チケットに「元気になってまた来てくださいね!お大事に!」とメッセージを書いて、お友達に託しました。風邪かな、インフルかな、それくらいに思っていました。

話好きな方で、ライブ後物販でよく話をしていたのに、ぼくは彼女の病気のことは何も知りませんでした。確かにあまり健康そうではなかったけど、深夜バス移動で地方公演にもガンガン来る人だったので「意外とタフなんだな」と思っていました。

以下はすべて彼女の訃報を報せてくれた方からうかがった話です。

彼女は数年前から癌を患い闘病していました。そして秋にはお医者さんに余命を宣告され、来年の春までは生きられないと告げられたそうです。それでもその後もライブハウスに会いに来てくれて、ご入院してからも病床で好きなバンドやライブハウスの話を楽しそうにされていたそうです。

亡くなる前、お見舞いに来たお友達に、「友達には会いに来てもらえるけど、バンドマンには私が会いにいかなくちゃ会えないもんね」と言っていたそうです。

報せを受けてから、ぼくはずっと考えてました。あんなにたくさん会いに来てくれたKさんに、ぼくは何かできたんだろうか。「たとえこれが最後のライブになっても悔いの残らないような、そんなライブをする」、そんなことを口では言いながら、当たり前にライブをやって、当たり前に次のライブも決まっていて。本当の意味でこれが最後のライブになるかもしれないと心のどこかで思いながらライブを見ていたかもしれない彼女の前で。

Kさんが残された時間を使ってライブに来ることは少しも当たり前ではなかった。残された時間と向き合いながら、彼女はどんな気持ちで夜行バスに揺られていたんだろう。どんな気持ちで会いに来てくれていたんだろう。「来年もCD出しますよ」「来年もツアーやりますよ!」、来年も、来年は。物販で交わすそんな会話を、どんな気持ちで聞いていたんだろう。

ツアーファイナル、当たり前だけどKさんはもういませんでした。「そうか、いないんだよな」と思いました。それはさみしいとか悲しいとかそういう言葉で表せるような感情ではなく。ああ、いないんだなと。

ぼくらくらいの規模でライブをやっていれば、よく来てくれる人は当然覚えますし、なれなれしくもなりますし、ご存知のとおり小倉はデリカシーのないことも言います(ご存知のとおり、悪意はありません)。
ライブハウスでしか会うことがないけど、当たり前ですがお客さん一人一人にもそれぞれに事情があって日常があって人生があって。それを知ることは少ないけれど、そんな中で時間とお金を使ってライブに来てくれるということが、どれだけ特別なことか。

Kさん、たくさん会いに来てくれてありがとうございました。何も知らずごめんなさい。あなたにとってライブハウスはどんなところでしたか?最後の最後まで楽しんでもらえましたか?残りの限られた時間もやっぱりライブハウスに通ってくれたあなただから、きっとぼくなんかよりずっとライブハウスの楽しさを、音楽の尊さを知っていたんでしょうね。あなたのような人がいつでも集まって楽しめるような、そんなライブハウスでずっとあるように、バンドマンもがんばりますね。もうチケット買わなくていいですから、よかったらときどきライブ見に来てくださいね。

今日もライブハウスでは、あなたが愛してくれたバンドマンたちが大いに歌っております。人生をかけて、実に楽しそうに。たとえこれが最後のライブになっても悔いのないような…そんなことを考えてるヤツはたぶん1人もいません(笑)

あとね、最後に。あなたが昔「私ピストンさんの前説、生理的にムリなんです…ごめんなさい」って言ってたの、あれ最高でした。ピストンをステージに送り込んで、最前列のあなたのリアクションを見るのを小倉と密かに楽しみにしていたのは、今だから言える話です。ごめんなさいね。

長きに渡る闘病お疲れさまでした。そっちにもバンドマンいますね、あんな人やこんな人が。どうぞよろしくお伝えください。心よりご冥福をお祈りして、ぼくはまたステージに上がるとします。


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