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映画『魔女見習いをさがして』レビュー

【セーラームーンとプリキュアの狭間でDON DON!!した世代に贈る心のビタミン】

 東京国際映画祭2020の、一般客も入れたEXシアターでのP&I上映枠で佐藤順一監督、鎌谷悠監督によるアニメーション映画『魔女見習いをさがして』を見た。

 元になっているのは『おジャ魔女どれみ』というテレビアニメーションのシリーズ。第1期が1999年の放送スタートだからもう20年以上も前の作品で、4期まであって2003年1月いっぱいで放送が終わって、次の年に『明日のナージャ』を1年だけ挟んで、あとはずっとプリキュアシリーズが続いている状況にあって、いったいどんな人が見に来るのか、気になって仕方がなかった。

 上映後に舞台挨拶が行われて、登場する3人の女性を演じた森川葵、松井玲奈、百田夏菜子が登壇して、あれこれ語ってくれた。3人は11月13日に映画が公開になってから行われた舞台挨拶にも登壇して、それぞれに『おジャ魔女どれみ』をよく見ていたことを話していた。3人は20代後半だから、5歳から10歳くらいまでの間にリアルタイムで見ていた計算になる。その後のプリキュアシリーズよりも、ずっと昔の『美少女戦士セーラームーン』よりも、同時代性は高そうだ。

 そんな3人や同じ世代の人たちだけに、下の世代向けのプリキュアシリーズが15年以上も続いて毎年のように映画が公開され、そして上の世代向けのセーラームーンもリブートがあって映画の公開も取りざたされる現状に、寂しい思いをしていたかもしれない。そこに提供された『魔女見習いをさがして』に強く心を奪われるもの当然だ。なおかつ描かれている内容が、かつて『おジャ魔女ドレミ』を見ていた女の子たちが、大きくなって直面しているさまざまな課題について描かれたものだから、映画館に駆けつけて見てたまらない思いを覚えただろう。

 描かれた仕事や学校や恋愛や家族といった問題について、いろいろと考えさせられたに違いない。そして、前へと進む勇気をくれるストーリーに、セーラームーンよりもプリキュアよりも自分たちのアニメーション映画だと感じたに違いない。なかなかの興行成績を上げていることが、そうした世代の好評ぶりを証明している。これを単純にマーケティングの成果と言ってしまえば身も蓋もないけれど、今もしっかりと存在している『おジャ魔女どれみ』ファンへのサービスと考えるなら、とても良い企画だった。

 物語。帰国子女の吉月ミレは、一流商社でフェアトレードの担当をしていたものの、利益主義に傾く上司に逆らいとばされる。愛知県の教育大学に通う長瀬ソラは、教育実習に出た先で発達障害の子と向き合い過ぎて指導教員に叱られて、教師になることに自信を失っている。そして尾道のお好み焼き屋で働くフリーターの川谷レイカは、絵の修復しになりたいと勉強はしているものの、音楽をやっているふりをしている男に貢いで別れられないでいる。

 そんな3人は、少しずつ世代が違っていながらも、それぞれが『おジャ魔女どれみ』のシリーズを見ていて大ファンで、今も魔法玉を大事に持っていて、鎌倉にあるMAHO堂のモデルになった家を訪ねたところを出会って意気投合する。3人は、それぞれに抱えた成長してからの悩み、魔法なんて存在しない現実社会の懊悩を、それでも『おジャ魔女どれみ』で学んだ友達付き合いの方法だとか、夢を見続ける楽しさをよりどころにして乗り越えていこうする。

 そこで、魔法使いではない3人が、それでもしっかり持っている“魔法”に気づいて歩き始める。大人たちにかける素晴らしい魔法のようなストーリー。そんな映画だと言える。

 デフォルメされたりする表情や仕草はもう本当に『おジャ魔女どれみ』的ビジュアルで、佐藤順一監督ならではの作法が出ている感じで楽しめた。そこに若い鎌谷悠監督の力量も重なって、懐かしむだけではない今の世代に向けた新しい『おジャ魔女』が出来上がったのだろう。

 鎌倉から高山から奈良から京都から、尾道から名古屋から全国を旅する展開は、まさにGoToアニメと言えそう。見ていて旅する楽しさを感じさせてくれるけれど、現実の旅が難しい昨今を3人の楽しさに増えることで埋めることもできるみたい。舞台挨拶ではレイカを演じていた百田夏菜子がそうして欲しいと言っていた。

 ソラ役の森川葵は、おどおどとしたソラをしっかり演じていたし、レイカ役の百田夏菜子は、尾道の方言を聞かせてくれて、『この世界の片隅に』のすずさんっぽさを感じさせた。声質もアニメにぴったりはまっていた。そして松井玲奈。ちょっぴり大人のミレをもう完璧に演じきっていた。声優としての成長が感じられた。あるいはそのあたりの世代がハマる年頃になったということかもしれない。(タニグチリウイチ)

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