映画『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』レビュー

【誰かに優しくすれば誰かから優しくしてもらえると信じられる物語】

 『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は興行収入が10億円を超えたという。それもそのはず、公開から数週間が経ってなお、新宿ピカデリーがだいたい満席になっていたほどの人気だったから。

 とにかく安心して観ていられるアニメーション。キャラクター自体は「たれぱんだ」とか「リラックマ」で知られるサンエックスが生み出してから、もう7年くらい経っている。見た目は丸くてかわいいけれども寒がりのしろくまとか、自分に自信がないぺんぎん?とか、気弱なねことか、本当はきょうりゅうだけれど言えば捕まっちゃうから偽っているとかげとか。

 さらには、やっぱりほんとうはなめくじだけれど貝殻をせおったにせつむりとか、脂身9割のとんかつとか、しっぽだけのえびふらいとか。熱血とも青春とも違ってどこか欠けていたり足りなかったりするキャラクターたちが、ひっそり隅っこをとりあうというか譲り合いながら生きている。

 それは、単体ではあこがれの対象というよりは、むしろやっぱりどこか欠けている自分たちの成り代わり。というか、完璧な人間なんて今やあんまりいない時代に自分もそうそうと投影できる何かを誰かが持っている。そんなすみっこコたちの誰かに自分を仮託して、あるいはトータルの世界観に自分を沿えて観ることができる。だから人気となっている。子どもだけじゃなく大人にも。

 そんなキャラクターたちでも集まれば、欠けていたって補い合い、支え合って前向きに動いていける。そうやって絵本の世界で知り合った新しいともだちを、助けよう励まそうと動き回るストーリーが絵本の世界という舞台で、物語に強制的に突き動かされるように進んでいく中で浮かぶギャップをギャグ的なものとして楽しめる。

 そうやって楽しみ、とんかつとえびふらいが赤ずきんの中でやっぱりな状態になったことにほくそ笑み、楽しんだ果てに来るひとつのクライマックス。そこに奇跡はないけれど、でも頑張った甲斐はあった。そして作られた新しい世界を果たして新しい友達は喜んでくれるのか。

 くれるんじゃないかな。そう信じて映画館を出ながら自分も誰かに優しくしよう、そうすれば誰かから優ししくしてもらえるかもと思うのだ。

 平面のキャラクターにすぎない「すみっコぐらし」のすみっコたちを動かすにあたって平面のままでは紙芝居にしかならないところを絵本調を維持しつつ、ちゃんとキャラクターとして動かしてみせるところがすごいというか、過去にそうしたキャラクターものを多く手がけたファンワークスだけのことはある。

 スタジオがしっかりしている上に、ヨーロッパ企画の角田貴志が脚本を書いてまんきゅうが監督を務めた作品は、キャラクター好きの子どもたちだけでなく大人だって観てこの生きづらい世界を頑張って生きていこうと思う映画に仕上がった。

 だからこれだけのヒットをしているんだろう。そうした噂が広まることで、なおいっそうの観客に足を運ばせ評判を高めて広めてそしてまた足を運ばせる連鎖が続いているうちは、まだまだ収入は伸びるだろう。そしてシリーズ化も? それはあっても良いけれど、同じだけの感動を生む物語を送り出せるか? そこにも期待したくなる。(タニグチリウイチ)

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