「私は人間だ」と叫んだ。あの映画館はもう無い。

 多分、小学生かそこらだったかと思う。
 生まれ故郷の映画館はいつの間にか滅びて、その映画館があった頃に観た映画が大人になってからも忘れられなかった。
 袋を被った異形の男性は、群衆に追い詰められて叫んだ。
「私は人間だ」と。
 そのシーンと、最後にベッドに横たわりおそらく死んだのであろう、そのシーンが記憶に残っていた。

 随分と大人になって、自分の子どもが大人になった。
(そういえばあの映画、全編はどうだったかな)と思いつつ、配信では見当たらず、ある時通販でディスクを購入した。

 見るのが辛かった。
 こんなに悲しくて辛くて残酷で美しい映画だったのかと泣いた。
 「今の僕に、こんなに素敵な友人がいることを知ったら、僕の母は僕を愛してくれるだろうか」(主人公)
 「私は善人だろうか?」と医師の自問へ「もちろんよ」と答える妻。
 「夜が来る・・・」(主人公)

 この映画を観て流れる涙の種類を私は知らない。
 ただ、この映画を知ることが出来て良かったと思う。
 頻繁に観るのは辛い。観るのに勇気がいる映画ではあるけれど・・・

 この映画を作ってくれた人に感謝する。
 主人公には実在のモデルがいるということだが。
 
 あと、昔観た映画をまた手に入れることが出来るという、現代の技術にも
勿論感謝する。
 今は無い故郷の映画館。
 今度、あの映画館の跡地にでも行ってみようか。
 
 賛否両論あるかも知れない。
 映画も本も、好みは人それぞれ。
 それでも私が、今までで一番心に残った映画を選ぶなら。

『エレファント・マン』

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