キャピタルゲイン・1話

「ママ、私好きな人できたんだ。ママには、スミレもいつか分かる時があるって言ったけど、わかった気がする」

「スミレ、それは何も分かってないよー。」

5月中頃にもなろうとしている、朝のたわいもない話しから今日が始まった。

「ほんとうに!今回はそんな気がするの!」

「じゃ告ってきたら?今日しないと後悔するかも知れないよー?」

「…」

「ほらね。でも今日のうちに告白は済まして起きな」

「なんで?」

ママはなんでこんな話しをするのだろうと思った。
確かに今日はおかしいことがある。朝7時という時間帯、世のお母さんは朝食の支度に忙しく慌ててる時間帯だ。
確かにママも忙しくはしてるけれど、それは違う。

ママはそもそも夜に働いているのだから。夜に働き朝に帰ってきて、昼間に寝る。そう夜職の人だから。

そんなママが朝に起きているのはどうもおかしい。

そんなおかしさの中、朝食の準備をしながらさっきの話である。

「ん?ああ、行ってなかったね。今日の夜実家に帰るよ!島根だからちょおっと遠いけど、軽い遠足だね⭐︎」

「えぇ!!実家って!?何で?仕事は」

ちょっとの遠足ではないし、ママは仕事だってある。島根に行っても夜職なんて東京みたいにないのに…
私もこの春から高校にも通い出したのに…
友達はまだいないけど。

「実家、島根って言ってなかったけ?まあ何もないけどどうにでもなるさ!仕事は別のことやればいいし、スミレの転入はもう届けているから」

「うそ……」

「ほんとっ」

こんなママなのである。行き当たりばったりの人生を楽しんで何も考えてはいない。考えてるのは自分のことだけで。その面私はママの反対だ。
計画を立てようとするが、尻込みして、他人のことばかり目に入る。それも私は好きではない。

「何で実家戻るの?別にお金とかは大丈夫なはずだけど…」

「借金してました!(てへ」

かわいこぶっても駄目だよママ…見た目若くても35歳なんだから。

「そんなじゃ逃げても駄目なんじゃない?」

「大丈夫大丈夫!店からの借金だし、住所もバレてない!昔の源氏名だったから私に辿り着いても、ここのアパートの住所ぐらいしか分からないって」

ははっと笑いながら凄いことを言っていた。
どこの世界にそんな借金して夜逃げしようというのか、この平和になった世の中あるのかと思った。

「だからさ、『告白』しときなよ」
「試してる?」

ママの言い方まるで私の好きが、異性に対する好きじゃなく、友達としての好きと思ってるらしい。

「さあぁね。けど後悔のしない生きた方しなよ!スミレは私と違って後悔しそうだから」

「ママは後悔ないの?」

「ないよ!」

ママはキッパリとそう答えた。
私はママが後悔してると思ってたから少し驚いた。

「やばっ!もたもた話してたら遅刻する。行ってきまーす」

朝食の準備をして、ご飯を食べながら話してたら、もう8時を過ぎてた、8時半まで間に合うとは思うけれど、私は大慌てで家を出ていく。
扉を開けて外に一歩踏み出すタイミングで、居間にいるママが私に何か声をかけてきた。

「スミレー、あんたさ…もし……ったら…」

「なにー?」

遠くにいたせいと、慌てていたのもあって、ママの声が聞こえなかったから聞き直した。

「いや、何でもない。行ってらっしゃい」

ママはそう言って見送った。
何だかママの笑顔が妙にぎこちなくて、鳥肌が立ったが徹夜で眠たいのにワザに顔を作ったのだろうと思った。
行ってらっしゃいなんて聞いたのは数年ぶりだったから…


…………

学校に早足で向かってる時に朝の会話を思い出す。
ママは後悔のない人生を選んでると言っていた。
正確にはそう解釈したけれど本当だろうかと?

ママこと種崎 美祐、旧姓霊 美祐は大学生の時私を産んだ。
当時、大学で付き合ってた人と恋仲になって、好き合って私ができて、産んだらしい。
そのあと子育ては相手方の両親にも手伝って貰いながら大学も卒業した。
卒業後結婚はしたが、就職はママはしなかった、私を育てるのに必死だったのもある、一人目の子で、余裕がなかったようだ。

私のことに気を使いすぎる中で、夫婦仲は悪くなり離婚をした。
そのあと私を育てるために夜職に就くことを選んだらしい、夜は一人になるけれど、女一人で子育てとなるとお金が必要だったのでその道を選んだ。

どうして父の方に私は行かなかったが不思議だけれど、そのことについて一度も聞いたことはない。
聞くのが怖いと私は心中どこか思ってるのだろう。

そのあとは夜職で、働きながら私は無事15歳になり、高校入学して今に至る。

私はどう考えても、私を産んだこと、離婚したこと、普通に就職しなかったこと、どれも後悔の連続に思うけれども違った。

違った。そこが私は引っかかった。

「まあ、帰って島根に行く準備しながら、電車の中ででもどこかで聞いてみよっと。」

そう口に出しながら、私は大事なことをまた一つ思い出した。
『告白』どうしよう?

……

何だかんだでママの子だと私は思った。
今日でこの学校に通うことはないのに、普通に授業を受けて6時間目も終了したからだ。

HRでも私の、引っ越しの話はなかった。
そもそも本当に編入手続きをしてるのか私は怪しくも思う。ママのことなので。

だから私も別に”今日私は編入しまーす!”と大々的に言うつもりもない。
明日みんなが来て朝のHRで「種崎スミレさんは編入しました。」と担任の先生から聞くので良いと思ったから。
そういうところで朝ママが後悔しないようにと言ったのかもしれない。
ママはそこまでは考えてなさそうでもあるけれど。
だけど私はHRが終わったらやることがあると決心していた。

「ではこれでHRは終わるぞー。何かあるやついるか?ん、じゃあ気をつけて帰るんだぞー」

そう言ってHRが終わって私は真っ先に菊池くんのところに行った。

菊池陽翔
顔は誰もが見てもイケメンとは言えないけれど、私はかっこいいと思い、優しい人だと思う。その優しさとかっこよさに、好かれたのだと思う。

「き、きくち、くん、ちょっといいかな?」

「うん?なに?」

「ちょっと別のところで話してもいい?」

「いいけど?」

流石に明日もうこの教室にいないと分かっていても私は教室のど真ん中で公開告白する勇気はない。
この学校では屋上には鍵がかかって入れないが、その手前までは行くことができる。
階段になっているか声は聞こえるかもしれないけど、HR後直後で全校生徒が動いている。
ある人は部室に向かい、ある人は家に帰るために校門に、各々向かう先は違って、ざわざわとなっている。そこに誰も来ない屋上に繋がるドアに来るものなんていない。
だから告白しても誰も気づきはしないし、たとえ気付いても誰だっかまでは分からないだろう。

「あの、ね。菊池くんね。あの…」

「どうした?大丈夫だからゆっくり落ち着いて話そう?」


私は胸がいっぱいで声が声にならなかった。
告白して相手の返事がどうなるか何て考えられなくて、告白と言うことに緊張してしまった。

「き、菊池くん、あのね。わ、わたし、菊池くんのことが、す、好きです。」

ついに言った。
ちゃんと伝わったか分からないけどちゃんと言えたと思った。
その時しっかり顔を見てなかった私は菊池くんの顔を見た。
照れ臭そうに人差し指でほほをかきながら顔を横に向けていた。
照れ臭そうにしながらも、顔が正面に向く。私と目が合った。

「あ、ありがとう。でもスミレちゃんと付き合えない」

「……」

私は泣きそうになった。溢れんばかり涙を目に溜めて、奥歯を強く噛み締めた。
付き合えても、付き合えなくてもさよならだ。
だから悲しいことは分かってたけど、振られたことにこんなにも悲しくなるとは思わなかった。

「いや、そうじゃなくて、僕は、誰とも付き合わないから」

菊池くんはそう言った。
そんなふうに言ったが正しいかも知れない。
私は泣くことを止めるのに必死で、頭が真っ白だったから。

「ありがとう。僕を好きになってくれて。」

慌てながらも、菊池くんは優しく言ってくれた。
その言葉に涙が溢れ出てしまった。ぐすんぐすんと泣きながらも、ずっと涙を止めるのに必死だった。
止めようとすればするほど涙は溢れてくるのに。
そのまま菊池くんは私が泣き止むのを待ってくれた時間は10分以上もかかったと思うのに、ずっと待ってくれたことに、ありがとうと思った。

「あ、ありがとう。ご、ごめんね。泣いて、しまって」
吃逆が出ながらも声が濁りながら必死に伝えた。

「こちらこそ本当にありがとう。僕を好きになってくれて」

菊池くんはずっと優しかった。だから私はお別れの言葉を言わないと決めた。言っても言わなくてもお互いどこか心に残るだろうと思ったから。
それなら今日だけでも気持ちよく終わらせたかったから。

「じゃあ僕はいくね。また、明日、バイバイスミレちゃん」

「うん、じゃあね菊池くん、バイバイ。」

たぶんこれが菊池くんと会うのは最後だろう。
もう一生会えないかも知れない。けど私は悔いはないと思えた。そんな気がした。

私はしばらくその場に立ち尽くしたままだった。

失恋が辛かったのか?それともこの学校にまだ何かやり残したことがあったことに悔やんでいるのか?分からなかったけれど、ただ何か心が埋まらなかったから。
キーンコンカーンコーンと、チャイムが聞こえた。
18時に知らせである。

18時以降は部活動の生徒以外は学校には残ってはいけないからだ。

「あっ、早く帰らないと、引っ越しの準備してない」

チャイムが聞こえたことによって、我に帰った私は大慌てで学校から飛び出していく。

ママにいつまでに帰ってきてと聞いてなかった。
もしかしたら朝それ言おうと思った?ママが告白を促したから時間急かさないようにした?
分からなかったけれど私は全速力で駆けて行った。

ぜーぜーと息を切らせながら家に着いた。
ドアを開けて
「ただいまー、ママー遅くなってごめん。今から準備するから」

家の中から物音一つ聞こえなかった。
不思議になりながら家に入った。
居間の机には一枚の手紙が置いてあった。

『スミレへ、告白どうだった?成功した?失敗した?どちらにしても自分で後悔しない道を選んだのならママはそれで良いと思うよ!
急に手紙で伝えてごめんね。ママはスミレとはいけない』

どういうこと?私が何かした?
何かダメだったの?結局パパもママも私が嫌いなの?
みんな私を捨てていくの?

『理由は言えないけどスミレも自分の道を進むんだよ!この家には住めないけれど、後悔のない選択ができる子だと私は信じてるから、じゃあねスミレ。』

ママの書いてることは分からなかった。結局ママは私を捨てたと思う。
これからどうしようかわからなくなった。頭の中は真っ白だった。
そのときもう一枚の紙が床にヒラリと落ちた。
書いてあったのは
「島根県益田市……これって?」

朝ママは言ってた、あんたに言ってなかったけ?島根だからちょっと遠いと。

「ママの実家?」

家に住めなくなるの?でも行く宛なんてない。ここに書いてある住所しか。
悩んでも、悩んでも、解決策は見つからない。
途方に暮れても誰も助けてもくれない。

ここにも、居られないし。頼れる人もいない。パパ誰かも知らないし、ママはどっかに行っちゃった。
残されたのこの紙切れ一枚だけ、だから私はそこに縋って、島根に行くことにした。

準備するものなんてあまりなかった、普段から物を買わない私は、携帯電話と、着替えの服、下着。それぐらいしかなかった。
持っていけれる服をありったけトラベルバッグに入れる。高校の制服はどうしようかと悩んだ。
もう二度とあの学校の門を潜ることはない。だから必要のない物だった。
だけど私は何か残したような気がしていた。
入れない方が服を持っていけるが、私は制服も入れた。
失敗するかも知れないけど、後悔はしたくなかったから。

時刻は19時を回っていた。

調べた限りでは今から島根に着く電車はなかった。
明日の朝私は島根に行くことにした。

そのあとご飯も今日は自分の分しか作らないくていいと思うと、作る気もならなかった。作って余ってもどうしようもないと思うとさらに作る気がわかなかった。
だから近くのコンビニでお弁当を買って食べた。
そのあといつものようにお風呂に入って、勉強…はもうしなくていいのか、な?と思いながら何故か癖でやってしまってた。
布団に入って寝ようと思ったけれど、なかなか寝付くことはできなかった。

ここで寝られるのだと凄い器の大きい人だと思った。ママぐらいかな?いやあれはちょっと違うかもしれない。

今日は本当に色々あった気がする、朝から引っ越しを伝えられ、学校では告白して振られ、失恋。帰ってきたらママは一人で夜逃げ。
いや夜逃げなら一人の方が良いかもと、今冷静になって思う。けどそれならマンションそのままにしててくれたらよかったのに…

そして今。

明日はどうなるのかと怖くなりながら、私は深い眠りについていった。

…………

朝になった。
時間は7時過ぎ、普段なら学校の準備して、朝ごはんを作りながらテレビでも見てるのであろう。

「準備よし!忘れ物は……たぶんなし。あったらお別れだ。じゃあ行ってきます」

私はそう言ってドアを開ける。昨日も緊張しながらこのドアを開けたけれど、今日も緊張しながらドアを開けていく。
これから私はどうなるのだろう?どこに向かうのであろう?かと。


新幹線は乗ったことがなかったけれど、難なくチケットを買うことができた。

「新幹線って予約しないでも乗れるんだ」

そんなこと全く知らなかった。飛行機も予約なしで乗れるのかな?っと思った。

そのまま新幹線に乗って島根に向かう。ママが残した便りを使って。

新幹線は途中から席に着くとができた。
ずっと立ちっぱなしで正直疲れた。
だからみんな予約して乗るんだとも学んだ。

「はい。飴ちゃん…」
隣にいたおばあちゃんが急に飴をくれてびっくりした。
普通、飴って配るものなのかな?

「あっありがとうございます」

「若いのにどこか旅行かい?」

「あ、えーと、そんなところです」
流石に親が借金して夜逃げしていく宛もなかったので、母が残したこの住所を頼りに島根に向かってるとは言えない。

「そうかい、そうかい、良いものだね。私みたいに歳とると遠出は辛いからね…」

そういいながらおばあちゃんは自分の話をした。
昔はどこどこに行ったとか、旦那さんは素敵だとか、私は今は大阪に住んでるとか、旦那さんは素敵だとか。
そうこうしてると大阪についておばあちゃんは降りていった。
楽しい旅行になるといいねっと言ってくれて、はいと答えた。
けど旅行でもなく、あてもなく向かってるこの旅は幸せな片道切符なのだろうか?と思った。

岡山に着いてから、乗り換えをして何とか益田市に到着。
辺鄙なところだなっと思いながら携帯で住所を調べて目的地に向かう。

大きな橋の近くに祖父母の家はあった。

「着いた!意外と綺麗な家だけど、合ってるよね?」

外観は綺麗で昔に建てられたとは思わなかった。
おじいちゃんとかの年齢はママが35歳だから若くて55ぐらい?
けど流石にママみたいに20歳で産むとは思えないから60歳とかかな?
30年前とかに建てられた家には思えないけど?

まあいいや。
違う家だったら家聞けば良いし。
インターホンを鳴らすと家の中からかピーポンと音が響いていた。
田舎だからかな?外までよく響くこと。

ガチャリとドアが開いて、出てきたのはママぐらいの年齢のママに似た人が出てきた。

「どちらさま?」

「えっえっと、私、種崎スミレと言います。ママ、じゃなくて、種崎美祐の娘で、ここに実家がある聞いてきました。けど、まちがい、ですよね?」

ははっと苦笑いをして誤魔化そうとした。

「なるほど。とりあえず合ってると思うよ?」

「では、お、おばちゃん?」

「誰がおばあちゃんか!この顔でそう見えるのか?」

怒られた。すごく怒られた。けど実家で合ってて女の人が出てきたのだからおばあちゃんと思うよね?

「じゃあ、おじいちゃ…」
「違うっていってるでしょ!それにどこからどう見て”男”と思うのよ!」

確かにふくよかなお胸があって、ママより胸が大きいけど。”こころ”は男の人は今の時代たまにいるから。
可能性はなくはないと、思ったのだけど。

「じゃあ、え、えっとどちら様?」

「はぁ、妹から何も聞いてないのね」

妹から、妹から、、目の前の方が妹と言うと。ママのこと?
「じゃあ叔母さん?」

「おねぇさん」

「あっはい。お姉さんだったんですね!」

ママに姉がいることなんて聞いたこともなかった。
そもそも私、ママの家のこととか一度も聞いたことなかった気がする。
彼氏のことはよく聞いてたけど。

「とりあえず中に入りなさい」

「おっ、お邪魔します」

お姉さんはニコリと笑いながら家に入れてくれた。
中はマンションにいた時とあまり変わらず、田舎と都会って内装、変わらないんだと思った。

「そこに座り。何か飲み物入れてあげる?炭酸飲める?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

そう言って炭酸ジュースを入れてくれた。

「あのー、1つ聞いても良いですか?」

「なに?私がわかることなら良いよ」

そう言ってくれたから確認したいことだけ聞くことにした。
「ここって私の祖父母、えっとつまりお姉さんの両親の家であってるんですよね?両親は?」

「数年前に亡くなったよ。妹はそのこと知らなかったみたいだね。まあいろいろ大変だったからね」

そうお姉さんはすまして言ったけど、たぶん大変だったことは私だろう。
数年前に遡ると私は小学生ぐらいだったと思うから、仕事と子育となると実家の方の状況を知らなかったのかも知れない。あるいはママだから…

「そうなんですね。ご愁傷様です。」

「堅苦しいのはいいよ。それに身内だし。」

「じゃあ今は、お姉さん一人がここに住んでるのですか?」

「まあ、そうだね。」

どこか含みがあるように聞こえた。
あっそうか彼氏とか?

「彼氏さん?とか」

「いやいや違う違う。まあここで仕事してるから日中には人がいるから、ね」

「自営業だったんですね!凄いですね。」

「んーまあ違うけど。今日はいいか…」

「で、ここにはどうしたの?妹はいないし」

そう問われたので昨日あったこと、ママが借金して夜逃げ、手紙一枚でここを頼るしかなくきたことを全て話した。

「なるほどね。またあいつは」

すごく怒っていた、もの凄く。
それをマグマのように溜めている。ちょっと怖い。

「じゃあ、頼る術がなくあんたはここに来たってことね。」

「はい、そうです、が…」

そう言ってお姉さんは何か悩んでた。
多分私が、ここにただ遊びに来たと思って向かい入れたが、急にここに住まわしてくださいに変わったからだと思う。

「そうね、とりあえず私は子育てなんてしたことがない、生活に余裕がないわけではないけど、何も言われずはいそうですか、とはならない」

「そうです、よね」

「けど身内もあるから、とりあえず家には置いておいてあげる」

「あっありがとうございます。」

「だけど条件があります。自分の食いぶちは自分で稼ぐこと」

「えっそれは」

「家にお金入れてねってことだね」

厳しい人であった。
けど確かに身内でも他人は他人だ。とりあえず家さえあればどうにかなる、はず?

「といって投げ出すのも可哀想だからね。私がやってる仕事の手伝いしてくれば、それでいいよ」

「仕事、とは?」

「デイトレード」

「でいとれーど?」

「うんデイトレ」

お姉さんはにっこり笑いながら言っけど、デイトレとは何なんだろう?

「デイ、トレ?ってなんですか?」

「ん、ああ株式投資を一日でトレードするんだよ」

株式投資家であった。
いやママの姉だ、どこか違うと思わなかったらダメだったのでは?
しっかりしてそうに見えて、ダメな人だ、きっと…

「怪しい目つきして、疑ってるでしょ」

顔に出ていた、まずい…

「疑うのはいいよ、よくあることだから、けどそんなに怪しくないし、私はそこまで頑張って今はやってないよ。一生分は稼いだからね」

「一生分?」

「ああ、一生分だよ。ざっと数億は稼いだからね」

えっ?とてつもない数字を言われた気がする。
確か生涯年収って2億ぐらいって聞いたことあってそれは65歳とかまで働いてだよね。

それをママのお姉さんだから35歳過ぎで稼いだの?
うそ…別次元の世界を見てる気分になった。

「それは置いておいて、やる?やらなければバイトするか、かな?ここら辺時給900円あるかないかだよ?」

「うそ…」

900円だとしたら平日は4時間
休日8時間を2日だと…
休みまずに129,600…平日だけだと72,000

「け、けど問題ないと思います。」

「そう、それなら良いわよ」

「5万とかは必要だよ?大丈夫?高校生の平均って月1万ぐらいだけど?」

「えっじゃあ平日、4時間毎日とかは…」

「んー、ここら辺じゃきついんじゃないかな?カフェとかのバイトで平日の夜ってやってないよ。休日働くならあるとは思うけど」

高校生相手に5万…しかもさっき平均1万って言ってたよね?意地悪してる?
そうなると、休日に遊びもいけずにただバイト、華の高校生が。
それちょっと嫌かも。

「やっ、やっぱりトレード代わりにやります」

「OK!とりあえず来週の月曜日から教えるから、7時にここに集合してね。今週は周辺の観光してきたら?何もないところだけど。あと学校の手続きとか私分からないけどできる?」

「えっと…どうにかなってると思うのです自分でやります」

「ok」

「じゃあちょっと外見てきますね。」

「いってらっしゃい」

おねさんは笑顔で手を振っていた。
昨日出た時もそうだけど誰かに行ってらっしゃいと言われるのは何だか照れ臭い。

外に出て大きな橋があった。
橋では車が通っているけど東京みたいに混雑してる様子はない。
本当に田舎に来たんだなっと思った。

東京から出た時もたくさんのことがあったけど、島根に来ても大きなことがあった。
それはいつも私の意思ではなく、周りの勝手な都合だ。

「悔しい…何でこうなるのかな」

私はいつの間にか泣いてた。
理不尽なことが、自分の弱さが、どうしようもなく何もできないことが

「あぁぁあああ゛、私!ぜっっったいに負けないからあぁぁ!」

何に対してそう叫んだの、分からないけど負けたくなかった今の自分に、自分に取り巻く状況に。

外を見に行ったけど結局、近場にしか行かなかった。けど早足で家に向かった。
その時の気持ちを伝えたいと、伝えなければならいと思ったからだ。

だから私はお姉さんに伝えた。

「わたし絶対に強くなりますから!」

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