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TAB譜で弾ける!フラメンコギター |イントロダクション

「フラメンコギターを弾いてみたい」

そんな人が増えている。

アコギやエレキギターとは違い、ピックを使わずに奏でる情熱的なサウンドが奏でられたら、きっとカッコいい。

教室に通わなくても、オンラインやYouTubeを見なくても、フラメンコギターは弾けるようになる。

「独学では難しそう」

から

「独学でも弾けた」

へ、TAB譜付き楽譜を使って「弾ける」フラメンコギターを解説する。

■こんな人におすすめ

このレッスンは、こんな人におすすめのレッスンである。

1.アコギやエレキギターは、なんとなくでも弾いたことがある
2.楽譜だけでは読めないけど、TAB譜があれば楽譜を理解できる
3.フラメンコギター教室に通いたいけど、何らかの事情で通えない
4.独学でやりたいけど、ネット上にはフラメンコギターの教材(楽譜)が少ない

1. について
大前提として、少しでもギターに触った、弾いたことがある人が対象となる。

「昔はギターを弾いていたけど、今はさっぱり」
「最近ギターを始めた」

といった方なら、大歓迎だ。

しかし最低限でも、チューニングはなんとか出来る、あるいは「アルペジオ」や「ストローク」といった、どのギターでも共通する言葉がわかっている人が望ましい。

2. について
ここでは、動画ではなく、主に楽譜と音声ファイル(MP3)を使って行う。楽譜には全てTAB譜を同時掲載するので、音符の長さや休符など、楽譜の基本的なことが理解できれば、TAB譜も読むことができると思う。

フラメンコの楽譜は、たいして難しいものではない。オーケストラのような楽譜ではないので、ご安心を。

3. について
本来なら、ギター教室などに通い、先生に教わるのが上達の近道だと思うが、何らかの事情で教室に通うことができない人、例えば、

・近所や、通える距離圏内にフラメンコギターの教室がない
・対面でのレッスンが苦手
・独学でフラメンコギターを習いたい

という人に向けて書いている。

4. について
独学でフラメンコギターを習得したいのに、意外なことに、ネット上には「これだ」と思える教材や楽譜がないのが実情。それを解消するために、このレッスンを開設した。

ギターに限らず、楽器は繰り返し練習することが大切。YouTubeでのレッスンは多いが、そこで完結してしまう。しかし、楽譜を手元に置いておければ、時間や場所を気にせず、練習できる。

■筆者の師及び筆者の紹介

筆者が入ったギター教室では、スペインへ音楽留学したこともあるおばあちゃん先生が、クラシックとフラメンコの両方を教えてくれる数少ないギター教室だった。

その先生は、まだ海外渡航が特別だった頃、単身でスペインに留学し、アンドレ・セゴビアのマスタークラスへ参加したこともあると聞く。

その後日本に戻り、某楽器メーカーの音楽教室にて、長い間クラシックとフラメンコの両方を教えていた。

筆者はその教室に入り、15年ほどクラシックとフラメンコの両方を教わる。高齢のため教室の講師を辞められた時の、最後の生徒の一人だった。

最初は、音楽教室が出版するギターの教則本に沿ってレッスンを行っていたが、それが一通り終わると、先生がスペインから持ち帰った数多くの楽譜を中心に、レッスンが始まった。

それらの楽譜は、日本では入手困難な楽譜も数多くあり、中には、留学中に手書きで採譜した楽譜もあった。

ここでは、フラメンコギターの基本となる曲種をマスターするため、先生がスペインから持ち帰った、ある教本を中心に行う。

■使用している教本について

その教本は、筆者の先生がスペインへギター留学中、現地でコピーしたものらしく、数多くの楽譜とともに持ち帰ったそのコピー本を、筆者が再度コピーさせてもらったもの、それが

「Flamenco Guitar Edited by T.Koizumi」だ。

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全27ページには、後述のフラメンコの歴史から始まり、基礎となるラスゲアード、ゴルぺ、トレモロ奏法解説や、フラメンコの基本となる各曲種の楽譜が掲載されている、いわばフラメンコギターのエッセンスが詰まった教本だ。

編集者名を見るに、おそらく日本人だと思うが、現地で発行されたものなのか、全編英語で書かれている。

かなり古い書籍らしく、この本のタイトルと編集者名を、ネットでいくら検索しても出てこない。おそらく絶版で、著作権も切れていることだろう。

この中の各楽譜は、フレーズのみの単純なもので、作曲者もない。フラメンコの各曲種は、日本の民謡みたいなもので、伝承されつつ出来上がったものなので、誰が作曲者などわかる由もない。

かと言って、そのまま掲載するのは気が引けるが、各譜面ごとに簡単な解説をつけて紹介すれば、きっとフラメンコギターを弾きたい人の役に立つだろうと思い、掲載することにした。

譜面は、オープンソフトのMuseScoreで書き写し、MP3に変換した。本物のギターを弾いている音源とは違うが、感じは掴めると思う。

■フラメンコに適したギター

フラメンコの演奏に適したギターは、もちろんフラメンコギター。

アコギやエレキギターのようなスチール弦ではなく、ナイロン弦のギターだ。

クラシックギターと違う点は、

・一般的に、クラシックギターよりボディが薄い
・側板や裏板にシープレスという材質を使用し、音の立ち上がりがよく、歯切れの良い音が出る
・表面板にゴルペ板が貼ってある
・弦高が低い

こと。

詳しくは、筆者ブログの下記記事を参考にしてほしい。

もし、手元にフラメンコギターがない、あるいはまだ購入していない場合は、クラシックギターでも代用できる。しかし、フラメンコに比べてクラシックギターは弦高が高く、速弾きに適していないので要注意。

■フラメンコギターの独特の音は右手の爪

フラメンコギターのあの独特のサウンドは、右手の各爪でかき鳴らす音だ。

だから、右手の爪は指先より2〜3ミリほど長めに伸ばしておこう。特に親指は、もう少し長くしておいた方が、ラスゲアードがキマる。

長く伸ばした爪は、割れたり折れたりしやすいので、透明なマニュキュアなどでコーティングしておくと、保護になる。

フラメンコギタリストの沖仁さんは、ライブにて「アロンアルファがベスト」だと言っていたが、筆者はまだ試したことがない。

■フラメンコギターの歴史1〜感じる音楽

何を始めるにも、その歴史や背景は大事だ。

まずは、フラメンコがどのように世界に広まったかについて記しておく。以下は、「Flamenco Guitar Edited by T.Koizumi」を和訳した内容。

フラメンコは、南スペインとアンダルシアのフォークミュージック(民俗音楽)で、 長い歴史とともに発展してきたオリジナル・アートだ。

「フラメンコ」という言葉の由来については諸説あるが、今日最も広く受け入れられているのは、ジプシーのスラングであるflamenciaとflamanの元となる、英語で「炎」を意味するflamaに由来する。

フラメンコは、ボーカルに重点を置いたカンテ・フラメンコ、ダンスに重点を置いたバイレ・フラメンコ、ギター演奏のフラメンコギターの3種に分けることができる。ただし、オリジナルのフラメンコはクアドロ(絵画またはフレームの意味)・フラメンコとして知られ、歌、ダンス、ギターが1つのアートとして組み合わされたものである。

また、フラメンコは

Hay Que Sentir(「感じなければいけない」の意味)」

つまり「知」ではなく「感じる」音楽だと言われている。奏者、ダンサー、観客が1つに溶け込むことで、フラメンコの真の本質が認められるのが理想である。

情熱と悲哀を表現するフラメンコは、数百年前にインドからイベリア半島最南端のアンダルシアにやってきた、ジプシーによってもたらされた。スペインの歴史的中心地であるアンダルシアは、様々な国によって数多くの侵略を経験した。中でも、この地域の文化に大きな影響を与えたのは、中世のモロ(ムスリム)文化だった。

これらの侵略による圧力のもと、遊牧民だったジプシーは1440年代にこの地に移住し始めた。

フラメンコのスタイルが形成されたのは、まさにこの時期だ。

歌と踊りは、代々ジプシーたちの家族間で受け継がれ、また先住民から学んだ新しい歌と踊りがジプシーのレパートリーに追加され、時間の経過とともに徐々に独自のスタイルへと変わっていった。

やがて、アンダルシアのジプシーはカルロス3世(1759-1788)から市民権を与えられ、スラム街に定住するようになった。

ジプシーの絶望と欲求不満を表現する歌は、カンテ・ホンドCante Jondoまたはカンテ・グランデCante Grandeと呼ばれていた。このカテゴリーには

・カーニャCañas
・ポロPolos
・シギリージャiguiriyas
・セラーナスSerranas
・ソレアレスSoleares

がある。ギターの伴奏がない曲は、

・カルセレラスCarceleras
・デブラDebla
・マルティネーテMartinetes
・トナTonas

だ。これらはすべて、18〜19世紀初頭の主なフラメンコ・レパートリーを代表している。

ティオ・ルイス・エル・デ・ラ・ジュリアーナ(Tio Luis el de la Juliana:1760〜1830)、エル・プラネタ(El Planeta:1758〜1860)、ディエゴ・エル・フィオール(Diego el Fiol:1800〜1860)は、この時代を代表するフラメンコ・ギタリストだ。

フラメンコの歴史における重要な出来事は、グリンカGlinkaというロシアの作曲家が1845〜1847年にスペインを訪れ、そのとき偶然、グラナダでジプシー・ギタリストのフランシスコ・ロドリゲス・ムルシアーノ(F. Rodriguez Murciano:1795〜1848)の演奏を聞いたことだ。

グリンカはムルシアーノの演奏に非常に感動し、そこに座り込んでこのギタリストのリズムとメロディーに注目した。

今日、我々が知っているフラメンコギターの歴史は、グラナディナスGranadinas、マラゲーニャMalagueñas、ロンデーニャRondeñasがレパートリーに追加された19世紀にまでさかのぼる。

■フラメンコギターの歴史2〜カフェ・カンタンテ以降

19世紀半ば、ジプシー以外の民衆はジプシーたちの歌、ダンス、ギター演奏に興味を持ち始めた。

当時、ジプシーたちが演奏する、「カフェ・カンタンテCafés Cantantes」と呼ばれるパブがセビリアにオープンし、そこからフラメンコが世界中に広まった。

多くの新曲が既存のレパートリーに追加され、カンテ・フラメンコはその人気の頂点に達した。この時期、カフェ・カンタンテには

・セビリアのシルヴェリオ・フランコネッティ(Silverio Franconetti:1831〜1889)
・カディスのエンリケ・エル・メジゾ(Enrique el Mellizo:1848〜1906)
・ヘレスのアントニオ・チャコン(Antonio Chacon:1869〜1929)
・マヌエル・トーレ(Manuel Torre:1878〜1933)

をはじめ、多くの優れたフラメンコ・アーティストが出演した。ラ・ニーニャ・デ・ロス・ペイネスLa Niña de los Peinesとしても知られる、パストーラ・パボン(Pastora Pavon:1890〜1969)は、その時代の最も有名な女性歌手だ。

19世紀の終わりが近づくにつれて、カフェ・カンタンテの人気は次第に薄れ、20世紀初めにはフラメンコの時代は終わりを告げた。

しかし、第二次世界大戦後、ラ・アルヘンティーナ(La Argentina:1890〜1936)や世界最大のダンスマドンナ、ヴィンチェンテ・エスクデロ(Vincente Escudero:1888〜1980)、あるいはBallet Españolで有名なロザリオ(Rosario:1918〜2000)とアントニオ(Antonio:1921〜1996)などのスターの登場で、フラメンコは爆発的な復活を享受した。

ホセ・グレコ(José Greco:1918〜2000)は、映画「80日間世界一周」での優れたダンスで有名であり、カルメン・アマヤ(Carmen Amaya:1918〜1963)は、「La Historia los Tarantos(バルセロナ物語)」で素晴らしいフラメンコ舞踊を披露している。

ムルシアーノの後、フラメンコギターはカディスのエル・マエストロ・パティーニョ(El Maestro Patiño:1829〜1902)、コルドバのパコ・デ・ルセナ(Paco Lucena:1859〜1898)、ヘレスのハビエル・モリーナ(Javier Molina:1868〜1956)らによって進化した。

そして、フラメンコギターを伴奏ではなく独奏の楽器として最前線に押し出した、ラモン・モントーヤ(Ramon Montoya:1880-1949)の功績は素晴らしいものだった。

以後、

・マノロ・デ・バダホス(Manolo de Badajoz:1892〜1962)
・ペリコ・エル・デル・ルーナー(Perico el del Lunar:1894〜1964)
・エステバン・サンルーカル(Esteban Sanlucar:1910〜1989)
・カルロス・モントーヤ(Carlos Montoya:1903〜1993)
・ニーニョ・リカルド(Niño Ricardo:1904〜1972)
・ペペ・マルティネス(Pepe Martinez:1922〜1984)
・サビーカス(Sabicas:1912〜1990)
・メルチョール・デ・マルチェーナ(Melchor de Marchena:1907〜1980)
・ルイス・マラヴィラ(Luis Maravilla:1914〜2000)
・マリオ・エスクデロ(Mario Escudero:1928〜2004)
・リカルド・モドレーゴ(Ricardo Modrego:1934〜2017)
・ホアン・セラーノ (Juan Serrano:1935〜)
・パコ・アギレラ(Paco Aguilera:1906〜1986)
・アンドレス・エレディア(Andres Heredia:1924〜2012)
・フアン・マヤ(Juan Maya:1936〜2002)
・ビクトル・モンヘ(Victor Monje:1942〜)
・パコ・デ・ルシア(Paco de Lucia:1947〜2014)
・パコ・ペーニャ(Paco Peña:1942〜)
・マニタス・デ・プラタ(Manitas de Plata:1921〜2014)

らが、すぐに彼の後に続いた。

■次回予告

今回は文字ばかりのイントロダクションとなったが、次回より楽譜と音声ファイルで基本から解説していく。

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