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読書メモ: 抜擢される人の人脈力

 ネットワーキング・チャレンジの読書です。

 「人脈スパイラル」というコンセプトを軸に書かれたヘッドハンターである岡島悦子さんの著書です。

 著者略歴を見るとハーバードでMBAを取得し、三菱商事、マッキンゼー、グロービスなどに勤務していたとのこと。立派な経歴ですね。どうやら、人脈のスペシャリストになるにはハーバードのビジネススクールに行く必要がありそうです。キース・フェラッジもそうですが、人脈界隈の頂点はやはりハーバードなのでしょうか。

 して中身は。

 これがなんとも刺激的な本でした。良い本ではあると思うのです。なんというか書かれていることは至極真っ当で、ビジネスパーソンであれば心に響く内容だと思います。しかし、非常に考えさせられる本でもあったのです。

 キーコンセプトである「 人脈スパイラル・モデル」とは、もうひとつのコア概念である「人脈レイヤー」を上昇させていくことらしいです。

 この「人脈レイヤー」については明確な定義や説明が見つからなかったのですが、概念の使われ方やモデル図から読み解くと、人脈は何層かのレイヤー構造になっていて、各レイヤーは基本的には分断されている。そしてそのレイヤーを自ら上昇することはかなり難しく、基本的には上のレイヤーの人から引き上げてもらう必要がある、ということなのだと思われます。

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 この階層を登るのには準備と心構え、そして人脈が必要で、

1.自分にタグをつける
2.コンテンツを作る
3.仲間を広げる
4.自分情報を流通させる
5.チャンスを積極的に取りに行く

 という5つのステップを行いながら自らの能力を磨くことで、少ないレイヤー上昇のチャンスをものにしていくといいよ、上に行けば行くほどマネジメント層としてのレベルが上がったり、一流のリーダーや経営者に近づいていくよ、というのが本書の趣旨です。

 会社組織や業界で出世していくロジックとしては、私自身の乏しい経験からしても得心のいくものです。また、個々のノウハウについてもとても真っ当で、「それができりゃあいいのはわかるけどね」というツッコミはあるものの、私も取り入れたいなという考え方やアクションがいくつかありました。

 ただ、スパイラルモデルはいいのですけれど、それを構成する人脈レイヤーという考え方は、はたしてどうなのでしょうか。「3周目の人脈レイヤー」とか「4周目の人脈レイヤーに入ったばかり」などという記載が出てきますが、違和感を拭えません。おそらく3段階目とか4段階目の間違いだと思いますが(同じところをぐるぐる回っているのなら上昇できていないので)、それはいいとして3周目と4周目の違いってなんですかね?  上に行けばもっと偉い人と繋がれる、立派な人たちのグループに入れてもらえる、ということなんでしょうか。

 まえがきやあとがきからは、

 「以前は私もまだヒヨッコで、レベル3くらい人たちと付き合っていたけれど、このスパイラルモデルを実践して、最近レベル4の階層の人たちと付き合っているんだよね」

というありもしない声が聞こえてしまうのです。

 岡島さんの主張の背後にある意識を邪推すると、そこに無防備と言えるほど浅薄な上昇志向、もっと悪意を持って言えばいやらしい選民思想を感じてしまう。これは私の心が汚れているからなのでしょうか。

 うまく考えが整理できていないのですが、たぶんこのスパイラルモデルは「人脈の構造を説明する理論」には適していないと思います。

 人脈を説明するモデルとして適切なのはネットワーク理論におけるソシオグラムだと理解しているのですが、これはレイヤーの概念とは異なります。

 岡島さんの話は、人脈形成というよりホモジニアスなグループでの成り上がりのノウハウに近いような気がするのです。そして、その観点からはとってもいいことが書いてある

 あるいはもしかするとスパイラルモデルはネットワーク上の特定のクラスタやノードに繋がるためのノウハウなのかもしれません。

 これは皮肉ではなく、本当に私の理解力や人脈に対する知見や経験が少ないために、本書の背後にある思想をきちんと読み取れていない気がしています。

 経営者は経営者とつるんで遊ぶし、由緒正しい家柄の人たちは、身元のしっかりした人たちとしか付き合わないし、リーダーはリーダーたち同士で社会的なつながりを持つ機会が多く、そのお仲間に入れてもらってキャッキャしている、という以上の何かがあるはずだ、あってほしい、と思うのですが。

 ここにきてようやく、本格的にネットワーキングについて思考を促してくれるような本に出会ったという意味で、非常に収穫がありました。

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