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トピック06|2050年の「観光」はどうなる?

脇門 裕子
株式会社コムテック地域工学研究所 地域リノベーション室

古くから人々は観光により非日常を楽しみ、仲間との親睦や訪れた先の人々との交流を深めてきました。その歴史は、平安時代の熊野詣に始まると言われています。また、近年は成長産業として経済効果も期待されてきました。ところが今、コロナ禍により、その意義、形態が根本から問われています。

図表㈰訪日外国人

訪日外国人旅行者数の推移(出典:令和2年観光白書)

近年は、国内旅行が低迷していましたが、アジア諸国の経済成長に伴い、インバウンドが急増し、2019年には3,188万人、この10年間で約4.7倍に膨れ上がったのはご存知の通りです。また、地方部においては、交流人口、地域経済、雇用等を活性化させるための重要施策として、観光振興に積極的に取り組み、今後も地域経済への効果が期待されていました。

図表㈬地方部

地方部における訪日外国人旅行消費額及びシェア(出典:令和元年観光白書)

一方で、主要観光地では、オーバーツーリズムと呼ばれる、観光客の増加による自然環境や生活環境の悪化が深刻な問題となり、観光のあり方が世界的に議論されつつありました。さて、コロナ禍を経た2050年の観光はいったいどのように変化していくのでしょうか。ここでは、未来の観光のあり方を考える上で、参考となりそうな取り組みをいくつかピックアップします。

図表㈭鎌倉

オーバーツーリズムで地域住民への影響が顕在化(出典:鎌倉市HP)

図表㈮嵐山

観光地の混雑状況を表示するサービス「嵐山快適観光ナビ」(出典:令和元年 度観光白書)

持続可能な開発目標(SDGs)に向けた取り組みが世界的に進められるなか、オーバーツーリズムが社会問題化していた観光分野においても、経済的な効果だけでなく、環境、社会、文化に配慮し、地域との共存共栄を重視した「持続可能な観光」が志向されており、コロナ禍も相まって一層注目されているところです。日本においても、国際基準に準拠したガイドラインを2020年6月に策定し、持続可能な観光マネジメントの推進に着手しています。

図表㈯ロゴ

日本版持続可能な観光ガイドライン ロゴマーク(出典:観光庁・UNWTO駐日事務所)

価値観やライフスタイル、働き方の変化に伴い、社会貢献的な活動を取り入れた観光やワーケーションなど、これまでにはなかった新しい観光のスタイルや概念が生まれています。このような観光は、遊びと仕事・学び、ONとOFFの境目が曖昧になっており、地域課題を解決する手段としても期待できそうです。

図表㉀熊野古道

道普請ウォーク:世界遺産・熊野古道をワーケーションで修繕(出典:和歌山県世界遺産センターHP)

技術革新に伴い、VRや動画等を活用したバーチャル観光も話題になっています。時間や移動を気にせず、行ってみたかった場所や観覧してみたかった施設等に、世界中から誰もがアクセスできるのが魅力です。また、このようなバーチャルコンテンツは、将来のリアルな旅を決定するためのツールとしても注目されています。

図表㈷長瀞

VRでバーチャルトリップ:長瀞ライン下り(出典:埼玉県HP)

観光は、コロナ禍だけでなく災害や社会情勢等の影響を受けやすい分野と言えますが、まだ見ぬ世界(海外とは限りません)を訪れ、感動したり、刺激を受けたり、人の温かさにふれたり、といった体験を、私たちは今後も欲求し続けるのではないでしょうか。

ただ、これまでのように、普段は味わえない非日常を求める旅ではなく、前出の事例、あるいはすでに各地で見られる体験型ツーリズムや暮らすような旅のスタイルなどからも分かるように、自分の日常とは違う価値観を体験する「異日常」の旅・観光にシフトしつつあると言えそうです。

観光は「地域の光を観ること」とよく言われますが、地域の光をどう観てもらうか、どう魅せるか、従来の観光の形にとらわれずに、今こそ地域の側が工夫していく時で、これからが地域の腕の見せ所ではないでしょうか。

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