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トピック11|2050年の「公共交通」はどうなる?

河合 啓太郎
(株)トーニチコンサルタント 本社事業本部計画本部計画調査部

鉄道やバス等の公共交通は、高齢者や子供連れをはじめ障害を持たれる方など、移動が制約される方にとって、自立して生活するためには欠かせない移動手段です。
2050年、これから30年後の公共交通は、私たちの生活にどこまで寄り添うことができるのでしょうか。

公共交通を取り巻く厳しい環境

公共交通を取り巻く環境は、地域や事業によって一概に同じ傾向にあるとは言えませんが、例えば、バス交通は、輸送人員の減少、運転手さんの担い手不足の深刻化に加え、コロナ渦の中、公衆衛生にも配慮した運行サービスが求められるなど、地域を支える公共交通事業者を取り巻く環境が一段と厳しさを増しています。

図1_バス輸送の推移

図 一般路線バスの輸送人員(三大都市圏とその他地域)と営業収入の推移
出典:令和2年版国土交通白書

新たなモビリティサービスの台頭

近年では、公共交通という枠を超えて、MaaS(Mobility as a Service)や新型輸送サービス等、新たなモビリティサービスの実験や社会実装が進んでいます。

公共交通ではカバーできない、あるいは公共交通の代替・補完するサービスが提供され始めれば、従来の公共交通の維持・確保の取り組みに組み込めれば、車の運転ができないと“移動できない”という地域が多数発生、という最悪の事態は避けられるのでは?、と期待してしまいます。(地域によって状況は様々ですので、楽観的過ぎるかもしれません。)

図2_新型輸送サービス例

図 新型輸送サービスの例
出典:国土交通省

“移動”というハードルは下げられる?

移動は、特に不自由なく移動できる人にとっては、できれば楽にストレスなく過ごしたいものです。

一方で、高齢者や子供連れをはじめ障害を持たれる方など、移動が制約される方にとって、生活の中の移動はどうでしょうか。駅やバス停まで歩く、乗り物に乗る、降りる、乗り換えるといった1つ1つの動作に制約(ハードル)が生じるのを仕方ないと我慢したり、一連の移動の中でそういったハードルが積み重なり、活動すること自体を諦めたりしていないでしょうか。

(移動のバリアを感じない移動のイメージ)

図3_P1130005_大劇場前

写真 歩きが中心となる街中でも、歩行支援となる公共交通がある

図4_P1120452

写真 介助なしで乗降できるバスあり、自立して移動ができる

交通機関や建物の1つ1つは、ハード面のバリアフリー対策のほか、心のバリアフリー対策などが進んでいます。しかし、出発地から目的地まで、道路、施設、交通機関を包括して一連の移動を考えたとき、バリアはまだまだ多くあると感じます。

30年後の公共交通を考えたとき、公共交通サービスをどう維持・確保し続けるかという最重要課題に向き合い、また新たなモビリティサービスにより移動の選択肢が増え、移動の自由度が増すことへ期待しつつ、公共交通という存在が、利用をためらわずに、当たり前に利用できる、誰もの生活に必要不可欠な身近な存在であってもらうことが、コンパクト+ネットワークのネットワークをつくり上げる上で重要な要素になると考えます。

さらに、自家用車がなくても、移動をためらい活動自体を諦めず、移動の苦痛を我慢しない“誰もが移動しやすい環境”を創る上で、従来の鉄道やバス等の公共交通は、私たちの生活にどう寄り添えばよいでしょうか。

将来を考えるためのヒント

移動のバリアを少しでも取り除いてくれるツールとして、東京メトロではベビーカー利用者の不安を取り除くWebサービス「ベビーメトロ」を提供。移動時の安心を与えてくれるサービスです。筆者の実体験からしても、例えば、使い慣れない駅で、降りてからエレベーターを探してうろうろするよりも、予め場所が分かるのは安心感に繋がります。

現在は自線内のみのサービスのようですが、1事業者が提供するサービスで終わってしまうのはもったいないと感じます。かゆいところに手が届くような情報サービスが、日常的に得られる将来が待ち遠しいです。

図5_ベビーメトロ

図 東京地下鉄株式会社ニュースリリース(2019年7月29日)
https://www.tokyometro.jp/news/images_h/metroNews20190726_72.pdf

MaaSの概念を取り入れた例として、障がい者、高齢者や訪日外国人など、さまざまな理由で移動にためらいのある人々に提供する移動サービス「Universal MaaS」の社会実装に向けた取り組みが始まっています。

このサービスは、発案者の実体験と活動から生まれたものと聞いています。移動というハードルの高さを思い知ったと同時に、世の中にはまだまだ移動にハードルを抱える人が大勢いらっしゃるのだと思うと、将来やらなければならないことは沢山あると感じます。

図6_ユニバーサルMaaS-20200207-002

図 Universal MaaSのロゴ
出典:共同リリース2020年2月7日 全日本空輸(株),京浜急行電鉄(株) ,横須賀市,横浜国立大学

上記の取り組みから、MaaSという新たなサービスの潜在的な可能性を知りましたが、国土交通省でも研究会※を立ち上げたようですので、今後の議論に注目です。

以上はいずれも情報提供という視点からのヒントでしたが、
最後に、一般の路線バスの乗り降りをしやすくする取り組みを紹介します。

これは、バスの扉と歩道との隙間や段差を小さくし、車いすやベビーカーの利用者、高齢者がより安全にバスを乗り降りできる縁石をバス停に設置する取り組みです。欧州や日本の一部の都市ではすでに導入されていますが、バスは、鉄道と違って、乗り降りがしづらく大変、という常識を覆してくれる取り組みといえるかもしれません。

図7_縁石写真ナント1

写真 タイヤを寄せやすい斜め形状の縁石(仏ナント)

図8_縁石写真ナント2

写真 タイヤを寄せやすい斜め形状の縁石(仏ナント)

他にも、身近な施設やサービスを少し工夫し、それを1つ1つ積み重ねることで、移動のバリアを下げ、私たちの生活に寄り添う公共交通になっていくのではないでしょうか。


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